あなたの明日に寄り添いたくて

豆狸

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第四話 ゲルダの目覚め

 痛いと感じる余裕もなく息が出来なくなっていく。
 首を絞めつける縄がどんどん食い込んで、意識を朦朧とさせていく。
 消えていく意識の片隅に浮かぶのは、赤い髪に黒い瞳の初恋の王子様ではなかった。

 薄い色の金髪に青みがかった灰色の瞳の私の護衛騎士。
 ごめんなさい、巻き込んでしまって。
 ずっと一緒にいてくれたのに。私が王太子妃となっても近衛騎士となって仕え続けると言ってくれたのに。私は貴方を守れなかった。

「……ごめんなさい……」
「どうなさったのですか、ゲルダお嬢様」

 気が付くと、私は王都にあるフィッシェ公爵家の別邸にいた。
 時間は朝、自分の部屋のベッドの上だ。
 声をかけてきたのは侍女で、護衛騎士のベルントではない。

「夢を……見たの。とても恐ろしい夢」

 侍女の顔に憐みの色が浮かぶ。
 学園に入学してからの殿下の変心は我が家のだれもが知っている。
 それによって、私がどんなに傷ついているかも。

 だけど……今のは本当に夢だったのだろうか。
 王宮の夜会で婚約破棄されて男爵令嬢が亡くなり、私が投獄された上に処刑されてしまう。
 私を助けようとしたベルントも魔獣に襲われて──

「ねえ、今日は何日だったかしら?」

 少し驚いた後で侍女は今日の日時を教えてくれた。
 それは、あの夜会から計算すると半年前、私が手紙に騙されて学園で男に襲われかけた日の日付だった。
 ベルントは休みを取っている。古代の魔導技術の研究をするという名目で、学園の禁書庫の閲覧許可を取ったと言っていた。夢のおかげで突然の休暇申請の理由がわかる。……私を守るためだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 王国全体に結界を張ったりするような、古代の魔導技術はすでに失われている。
 旧大陸には、その古代の魔導技術が残る遺跡都市があった。
 遠い昔に住人を喪った後も結界を張り続けて侵入者を拒んでいた太古の都だ。そこには古代魔導技術の真髄が眠っていると言われている。

 旧大陸の遺跡都市の結界が解けたのは、つい数十年前のことだった。
 こちらの大陸では技術は失われても燃料の補給方法は伝えられていたので維持出来ていた結界が、遺跡都市では燃料を補給する人間がいなくなったため限界を迎えて消えてしまったのである。
 旧大陸の遺跡都市が無人となったのは内部で住人達の争いがあったかららしい。そもそも、こちらの大陸に住む私達も遺跡都市での戦いを逃れて避難してきた人間の子孫だ。

 数年前旧大陸に出来た共和国は遺跡都市を囲む森を拓いて造られた。古代の魔導技術を手に入れたいと願うこの大陸の数多の王国が、他国に抜け駆けされないために作った国である。
 実際は独立国家というよりも各国の出先機関のようなものだ。
 それぞれの国直属の研究組織も派遣されていて、ベルントの友人も魔導騎士団内の遺跡都市調査班の一員として旧大陸へ渡っていると聞く。

 国に属する魔導騎士となったベルントが私の護衛騎士だったのは、私が王太子殿下の婚約者で準王族扱いだったからだ。
 嫁いで正式に王族となった後は、魔導騎士というだけでは彼を側に置くことは出来ない。
 近衛騎士として認められる必要があった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「おや、ゲルダお嬢様」

 学園の昼休み、私は禁書庫でベルントを見つけた。
 王太子殿下の婚約者で準王族扱いの私は、当日申請しても入室許可が出た。

「私が起きる前から籠っていたの?」
「はい。せっかくの入室許可ですから、存分に研究させていただこうと思いまして」

 ベルントが禁書庫で読んでいたのは古代魔導文字で書かれた古文書だった。
 王国の結界のことがあるので、十年間の妃教育で簡単な古代魔導文字なら学んだのだけれど、彼が読んでいる古文書で使われている古代魔導文字は複雑過ぎて、私にはとても読めそうにない。
 学園でも基礎的な古代魔導文字や魔導技術については教えてもらえるのだが、魔導騎士になれるほどの知識を得るには本人の研鑚が必要だ。

 その知識があるから、魔導騎士は古代から王国に伝わる魔導武器を操って魔獣を駆逐することが出来るのだ。
 彼らに与えられる魔導武器は、古代魔導文字や魔導技術に対しての深い知識と柔軟な応用力がなければ作動すら出来ない。
 私の護衛騎士をしているベルントは魔導騎士と認められていても予備役扱いで、魔導武器は支給されていなかった。

 魔導武器を持っていたら、ベルントは下水道の魔獣に勝てたのかしら。
 いいえ、あれはただの夢……夢よね?

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