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7-2・お祭りの始まりです! 【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】
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(──いい匂いがする)
ローランは人で溢れた大通りを見回した。
冒険都市ラビラントの年に一度の祭り、迷宮からの恵みを祝う喧騒の中、ひとつの屋台に行列ができている。
ローランは、迷わずその最後尾についた。
エルフのローランは流行にすぐ飛び乗るほうだ。
なにしろエルフは寿命が長い。
長い年月を生き延びるには、たくさんの楽しい思い出が必要なのだ。
行列はドーナツ屋の屋台に続いていた。
甘い匂いが漂ってくるところを見ると、その場で揚げているのだろうか。
それにしては油の爆ぜる音がしない。
「いらっしゃいませ!」
行列の先には獣人の子どもが待っていた。
屋台の中には大きな皿があってドーナツが積み重ねられている。
「ひとつもらおう」
「ありがとうございます!」
渡されたドーナツは温かく、素朴な味わいだった。
(……なるほど。あの皿に保温効果があったんだな。温めることで匂いも漂って……)
珍しい魔具の存在に、浮かんでくる面影があった。
二週間ほど前に護衛を務めた錬金術師の少女のものだ。
この祭りには、よそから来た魔法使いや錬金術師が開いた露店も並んでいる。
魔法や魔具の話を夢中でしていた彼女と一緒に行けば楽しいだろう。
錬金術師は秘密主義だ。同じ錬金術師であっても、流派が違えば全く違う理論と発想のもとに活動している。
そのせいで全体的な錬金術のレベルがなかなか上がらないのだと、魔法使いとしてだけでなく錬金術師としても有能な変わりものの師匠が嘆いていたことを思い出す。
ドーナツを食べ終わり、ローランは『赤の止まり木』へ足を向けた。
エルフは男女関係に積極的だ。なにしろ寿命が長いので、早く行動しないと他種族の想い人は死んでしまう。
★ ★ ★ ★ ★
お祭りの当日、目が覚めると昼過ぎでした。
「ふわあぁ」
「ゴーゴゴ」
ゴーちゃんとふたりでアクビをします。
お店を開いて三週間、なんだかんだで疲れていたのでしょう。
着替えていたら階下の扉を叩く音がしたので、わたしは急いで顔を洗って一階に下りました。
開いた扉の外には見知った顔がふたつ並んでいます。
「こんにちは、ローランさんとフレデリクさん。お揃いでどうしたんですか?」
ちらりとフレデリクさんを見て、ローランさんが口を開きます。
「祭りだからな。エメ、良かったら一緒に回らないか。よその町から来た魔法使いや錬金術師が露店を開いている。掘り出し物があるかもしれないぞ」
「そうなんですか!」
それはワクワクします。
ローランさんと魔法や魔具の話をしながら歩くのは楽しそうです。
錬金術師には秘密主義のところがあるので、違う流派の技法は完成したポーション類や魔具から遡って探るしかありません。お師匠様以外の錬金術師の技も学んでみたいものです。
次にフレデリクさんが言いました。
「私もエメさんを誘いに来たんです。あなたと一緒に祭りを回れたら、とても嬉しいのですが……」
「そうなんですか?」
わたしは首を傾げました。
騎士であるフレデリクさんへの苦手意識はもう薄れましたが、だからといって親しくしているつもりもありません。
わたしとお祭りに行って楽しいのでしょうか。
まだ冒険都市ラビラントに慣れてないと思って気を遣ってくれているのでしょうか。
「そうだ! 良かったら三人で出かけませんか?」
わたしが言うと、ふたりの顔色が曇りました。
「エメ、それはやめたほうがいい」
ローランさんはわたしに呆れているようです。
なにか変なことを言ってしまったのでしょうか。
「ごめんなさい、エメさん。たぶん私はおふたりの会話に参加できません」
フレデリクさんは悲しそうに言いました。
うーん、どうしましょう。
「ゴゴ?」
【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】
「じゃあ今日はローランさんとご一緒します」
「そうか」
ローランさんは嬉しそうに微笑みました。
「そうですか……おふたりともラビラントの祭りを楽しんでください。エメさん、またなにかあったときはお願いします」
フレデリクさんは儚げな笑みを浮かべて去って行きました。
ちょっと申し訳ない気もしますが、新しい技術や知らない技術が見られると聞いては錬金術師として黙っていられません。
「あ、ごめんなさい、ローランさん。ゴーちゃんがいるので、結局三人なんですが」
「ゴゴ?」
「ふむ。この前採取した紅蓮の魔鉱で心臓を作ったゴーレムか」
「わかりますか?」
「ゴー!」
「ああ、いい出来だ。もちろん一緒でかまわない」
玄関口でずっと話していても仕方ないので、わたしは店を出て扉に鍵をかけました。
「それじゃあ……」
ぐーと、わたしのお腹の音が響き渡ります。
そうでした。起きて着替えて顔を洗っただけでした。
