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20.フラグを折れるか?

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「お、お兄様、逃げましょう!」
私は光に包まれたままの状態で、お兄様の腕を引っ張った。

「……何を言っている」
お兄様が、ちょっと呆れた表情になった。
「この状態で、どこに逃げるというのだ」
「いやだって、こんなの神官に見つかったらマズいですよ! 聖女に間違われます!」
「……間違い?」

お兄様が残念なものを見る目で私を見た。
「間違いも何も、この光は、聖典にある記述そのままの奇跡ではないか。聖女を祝福する、神の光だ」
「いや違います、間違いです!」
私は素早く否定した。

「聖女とか何ふざけたことおっしゃってるんですかお兄様! 私が聖女のわけないじゃないですか!」
「…………何をもって神が聖女を選ばれるのか、それは人知の及ぶところではない」
遠まわしに、なんでおまえが聖女に選ばれるのか自分も訳わからないって言ってますね!

だが私にはわかる。
これは、間違いなく破滅フラグ。
スプラッターな血まみれエンドへと向かう、偽聖女設定が発動してしまったのだ!

「おお聖女さま……!」
老婦人が私に向かって両腕を差し出し、床に跪いたまま、うやうやしく拝礼する。
「お兄様、逃げましょうよう……」
私を拝む老婦人に、半泣きの私。
なにこのカオス。

お兄様も困ったように私を見ている。
「……ともかく、神官に判定してもらう必要がある。来い」
「なんの判定ですか、やめましょうよ……」
首を振る私にかまわず、お兄様が私の手を引いて椅子から立たせた。
私は半泣き状態で、お兄様にドナドナされていった。

ああ、どうしよう。
こんなキラキラ状態じゃ、神官だってうっかり聖女認定してしまうんじゃ?
あの猜疑心の塊みたいなお兄様でさえ、奇跡だの神の光だの言い出すくらいだし。
私だって、前世の記憶がなければ「ひょっとして私、聖女なんじゃ?」とかカン違いしてたかもしれない。

だが違う。
断じて違うのだ。

これは単なる破滅フラグ。
聖女を騙る罪人エンドへと向かう、血まみれロード通過点にすぎないのだ。

「……マリア、泣くのはやめろ」
ぐすぐす鼻をすする私に、お兄様が苦りきった表情で言った。
「なにをそんなに恐れている。聖女の判定が下されることの、何がイヤなのだ」
「……だ、だって、神官が間違って聖女認定して、その後で実は間違いでしたー!ってなったら、私、聖女を騙った罪で殺されます!」
「なにをバカなことを」
お兄様がため息をついた。

「もし神官が聖女認定を誤ったとしても……あり得ぬ話だが、ともかく、それでおまえの身に害が及ぶことなどない。おまえ自身が聖女を騙ったわけではないのだから。単に神官が間違えたというだけの話だ」
「……え?」
私は足を止め、お兄様の言葉を頭の中で反芻した。

神官の判定だから、私が聖女を騙ったことにはならない?
神官が間違っただけ?

「マリア?」
でもでも、考えてみればその通りかも。
私が言い出したわけじゃないもんね。
勝手にお兄様や神官が、こいつ聖女だ!って言ってるだけだから、私が聖女を騙ったことにはならない……、たしかに!

「お兄様、天才ですね!」
「…………」
おまえに褒められても嬉しくない、とお兄様の冷たい眼差しが雄弁に物語っているが、私の気分は一気に浮上した。

そうだよそうだよ、私はちゃんと否定したもんね!
もし神官まで私を聖女だなんだと言い出しても、きちんと言っておこう!
そうすれば、偽聖女断罪の破滅エンドからは、逃げられる……んじゃないかな?
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