9 / 15
9・恩返しです!② 【フレデリクEND】
しおりを挟む
「ゴー!」
「ありがとう、ゴーちゃん」
ゴーちゃんから受け取った魔銃の外装に変換水晶を埋めていきます。
「上部には迷宮の魔力を吸収するための一番大きい水晶。迷宮の魔力で底上げすれば使用者の魔力は少なくて済みますね。それから各属性別の変換水晶を埋め込んで、魔獣に合わせた攻撃魔法を放てるようにしましょう。……うん、完成です」
「ゴー!」
わたしは結界を解除して、天幕の外に出ました。
ここは迷宮のマルディ区域。地上ではお祭りの真っ最中です。
「お待たせしました、フレデリクさん」
わたしが言うと、外で食事の用意をしてくれていたフレデリクさんが微笑みます。
孤児院にいたころは厨房の手伝いが一番好きだったというフレデリクさんは、とっても料理が得意です。
彼は聖騎士団の団長に相応しい銀の鎧姿です。
腰の剣はわたしが納品した付与効果付きのものでした。
結界が切れて立ち入り禁止になっている迷宮に入れたのは、彼が大神官様に頼んでくれたからです。
隣のメルクルディ区域では、選ばれた七名の聖騎士と神官が調査しながら結界を張る作業をしています。
本当は彼もそちらへ行く予定でした。
お祭りの初日だけお休みだったそうです。
ガスパールさんは同行していません。
お酒の飲み過ぎで内臓に腫瘍ができていたので、大神殿に併設された治療院に入院しています。
ライフポーションも回復魔法も腫瘍には効きません。腫瘍も元気にしてしまうからです。
早くリュシーさんを助けて、ふたりを会わせてあげたいです。
「聖騎士団にも魔銃を使うものがいるのですが、そのような意匠のものは初めて見ました」
「聖騎士さんにも錬金術師がいるんですか?」
「いいえ。魔法使いなんですが、MPの消費量を抑えるために魔銃を使っているんです」
「なるほど。わたしが考案したこの魔銃なら、さらにMP消費量を抑えられますよ」
「ゴー♪」
「それはすごいですね。……では、食事をしたら十層に降りましょうか」
今いるのは第九層です。ここまで三日かかりました。
前に来た第四層よりも熱く、広い気がします。赤い荒野を流れる大河の水は、激しく燃え盛っています。
ところどころで盛り上がっている岩山も第四層のものより険しい気がしました。
ゴーちゃんにパンを焼いてもらって、フレデリクさんの作ってくれたスープと一緒に食べてから、わたし達は下へ降りました。
迷宮は生きていて、結界で封じていない限り階段の場所や階層ごとの気候は変わっていきます。
魔獣の分布もです。
幸い結界が切れて一週間以内だったので、階段の位置は結界が張られている間に大神殿が収集した情報と同じままでした。
第十層は最下層とも呼ばれています。神殿が結界を張るのはこの階層までだからです。
神殿は魔獣を倒したり素材を採取したりはせず、外周を辿って結界を張っていきます。
ほかの区域からの魔獣流入を防ぐためなので、ほかの区域と接していない部分には張っていません。
「ぐおおぉぉぉっ!」
西のほうから叫び声が響いてきました。
第十層が震えます。
フレデリクさんが真剣な顔で言いました。
「ガスパールさんがかけていた眠りの魔法が解けたのでしょう」
ガスパールさんが結界を張る前から、ドラゴンは建物の残骸からは出てこなかったそうです。ドワーフやエルフのように迷宮に棲みついて研究をしていた錬金術師の家の跡だったのでしょうか。ただし外からだと攻撃も通りません。
「エメさん大丈夫ですか? 無理はしなくていいですよ。さっき話した騎士団員に魔銃の使い方を教えてもらったこともあります。その魔銃をお預かりして、私がひとりで行くという手もあります」
フレデリクさんがそう言うのは、リュシーさんとガスパールさんが故郷の村の恩人だと話したからかもしれません。
ゴーレムを止めてもリュシーさんが助からないという最悪の状況を考えているのでしょう。実際一年は長いです。
でもわたしは諦めるつもりはありません。
「この魔銃は試作品なので、わたしにしか扱えません」
「そうですか……」
「ゴーレムの心臓は体の奥にあるので手足は落としてもらってかまいません。隙を見てわたしが心臓を撃ち抜きます」
フレデリクさんが名剣士だということは、この三日でわかっています。
魔銃は彼が倒してくれた魔獣の素材で作りました。
