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第4章 暗中の剣
第6話 儚い願い
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自分の立場がどういうものか、自分が一番分かっている。その性格もだ。
夏侯淵。
それは、父の名であり、この魏の建国を成し遂げた功臣、名将として大きく名を馳せていた。
幼い頃より、何よりの誇りであった。
父に恥じぬように、戦場でも必死に命を賭けて来た。
全ては、父を始めとした、多くの将兵たちが命を捨てて築きあげたこの国の、未来と繁栄の為に。
しかし今、国政は司馬懿の手に落ちた。
正面から戦いを挑まず、命を捨てる危険も冒さず、陰湿で狡猾な手段を用いて、政権を完全に掌握したのだ。
これが、曹魏の建国時から重臣として仕えていた男のやる事か。忠義は、正義は、奴の胸に無いのか。
曹爽の政治が悪かったなら、曹爽のみを罷免するだけにして、後を夏侯玄に任せればよかった。
何も、曹爽とその一族、側近までの全員を処刑する必要は無い。
夏侯玄も、罪はないのに軟禁している有様である。
これは、皇族や曹氏の血筋を排除し、司馬の血脈で政権を固める事を宣言しているも同じである。
現に、そうなっていた。
陛下を救わなければならない。
このままでは、ただの飾りに過ぎない存在に成り果てる。あまりにそれは痛ましく、この上ない屈辱であった。
そして夏侯玄は従弟でもある。
彼が罪を受ければ、間違いなく、その謀略の手は自分の身にも届く。
「また、難しい顔をされておいでです」
「振り上げた剣を、どこへ下ろせば良いのか分からない」
「私には、その心中を推し量ることが出来ません。されど、将軍には生きていて欲しいと、願わずにはいられないのです」
「俺は武人だ、戦場で絶対は無い。むしろ、生きようとした者から死ぬ」
「だからこそです。分不相応な事を申し上げていることは承知です。ですが、戦場に赴けない女は、愛する人に帰ってきて欲しいと常に願っております」
「愛する? 俺をか?」
「あの日お救い頂いた時より、ずっと」
常に怯えて、気弱な性格であるのに、胸を貫かんばかりの強き眼差しであった。
愛おしくて、たまらなくなった。
いきなり、その小さな体を抱き上げる。
「苦しくはないか」
「え、えぇ、もう、大丈夫です」
「そうか。ならば今晩は、俺に付き合ってくれ」
「な、私なんかでは、ご迷惑をお掛けしてしまいます!」
「俺がお前を抱きたいのだ」
まだ、女は困惑していた。
その軽い体を抱えて奥の居室へと進みながら、従者へ、吐瀉の掃除を命じた。
「本当に、よろしいのですか?」
「これが最後だ」
男の───夏侯覇の言葉で全てを察した女は、涙を堪えて、強くその首元へと抱き着いた。
朝、目を覚ますと、女の姿は既に無かった。
夏侯淵。
それは、父の名であり、この魏の建国を成し遂げた功臣、名将として大きく名を馳せていた。
幼い頃より、何よりの誇りであった。
父に恥じぬように、戦場でも必死に命を賭けて来た。
全ては、父を始めとした、多くの将兵たちが命を捨てて築きあげたこの国の、未来と繁栄の為に。
しかし今、国政は司馬懿の手に落ちた。
正面から戦いを挑まず、命を捨てる危険も冒さず、陰湿で狡猾な手段を用いて、政権を完全に掌握したのだ。
これが、曹魏の建国時から重臣として仕えていた男のやる事か。忠義は、正義は、奴の胸に無いのか。
曹爽の政治が悪かったなら、曹爽のみを罷免するだけにして、後を夏侯玄に任せればよかった。
何も、曹爽とその一族、側近までの全員を処刑する必要は無い。
夏侯玄も、罪はないのに軟禁している有様である。
これは、皇族や曹氏の血筋を排除し、司馬の血脈で政権を固める事を宣言しているも同じである。
現に、そうなっていた。
陛下を救わなければならない。
このままでは、ただの飾りに過ぎない存在に成り果てる。あまりにそれは痛ましく、この上ない屈辱であった。
そして夏侯玄は従弟でもある。
彼が罪を受ければ、間違いなく、その謀略の手は自分の身にも届く。
「また、難しい顔をされておいでです」
「振り上げた剣を、どこへ下ろせば良いのか分からない」
「私には、その心中を推し量ることが出来ません。されど、将軍には生きていて欲しいと、願わずにはいられないのです」
「俺は武人だ、戦場で絶対は無い。むしろ、生きようとした者から死ぬ」
「だからこそです。分不相応な事を申し上げていることは承知です。ですが、戦場に赴けない女は、愛する人に帰ってきて欲しいと常に願っております」
「愛する? 俺をか?」
「あの日お救い頂いた時より、ずっと」
常に怯えて、気弱な性格であるのに、胸を貫かんばかりの強き眼差しであった。
愛おしくて、たまらなくなった。
いきなり、その小さな体を抱き上げる。
「苦しくはないか」
「え、えぇ、もう、大丈夫です」
「そうか。ならば今晩は、俺に付き合ってくれ」
「な、私なんかでは、ご迷惑をお掛けしてしまいます!」
「俺がお前を抱きたいのだ」
まだ、女は困惑していた。
その軽い体を抱えて奥の居室へと進みながら、従者へ、吐瀉の掃除を命じた。
「本当に、よろしいのですか?」
「これが最後だ」
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朝、目を覚ますと、女の姿は既に無かった。
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