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8章

221話 真綿で締めろ

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 どういう物が売っているのか、どういう状況なのか、人員がどうなっているかを確認するのって結構大変なのよね。
 こういう時に探偵を雇うのがいいんだけど、良い奴が思いつかない。
 きっとうちのクランの連中に関しては顔が割れているだろうけど。そもそも全員が全員、そう言った探りに関しては弱いと言うか、自分の欲求に素直だし、隠し事は……いや、私をボコるって内緒にしていたってのはあったけど、それはまた別の話だ。

 つまりこういう時こそ、金の力と奴の力を使うのが正しい。
 毎回毎回、叩き潰してBANするってのも芸が無いし、クラン員に関してはあまり罪が無いと思う。聞いた話って感じだろうし、大本はやっぱりクランマスターの奴なんだよな。
 ガンナーの人口もマゾ難度だから多くはないが、一時期絶滅していた頃に比べりゃ数十倍は増えている。何て言うか物好きの多い連中だな。

「さて、どうしてくれようか」

 エルスタン東側から撤退し、中央広場に。
 これ以上の敵情視察ってのもクランに入らなきゃいけないだろう、トカゲとポンコツピンクを一度うちのクランから抜けさせて向こうに入れてスパイ紛いな事でもして貰う方が良いか?
 いや、ポンコツピンクは配信しているからがっつり私の顔や名前は残っている、トカゲ自体は闘技場のランク上位だから名前もクランも知られているから、行ったら行ったで揉めるな。そもそも施設の整っていない環境で銃器開発なんてやってられるかって言ってきそうだ。

「一番良いのは吸収合併で勢力拡大……って思ったけど、人数多いとめんどくせーから無しだな……」

 ベンチに座って、ふいーっと息を吐き出しながら空を仰ぐ。
 そういやこのゲーム、昼夜はあるけど天候の概念ってあんましないな。たまーに雨降ったり曇ったりはするけど。で、まあ天気何かよりも、うちの看板を真似した奴をどう相手するかってのが問題だっての。
 さっきの吸収合併は無しとして、同盟を無理やり組ませてうちの傀儡クランにするってのも手だな。
 もしそれをやるとしたら「アオメ」とやらの弱みを握って、ちらつかせるって所か。
 ただ、いきなりクラン解体までやってクラン員の恨みやらなんやらを買ってゲームがやりにくくなるとそれはそれで面倒くさい。
 
 なので可能な限り、恨みを買わず、クランの頭を潰しつつ、購入層を此方側に引っ張っていくと言うのが重要だろうな。
 とりあえず向こうのクランマスターの情報はいつもの連中に任せるとして、購入層をこっちに引っ張るのが重要ってところか。

「こういう時に便利なのがこいつらなんだよなあ」

 ウェスタンドアをばーんと開き、コンバットブーツのごつごつとした音を響かせながらカウンターに座り、すぐさま一杯。

「……その恰好、もうちょっとどうにかならないんですか?」
「ずっと不評じゃん、これ」

 可愛いのに、宇宙猫……。

「で、用件は」
「メアリーいる?ちょーっと、デリケートな話になるんだけど」
「今はレース場でギャンブル中ですね」
「何やってんだ、あいつは……」
「用件なら先に聞いておきますが?」

 相変わらずのバーテンダーと話をしつつ、グラスの氷をからからと転がす。
 氷ってどうやって作ってんだろうな、氷魔法があるからそれを使ったら保存できそうだけど、やっぱ各属性使える魔法職が欲しくなってくる。明らかに戦闘力じゃなくて便利要員としての扱い方だが。

「どっちにしろ個室で話したいから、待つわ」
「情報集めて稼ぐことは上手なんですが、賭け事に関しては弱いですからそろそろ戻って来ますよ」

 グラスを磨き整え、並べているのをちみちみと飲みながら眺めていると、私と同じようにウェスタンドアを思いっきり開けてずかずかと入ってジョッキでウィスキーをがぶ飲みし始めるのが一人。

「……お客さんですよ、マスター」
「ちょっと待ってね」

 メモ帳を出してがちゃがちゃと何かを入力していく。横でちらっとその内容を見たら、どうやら賭けレースに負けた額と、理由を書いたうえに、何が原因だったか書き込んでいる。

「どこぞのおっぱい忍者みたいに、当たったら悪い事が起きるジンクスでもあんじゃないの?」
「手堅い奴だったのに、最終コースでアウトに流れてそのまま落車なんてすると思わないって……くっそむかつくー!」

 素が出ているぞ、素が。

「はー、もー……で、何?」
「ちょっとデリケートな話」

 それじゃあと、奥の個室に入って対面で座る。

「情報って言うか、調べてほしい事があるのよ、それも何日か継続してだけど」
「そういう事を突いてうちのクランを脅したのは誰だったかしら」
「大丈夫よ、迷惑行為をさせないって……で、まあやってほしい事はね」

 つらつらとさっき自分が考えていた事を述べながら、黙って話を聞いてもらう。
 情報クランに頼むことは、抱えているガンナー職を例のパチモンクランに潜伏させるか、商品の情報を定期的にこっちに流してもらう事。
 二つ目はうちのクランの商品情報を流してもらう宣伝行為、こっちは砂丘と舎弟辺りにやって貰う方が良いかな、顔なじみだし。

「……例のパチモンクランね……おかしいと思ったのよ、向こうが分家だとしてもクランハウスの規模が小さいし、人数がかなり多いから」
「何だ、知ってたのか?」
「そりゃ、お得意様の商売敵だから、いつかうちに来ると思っていたのよ」

 ある程度の先見の目はあるのにギャンブルは弱いのか。
 逆にどれくらいスったのか気になってきた。

「で、幾ら?」
「結構掛かるわよ、定時報告に潜入捜査、情報提供料諸々……」

 頭の中の算盤を弾いているのか、唸りながら考え始めているので、すぱっと硬貨データを投げ渡す。
 色々とめんどくさいのでサクッと50万。

「足りる?」
「勿論」

 インベントリに硬貨データを仕舞うのも確認して、満足気に微笑んでくる。
 
「どのくらいで始末をつける予定?」
「何個か思いついたのがあるから、長くても一週間ってとこかしらねぇ、其れまでには叩き潰す」
「大分腸煮えくり返ってるって所かしら」
「いや、案外冷静なのよ、あいつらが言っていた言葉を借りたら『有名税』を払っている訳だけど、其れ以上の儲け話になりそうだから」

 上手くあいつらの抱えてる客層をこっちに引き込めれば、大分痛い目を見せられると踏んでいる。後は私が多少なりと表舞台に出るのと、人脈を使いこんで徹底的に追い詰める。
 特に人脈はだいぶ強いぞ、情報、鍛冶に裁縫、前線組に中堅組、2回目以前のイベント参加者はだいぶ私の事を知っているしな。
 此処に来て私の持っているリソースをつぎ込んで徹底的に叩くってのは初めてだな。
 
「私としては、なるべく余計な敵は増やしたくないのよ、ただ平和的にかつ冷酷に止めを刺したいってだけよ」

 これは本心。余計な事して周り敵だらけの上、肩身を狭くしてゲームしたくないのよ。
 但し、私に敵対した奴、てめーらはダメだ。

 大体の話も終わり、グラスの中を飲み切ってから席を立つ。次はうちのクラン員に一応の説明を入れて、余計な手出しはしない事を伝えて……。

「ああ、そうそう、そのTシャツ……ちょっとダサくない?」
「ストーカー行為されたって報告するぞクソが」

 私は気に入ってんだよ。
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