最初はドワーフから魔鉱を買い取って作るつもりだったのですが、手に入った素材のランクが高かったので変更したのです。
ドワーフに会いに行って交渉していたら時間がかかっていたでしょうから、ちょうど良かったと思います。
「そのときリュシーさんまで撃ってしまっては本末転倒なので、ゴーちゃんはフレデリクさんが斬った切り口からドラゴンの体を剥がして、中身がわかるようにしてくださいね」
「ゴー!」
叫び声のした方へ向かっていく途中、何匹かの魔獣と遭遇しました。
戦う必要はありませんでした。
怯えて動かなかったからです。叫び声の威力でしょう。
切り立った岩山の向こうに、赤い炎が見えました。
それはわたし達が探していた真っ赤なドラゴンの姿でした。
そして──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ドラゴンゴーレム退治から、一週間が過ぎました。
リュシーさんは無事です。
だけど一年間ゴーレムの中で眠っていたので、体が弱っていました。
今はガスパールさんと一緒に治療院で療養中です。
ガスパールさんがドラゴンを眠らせ続けたことが良い結果につながったものと思われます。
「ゴー!」
「お掃除終わりましたか? わたしもカウンターの片付け終わりましたよ」
お祭りは終わり、冒険都市ラビラントは普段の姿を取り戻しています。
冒険者さんは解放されたメルクルディへ潜るため、『赤の止まり木』にポーション類や魔具を買いに来てくれます。
来月もちゃんと金貨一枚払えそうです。金貨三十枚でも大丈夫そうな気がします。
扉を叩く音がしました。
「エメさん、迎えに来ました」
フレデリクさんです。今日はふたりでリュシーさん達のお見舞いへ行くのです。
迷宮で三日間一緒に過ごしたこともあって、フレデリクさんとはとても仲良くなれた気がします。
騎士でもいい人はいるのです。作ってくれた料理もすごく美味しかったです。
わたしはゴーちゃんと一緒に店を出ました。
「リュシーさん達が退院したらお祝いに贈ろうと思って、今指輪を作っているんです」
お祭りのときの指輪は初日で完売しました。
結構高値をつけていたのに、ありがたいことです。
迷宮へ行っていなければ追加も作れたのですが……それは考えても仕方のないことですね。たぶんあのときでなければ、リュシーさんは助けられませんでした。
「いいですね。そういえばエメさん、迷宮で作った魔銃の販売許可が出ましたよ。迷宮の魔力を吸収して威力を増す代わり、外では強い攻撃ができないところが認可の決め手だったようです。迷宮の外で暴れる人もいますからね」
わたし個人が使うのには許可はいりません。
「良かったです。でも……迷宮で採取したランクの高い素材で作っているので、量産は難しいかもしれません」
「ゴー?」
「迷宮なら私が同行しますよ」
「いいんですか?」
「ええ。護衛料も結構です」
「それはいけませんよ」
「いいんです。……私にとっては、あなたと過ごせる時間が報酬なので……」
「え?」
「ゴ?」
よく聞こえなかったので聞き返すと、フレデリクさんはどこか照れているような笑顔で言いました。
「なんでもありません。いえ、エメさんがこの町に来てくれて良かった、と言ったんです」
「わたしも良かったです。リュシーさん達と再会できたし、フレデリクさんとも会えました」
「ゴ!」
「ゴーちゃんも創れたし」
「ゴゴー♪」
「はい。本当に良かったです」
フレデリクさんのエメラルドの瞳で見つめられたわたしは、なんとなく気恥ずかしくなって俯きました。
彼と過ごす時間が、なんだかとても幸せに感じる今日この頃です。
【フレデリクEND】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【ドーナツ】/【指輪型の護符】
「ドーナツを作ることにします」
「わかりました。何個くらい作れそうですか? それに合わせて材料を用意します」
「ゴー!」
わたしとゴーちゃんとフレデリクさんは、頭を突き合わせて話を煮詰めました。
ドーナツ自体はゴーちゃんに助けてもらえばすぐできますが、どうせなら揚げたての味を楽しんでもらいたいので、保温効果のあるお皿でも作って見ましょうか。
お師匠様にいただいた粘土で陶器のお皿を作って、呪文を刻んだ魔鉱を埋め込んでみたらどうかしら。
