空蝉

ひさかはる

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 昼前の夏はあなたを殺さず蝉たちを唄わせていた。

 当てが外れ、暑く蒸らされたに過ぎない生きた身体が布団を半分脱ぎ、女の叢は恥を知らず、黒々とカメラに向いていた。こめかみに残る悲しみの跡が肌を突っ張らせ、泣きながら求めた昨夜が情けなく、可笑しみさえも映されていると想えば無意識とはいえ、眠りに紛れるものではない命の本能めいたものが茫と下腹部に灯った。

 赧くする事を忘れた頬はひとつ棄てた羞恥をあなたに自覚させ、残る半分の布団を剥ぎ、カメラの前で素裸になる素直さを代償として与えた。

 カメラに臀部を向け、ベッドのうえで四つん這いになり、陰へ指を運んだ。冷房の切れた熱気が直接的にあなたを刺激し、ただの動物の牝と成り果てた腰は激しくなり、指を浅く深く呑み込むことを繰り返し、空いたほうの手の指は口内の唾液で濡らされた。

 ふたつの手が異なる熱に侵され、性感は温みを帯びあなたを啼かせた。

 蝉の間を割る自身の声にあげられ、鼓膜は鋭さを増し、道をゆく車や靴音も大きく響き、耳を寄せられれば捉えられるかもしれない窓外の人間たちはあなたをまたひとつ濡らす材となった。

 後ろから男に頭を押さえつけられているかのような圧迫を枕に感じながら無理やり顔を横へ向け、指を咥える姿勢がふたりの男に嬲られている女を想わせると、三人目の男がビデオカメラを手に撮影している画もあなたに浮かんだ。

 男のない家と知られればこういった事もあり得るのだろうか、と想えば自ら望んだものではない色事に、十全に成り立つ言い訳に、形のうえで厭がるであろう自身の嘘に、身体が覚える悦びが実体を伴ってあなたを覆った。

 記憶にある男たちの顔が入れ替わり立ち替わりあなたを犯す。

 その度に指は動きを変え、陰のなかを蠢いた。

 嘔吐かせるよう口内の指を深くさせれば悦びに視界が潤んだ。

 胸をしだく手が、ひとつ足りない事が惜しく、幻想のなかで目一杯の痛みでもって歪む乳房を描いた。

 犯されながらもやむ事のない濡れを嗤う男たちの声。

 その幻聴にあなたの内腿は締まり、頭は白くなった。

 それでもやめずに動かせ続ける指に、夫の顔はなかった。

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