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第4章 暗中の剣
第7話 禍根
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魏に、大きな衝撃が走った。
夏侯覇の挙兵。
司馬一族を討伐し、天子を救う。そういった名目での挙兵であった。
確かに夏侯覇は、以前から、はっきりと曹派の人間という立場を取っていた。
しかし、政治的な闘争に加わったことは一度も無い。
あくまで曹氏の派閥を宣言をしているだけであり、政治基盤を持たないならと、特に司馬派からも問題視はされていなかったのだ。
いや、迂闊に手を出せなかった、といった方が正しいのかもしれない。
夏侯覇は建国の功臣である夏侯淵の嫡子であり、本人の非凡な武勇もあって、将兵からかなりの支持を得ていた。
無暗に謀略などで身動きを封じてしまうと、軍部から大きな反発を呼びかねない。
官僚のほとんどは司馬派に靡いたが、軍は依然として曹派の色が強い。
何としても、求心力の高い夏侯覇を懐柔したいと思っていた、そんな矢先の出来事である。
地位も、戦功も有り、圧力も受けていない中での挙兵は誰しもが耳を疑う出来事であり、理解すら出来なかった。
ただひたすらに「正義」のみを胸に抱えた、高潔すぎる程の夏侯覇の心中を、誰も汲み取れなかったのだ。
「夏侯将軍! 貴殿が思っている様な邪な企みなど、何も起こってはいない! 話し合えば、分かって貰えると思う!」
「剣は既に振り上げられた。ここから再び、鞘に収まるであろうや」
「収めなければならないと、私は思う! 貴殿は父子共にこの国の功臣である。それに、たった数千の部隊で、何が出来るというのだ!」
郭淮は、声を荒げた。
この突発的な暴挙が、あまりにも馬鹿馬鹿しいものに思えてならなかったからだ。
夏侯覇の兵力は、僅か三千程でしかない。これで長安、及び洛陽を攻め落とそうと言うのだ。
無駄だ。頭がおかしくなったのか。
二万の兵を率い、郭淮はその無駄を悟らせようとしたが、それでも夏侯覇の戦意には一切の陰りが無い。
本気で、僅かな兵力で、この国を相手取るつもりなのだ。
「説得は無駄でしょう」
横に進み出たのは、陳泰である。
この夏侯覇の暴挙を、この場において察する事が出来た、ただ一人の将だ。
「馬鹿なっ、たった三千で何が出来るというのだ」
「生きるか死ぬか、成功するか否か、そういう事では無いのです。曲げられぬ正義、夏侯将軍にあるのは、それだけです。その正義の前では、死すら意味を成しますまい」
「司馬懿殿を誅殺する事が、正義だとでも?」
「魏という国の在り様を守る事が、正義です」
悪政を繰り返し、民を苦しめたのは、曹爽だった。
司馬懿は、そんな国政を必死に立て直し、民を安んじた。
郭淮の中では、曹爽こそ悪であり、司馬懿は正であった。
国の在り方や血統というものが、果たして一体何になるというのだ。
血こそが正しければ、漢は滅びなかった。
人民を苦しめたから滅びた。簡単な道理である。
ましてや司馬懿は結果として、衰退の道を進む魏を助けたのだ。
「何故、蜀漢が興り、圧倒的な国力差を前にしてもなお、北伐を敢行し続けるのか。それをお考え下され」
「……なんとなく、分かった気がする。そして、私が今やらねばならないことも」
郭淮が右手を上げると、二万の兵はたちどころに陣形を変え、戦意を剥き出しにした。
幾重にもなる、魚鱗の陣だ。
事が起こってしまった以上、禍根を根こそぎから断つ。
この戦は、後の憂いを断つ為の戦なのだと、覚悟を決めた。
「敵は寡兵といえど、あの夏侯将軍の率いる兵だ。気を抜くな」
夏侯覇の挙兵。
司馬一族を討伐し、天子を救う。そういった名目での挙兵であった。
確かに夏侯覇は、以前から、はっきりと曹派の人間という立場を取っていた。
しかし、政治的な闘争に加わったことは一度も無い。
あくまで曹氏の派閥を宣言をしているだけであり、政治基盤を持たないならと、特に司馬派からも問題視はされていなかったのだ。
いや、迂闊に手を出せなかった、といった方が正しいのかもしれない。
夏侯覇は建国の功臣である夏侯淵の嫡子であり、本人の非凡な武勇もあって、将兵からかなりの支持を得ていた。
無暗に謀略などで身動きを封じてしまうと、軍部から大きな反発を呼びかねない。
官僚のほとんどは司馬派に靡いたが、軍は依然として曹派の色が強い。
何としても、求心力の高い夏侯覇を懐柔したいと思っていた、そんな矢先の出来事である。
地位も、戦功も有り、圧力も受けていない中での挙兵は誰しもが耳を疑う出来事であり、理解すら出来なかった。
ただひたすらに「正義」のみを胸に抱えた、高潔すぎる程の夏侯覇の心中を、誰も汲み取れなかったのだ。
「夏侯将軍! 貴殿が思っている様な邪な企みなど、何も起こってはいない! 話し合えば、分かって貰えると思う!」
「剣は既に振り上げられた。ここから再び、鞘に収まるであろうや」
「収めなければならないと、私は思う! 貴殿は父子共にこの国の功臣である。それに、たった数千の部隊で、何が出来るというのだ!」
郭淮は、声を荒げた。
この突発的な暴挙が、あまりにも馬鹿馬鹿しいものに思えてならなかったからだ。
夏侯覇の兵力は、僅か三千程でしかない。これで長安、及び洛陽を攻め落とそうと言うのだ。
無駄だ。頭がおかしくなったのか。
二万の兵を率い、郭淮はその無駄を悟らせようとしたが、それでも夏侯覇の戦意には一切の陰りが無い。
本気で、僅かな兵力で、この国を相手取るつもりなのだ。
「説得は無駄でしょう」
横に進み出たのは、陳泰である。
この夏侯覇の暴挙を、この場において察する事が出来た、ただ一人の将だ。
「馬鹿なっ、たった三千で何が出来るというのだ」
「生きるか死ぬか、成功するか否か、そういう事では無いのです。曲げられぬ正義、夏侯将軍にあるのは、それだけです。その正義の前では、死すら意味を成しますまい」
「司馬懿殿を誅殺する事が、正義だとでも?」
「魏という国の在り様を守る事が、正義です」
悪政を繰り返し、民を苦しめたのは、曹爽だった。
司馬懿は、そんな国政を必死に立て直し、民を安んじた。
郭淮の中では、曹爽こそ悪であり、司馬懿は正であった。
国の在り方や血統というものが、果たして一体何になるというのだ。
血こそが正しければ、漢は滅びなかった。
人民を苦しめたから滅びた。簡単な道理である。
ましてや司馬懿は結果として、衰退の道を進む魏を助けたのだ。
「何故、蜀漢が興り、圧倒的な国力差を前にしてもなお、北伐を敢行し続けるのか。それをお考え下され」
「……なんとなく、分かった気がする。そして、私が今やらねばならないことも」
郭淮が右手を上げると、二万の兵はたちどころに陣形を変え、戦意を剥き出しにした。
幾重にもなる、魚鱗の陣だ。
事が起こってしまった以上、禍根を根こそぎから断つ。
この戦は、後の憂いを断つ為の戦なのだと、覚悟を決めた。
「敵は寡兵といえど、あの夏侯将軍の率いる兵だ。気を抜くな」
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