「ありがとう、ゴーちゃん」
ゴーちゃんから受け取った魔銃の外装に変換水晶を埋めていきます。
「上部には迷宮の魔力を吸収するための一番大きい水晶。迷宮の魔力で底上げすれば使用者の魔力は少なくて済みますね。それから各属性別の変換水晶を埋め込んで、魔獣に合わせた攻撃魔法を放てるようにしましょう。……うん、完成です」
「ゴー!」
わたしは結界を解除して、天幕の外に出ました。
ここは迷宮のマルディ区域。地上ではお祭りの真っ最中です。
「お待たせしました、フレデリクさん」
わたしが言うと、外で食事の用意をしてくれていたフレデリクさんが微笑みます。
孤児院にいたころは厨房の手伝いが一番好きだったというフレデリクさんは、とっても料理が得意です。
彼は聖騎士団の団長に相応しい銀の鎧姿です。
腰の剣はわたしが納品した付与効果付きのものでした。
結界が切れて立ち入り禁止になっている迷宮に入れたのは、彼が大神官様に頼んでくれたからです。
隣のメルクルディ区域では、選ばれた七名の聖騎士と神官が調査しながら結界を張る作業をしています。
本当は彼もそちらへ行く予定でした。
お祭りの初日だけお休みだったそうです。
ガスパールさんは同行していません。
お酒の飲み過ぎで内臓に腫瘍ができていたので、大神殿に併設された治療院に入院しています。
ライフポーションも回復魔法も腫瘍には効きません。腫瘍も元気にしてしまうからです。
早くリュシーさんを助けて、ふたりを会わせてあげたいです。
「聖騎士団にも魔銃を使うものがいるのですが、そのような意匠のものは初めて見ました」
「聖騎士さんにも錬金術師がいるんですか?」
「いいえ。魔法使いなんですが、MPの消費量を抑えるために魔銃を使っているんです」
「なるほど。わたしが考案したこの魔銃なら、さらにMP消費量を抑えられますよ」
「ゴー♪」
「それはすごいですね。……では、食事をしたら十層に降りましょうか」
今いるのは第九層です。ここまで三日かかりました。
前に来た第四層よりも熱く、広い気がします。赤い荒野を流れる大河の水は、激しく燃え盛っています。
ところどころで盛り上がっている岩山も第四層のものより険しい気がしました。
ゴーちゃんにパンを焼いてもらって、フレデリクさんの作ってくれたスープと一緒に食べてから、わたし達は下へ降りました。
迷宮は生きていて、結界で封じていない限り階段の場所や階層ごとの気候は変わっていきます。
魔獣の分布もです。
幸い結界が切れて一週間以内だったので、階段の位置は結界が張られている間に大神殿が収集した情報と同じままでした。
第十層は最下層とも呼ばれています。神殿が結界を張るのはこの階層までだからです。
神殿は魔獣を倒したり素材を採取したりはせず、外周を辿って結界を張っていきます。
ほかの区域からの魔獣流入を防ぐためなので、ほかの区域と接していない部分には張っていません。
「ぐおおぉぉぉっ!」
西のほうから叫び声が響いてきました。
第十層が震えます。
フレデリクさんが真剣な顔で言いました。
「ガスパールさんがかけていた眠りの魔法が解けたのでしょう」
ガスパールさんが結界を張る前から、ドラゴンは建物の残骸からは出てこなかったそうです。ドワーフやエルフのように迷宮に棲みついて研究をしていた錬金術師の家の跡だったのでしょうか。ただし外からだと攻撃も通りません。
「エメさん大丈夫ですか? 無理はしなくていいですよ。さっき話した騎士団員に魔銃の使い方を教えてもらったこともあります。その魔銃をお預かりして、私がひとりで行くという手もあります」
フレデリクさんがそう言うのは、リュシーさんとガスパールさんが故郷の村の恩人だと話したからかもしれません。
ゴーレムを止めてもリュシーさんが助からないという最悪の状況を考えているのでしょう。実際一年は長いです。
でもわたしは諦めるつもりはありません。
「この魔銃は試作品なので、わたしにしか扱えません」
「そうですか……」
「ゴーレムの心臓は体の奥にあるので手足は落としてもらってかまいません。隙を見てわたしが心臓を撃ち抜きます」
フレデリクさんが名剣士だということは、この三日でわかっています。
魔銃は彼が倒してくれた魔獣の素材で作りました。
最初はドワーフから魔鉱を買い取って作るつもりだったのですが、手に入った素材のランクが高かったので変更したのです。
