魔法使いの薬瓶

貴船きよの

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ビンドの収穫祭編

おまけの小瓶(R18)‐1

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 ルウが店となっている離れの戸締まりをして空を見上げると、西日でほのかなピンク色に染まっていた。

 母屋へと歩きながら、ルウは隣にいる人物に言った。

「こんなに詳細な薬草の分布図がいただけて助かりました。この近くでもたくさん採れるんですね」

 一枚の紙を眺めるルウの隣を歩くのは、トランクを手に提げた訪問診療帰りのフェンネルだった。

「可愛い子に喜んでもらえて、僕も嬉しいよ」

 ウインクするフェンネルに、ルウは呆れて言った。

「フェンネルさん、僕のことを可愛いと言うのはやめてください。この前も子犬みたいだとか言って、僕としては心外です」

「ごめんごめん。可愛いものを見ると、僕の口が勝手に話し出してしまうんだよね。ははははっ。……ところで、次の休みはいつだい? 僕と遊びに行かない?」

 話が通じていない様子のフェンネルに、ルウはため息をついた。

「……フェンネルさんのお口は、一度縫い合わせてみたほうがよさそうですね」

 そう言いながら、辿り着いた母屋の玄関の扉を開ける。

「おっと、本気で口を縫うような魔法は使わないでくれよ?」

 ルウの話を冗談だろうと思ったフェンネルだったが、目の前に現れた不機嫌なオーラを纏う人影に気づくと、冷や汗が噴き出した。

「うわああっ!」

「それ以上ルウを口説くつもりなら、俺がその魔法を使うぞ」

 扉が開けられた先には、周囲のものをすべて凍らせてしまいそうな形相をしたガルバナムが、腕組みをして立っていた。

「おお、怖い。地獄耳のお師匠様がいるから、この話はまた今度ね」

 フェンネルは、ガルバナムの顔を見るなり、ばつが悪そうに退いた。

「フェンネルさん、わざわざ届けてくださってありがとうございました」

 フェンネルは、ルウに向けて手を振って去っていった。

「あいつ、なんの用だったんだ?」

「これをいただいたんです」

 ルウが薬草の分布図を見せると、ガルバナムは言った。

「前にもなにか持ってこなかったか?」

「この前は、お裾分けだと言って白ニンジンを……、その前は、魔法薬用に精油をいただきました」

「どれもおまえに会うための口実だろう」

 ガルバナムは話を聞くだけで気に食わない気持ちが沸き上がってきたが、ルウは、

「そうでしょうか? 白ニンジンをスープにしたら甘くておいしかったですよね!」

 と、物は貰ってもフェンネルの好意だけは見事に響いていないようだった。

 ガルバナムは、気を取り直して言った。

「さっき、ルウに手紙が届いていたぞ」

 ルウがリビングに向かうと、テーブルの上に草花模様の封筒が置かれていた。

「この封筒は、おばあさまからですね」

 封筒には予想どおりディアの名が記されていて、ルウは、封を開けて手紙に目を通した。そして、少し経ってくすりと笑った。

「メルは、カーシーくんと王国ごっこをしているそうですよ。メルがお姫様で、カーシーくんが王子様になったみたいです。……ああ~、よかったぁ」

 ルウが心からの安堵を漏らすので、ガルバナムは苦笑した。

「そんなに心配していたのか」

「だ、だって、また師匠を王子様にと言われたら困りますからね! 師匠は、僕の……、ですから……」

 ルウは、自分で言いながら途中で恥ずかしくなり、頬を赤らめてもじもじと言葉じりをすぼめる。

 それを見ていたガルバナムは、突然、ルウの唇へとキスをした。

「ふぇっ! な、なんですか?」

 ガルバナムは、口の端を上げて、意地悪な笑みを浮かべていた。

「これは、小さい妹の言葉に動揺しなくなるように、俺がルウだけのものだとしっかりわからせないといけないな」

 ガルバナムはそう言うと、ルウをお姫様抱っこで担ぎ上げ、寝室へと直行した。

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