「さっき美味い店を見つけたんだ、一緒に行こう」
「はい」
「ゴ♪」
わたし達は大通りへ向かって歩き出しました。
ローランは人で溢れた大通りを見回した。
冒険都市ラビラントの年に一度の祭り、迷宮からの恵みを祝う喧騒の中、ひとつの屋台に行列ができている。
ローランは、迷わずその最後尾についた。
エルフのローランは流行にすぐ飛び乗るほうだ。
なにしろエルフは寿命が長い。
長い年月を生き延びるには、たくさんの楽しい思い出が必要なのだ。
行列はドーナツ屋の屋台に続いていた。
甘い匂いが漂ってくるところを見ると、その場で揚げているのだろうか。
それにしては油の爆ぜる音がしない。
「いらっしゃいませ!」
行列の先には獣人の子どもが待っていた。
屋台の中には大きな皿があってドーナツが積み重ねられている。
「ひとつもらおう」
「ありがとうございます!」
渡されたドーナツは温かく、素朴な味わいだった。
(……なるほど。あの皿に保温効果があったんだな。温めることで匂いも漂って……)
珍しい魔具の存在に、浮かんでくる面影があった。
二週間ほど前に護衛を務めた錬金術師の少女のものだ。
この祭りには、よそから来た魔法使いや錬金術師が開いた露店も並んでいる。
魔法や魔具の話を夢中でしていた彼女と一緒に行けば楽しいだろう。
錬金術師は秘密主義だ。同じ錬金術師であっても、流派が違えば全く違う理論と発想のもとに活動している。
そのせいで全体的な錬金術のレベルがなかなか上がらないのだと、魔法使いとしてだけでなく錬金術師としても有能な変わりものの師匠が嘆いていたことを思い出す。
ドーナツを食べ終わり、ローランは『赤の止まり木』へ足を向けた。
エルフは男女関係に積極的だ。なにしろ寿命が長いので、早く行動しないと他種族の想い人は死んでしまう。
★ ★ ★ ★ ★
お祭りの当日、目が覚めると昼過ぎでした。
「ふわあぁ」
「ゴーゴゴ」
ゴーちゃんとふたりでアクビをします。
お店を開いて三週間、なんだかんだで疲れていたのでしょう。
着替えていたら階下の扉を叩く音がしたので、わたしは急いで顔を洗って一階に下りました。
開いた扉の外には見知った顔がふたつ並んでいます。
「こんにちは、ローランさんとフレデリクさん。お揃いでどうしたんですか?」
ちらりとフレデリクさんを見て、ローランさんが口を開きます。
「祭りだからな。エメ、良かったら一緒に回らないか。よその町から来た魔法使いや錬金術師が露店を開いている。掘り出し物があるかもしれないぞ」
「そうなんですか!」
それはワクワクします。
ローランさんと魔法や魔具の話をしながら歩くのは楽しそうです。
錬金術師には秘密主義のところがあるので、違う流派の技法は完成したポーション類や魔具から遡って探るしかありません。お師匠様以外の錬金術師の技も学んでみたいものです。
次にフレデリクさんが言いました。
「私もエメさんを誘いに来たんです。あなたと一緒に祭りを回れたら、とても嬉しいのですが……」
「そうなんですか?」
わたしは首を傾げました。
騎士であるフレデリクさんへの苦手意識はもう薄れましたが、だからといって親しくしているつもりもありません。
わたしとお祭りに行って楽しいのでしょうか。
まだ冒険都市ラビラントに慣れてないと思って気を遣ってくれているのでしょうか。
「そうだ! 良かったら三人で出かけませんか?」
わたしが言うと、ふたりの顔色が曇りました。
「エメ、それはやめたほうがいい」
ローランさんはわたしに呆れているようです。
なにか変なことを言ってしまったのでしょうか。
「ごめんなさい、エメさん。たぶん私はおふたりの会話に参加できません」
フレデリクさんは悲しそうに言いました。
うーん、どうしましょう。
「ゴゴ?」
【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】
「じゃあ今日はローランさんとご一緒します」
「そうか」
ローランさんは嬉しそうに微笑みました。
「そうですか……おふたりともラビラントの祭りを楽しんでください。エメさん、またなにかあったときはお願いします」
フレデリクさんは儚げな笑みを浮かべて去って行きました。
ちょっと申し訳ない気もしますが、新しい技術や知らない技術が見られると聞いては錬金術師として黙っていられません。
「あ、ごめんなさい、ローランさん。ゴーちゃんがいるので、結局三人なんですが」
「ゴゴ?」
「ふむ。この前採取した紅蓮の魔鉱で心臓を作ったゴーレムか」
「わかりますか?」
「ゴー!」
「ああ、いい出来だ。もちろん一緒でかまわない」
玄関口でずっと話していても仕方ないので、わたしは店を出て扉に鍵をかけました。
「それじゃあ……」
ぐーと、わたしのお腹の音が響き渡ります。
そうでした。起きて着替えて顔を洗っただけでした。
「さっき美味い店を見つけたんだ、一緒に行こう」
「はい」
「ゴ♪」
わたし達は大通りへ向かって歩き出しました。
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