ドワーフに会いに行って交渉していたら時間がかかっていたでしょうから、ちょうど良かったと思います。
「そのときリュシーさんまで撃ってしまっては本末転倒なので、ゴーちゃんはフレデリクさんが斬った切り口からドラゴンの体を剥がして、中身がわかるようにしてくださいね」
「ゴー!」
叫び声のした方へ向かっていく途中、何匹かの魔獣と遭遇しました。
戦う必要はありませんでした。
怯えて動かなかったからです。叫び声の威力でしょう。
切り立った岩山の向こうに、赤い炎が見えました。
それはわたし達が探していた真っ赤なドラゴンの姿でした。
そして──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──ドラゴンゴーレム退治から、一週間が過ぎました。
リュシーさんは無事です。
だけど一年間ゴーレムの中で眠っていたので、体が弱っていました。
今はガスパールさんと一緒に治療院で療養中です。
ガスパールさんがドラゴンを眠らせ続けたことが良い結果につながったものと思われます。
「ゴー!」
「お掃除終わりましたか? わたしもカウンターの片付け終わりましたよ」
お祭りは終わり、冒険都市ラビラントは普段の姿を取り戻しています。
冒険者さんは解放されたメルクルディへ潜るため、『赤の止まり木』にポーション類や魔具を買いに来てくれます。
来月もちゃんと金貨一枚払えそうです。金貨三十枚でも大丈夫そうな気がします。
扉を叩く音がしました。
「エメさん、迎えに来ました」
フレデリクさんです。今日はふたりでリュシーさん達のお見舞いへ行くのです。
迷宮で三日間一緒に過ごしたこともあって、フレデリクさんとはとても仲良くなれた気がします。
騎士でもいい人はいるのです。作ってくれた料理もすごく美味しかったです。
わたしはゴーちゃんと一緒に店を出ました。
「リュシーさん達が退院したらお祝いに贈ろうと思って、今指輪を作っているんです」
お祭りのときの指輪は初日で完売しました。
結構高値をつけていたのに、ありがたいことです。
迷宮へ行っていなければ追加も作れたのですが……それは考えても仕方のないことですね。たぶんあのときでなければ、リュシーさんは助けられませんでした。
「いいですね。そういえばエメさん、迷宮で作った魔銃の販売許可が出ましたよ。迷宮の魔力を吸収して威力を増す代わり、外では強い攻撃ができないところが認可の決め手だったようです。迷宮の外で暴れる人もいますからね」
わたし個人が使うのには許可はいりません。
「良かったです。でも……迷宮で採取したランクの高い素材で作っているので、量産は難しいかもしれません」
「ゴー?」
「迷宮なら私が同行しますよ」
「いいんですか?」
「ええ。護衛料も結構です」
「それはいけませんよ」
「いいんです。……私にとっては、あなたと過ごせる時間が報酬なので……」
「え?」
「ゴ?」
よく聞こえなかったので聞き返すと、フレデリクさんはどこか照れているような笑顔で言いました。
「なんでもありません。いえ、エメさんがこの町に来てくれて良かった、と言ったんです」
「わたしも良かったです。リュシーさん達と再会できたし、フレデリクさんとも会えました」
「ゴ!」
「ゴーちゃんも創れたし」
「ゴゴー♪」
「はい。本当に良かったです」
フレデリクさんのエメラルドの瞳で見つめられたわたしは、なんとなく気恥ずかしくなって俯きました。
彼と過ごす時間が、なんだかとても幸せに感じる今日この頃です。
【フレデリクEND】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【ドーナツ】/【指輪型の護符】
「ドーナツを作ることにします」
「わかりました。何個くらい作れそうですか? それに合わせて材料を用意します」
「ゴー!」
わたしとゴーちゃんとフレデリクさんは、頭を突き合わせて話を煮詰めました。
ドーナツ自体はゴーちゃんに助けてもらえばすぐできますが、どうせなら揚げたての味を楽しんでもらいたいので、保温効果のあるお皿でも作って見ましょうか。
お師匠様にいただいた粘土で陶器のお皿を作って、呪文を刻んだ魔鉱を埋め込んでみたらどうかしら。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる