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8-2・恩返しです! 【ローランEND】
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ローランさんが紹介してくれた美味しいお店は、わたしがドーナツを卸した孤児院の子ども達の屋台でした。
いっぱい試食はしましたが、売れ行きは気になりますし、ほかの方に美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものです。
「いらっしゃいませ!……あ、錬金術師のお姉ちゃんだ」
「こんにちは。繁盛してるみたいで良かったです」
わたし達の後ろには、長い長い行列ができています。
「足りなくなったら追加で作るので言ってくださいね」
「ありがとう。でもお姉ちゃんもお祭り楽しんでよ。納品してもらった分全部売れたら儲けは十分だから」
わたし達はひとり一個ずつドーナツを買って屋台を離れました。
近くの建物の壁にもたれて食べ始めます。
「自画自賛になるけど美味しいです」
「ゴー♪」
だれかと一緒に食べるから尚更美味しく感じるのかもしれませんね。
試食のときもゴーちゃんと食べてましたけど。
「……あれ? ローランさんはどこでしょう?」
「ゴ?」
辺りを見回していたら、人込みをかき分けてローランさんが戻ってきました。
「美味いが甘いものは喉が渇くからな。ほら、レモン水だ」
「わあ、ありがとうございます。……ローランさんのドーナツは?」
「もう食べた。少しだけもの足りないが、またあの行列に並ぶのもな」
「じゃあわたしのをひと口食べますか?」
ゴーちゃんのでも良かったんだけど……ゴーちゃんはゴーレムなので紅蓮の魔鉱製の心臓の魔力だけで百年くらい作動できます……、ゴーちゃんは食べ終わっていたのです。
ドーナツを差し出すと、ローランさんはぱくりと食べて言いました。
「うん、美味い。元から美味いのが、エメにもらったから特別美味くなった」
「そうですか?」
「ああ、ごちそう様」
ローランさんが嬉しそうなので、わたしも嬉しいです。
それでは残りを……あれ? 相手が食べたところに口をつけるのって、間接キスっていうんじゃ……考えないことにしましょう。
「どうした、エメ。顔が赤いぞ」
「えっ? そそ、そうですか?」
「ゴゴ?」
わたしは気合いを入れて、残りのドーナツを飲み込みました。
ローランさんが齧る前より美味しい……かもしれません。
彼がなんだかからかうような笑みを浮かべているように感じるのは、きっと気のせいなのでしょう。
ドーナツのあとに飲んだレモン水の冷たさが心地良かったです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ん?」
「どうしましたか?」
「ゴ?」
魔法使いや錬金術師の露店地域へ向かっていたら、ローランさんが立ち止まりました。
建物と建物の間の細い道、路地の中を覗き込んでいます。
「すまない、エメ。知り合いだ。……どうした、ガスパール!」
「ガスパールさん?」
ローランさんの背中を追って路地へ入ると、丸まって地面に転がっている男性の姿がありました。
泥や血に汚れた髪の毛はハシバミ色です。
辺りにはお酒と吐しゃ物の匂いが充満していました。
「う……う、う……」
ローランさんが彼の体を起こします。見覚えのある顔です。
でも思っていたよりもはるかに年を取っているように見えます。
「せっかくの祭りに、他人を袋叩きにして遊んでいるバカがいるとはな」
「……僕が、僕が悪いんです。僕がリュシーを助けられなかったから……」
「リュシーさんになにかあったんですか?」
「……エメちゃん?」
「知り合いか?」
──リュシーさんは一年前から行方不明になっていました。
姐御肌のリュシーさんを慕う冒険者さん達が行方不明になったのはガスパールさんのせいだと思い込んで、前から嫌がらせをしていたそうです。
「間違いじゃない。僕が呪いを解けるほど優れた神官なら……でも、ダメなんです。大神官様でさえ、リュシーは救えない」
「……ガスパール。いい加減なにがあったか話してくれ。浴びるほど酒を飲まなければ忘れられないほどのことが起こった……起こっているんだろ? 俺にも協力させてくれよ」
「わ、わたしも協力します! リュシーさんとガスパールさんは恩人ですから!」
「……無理ですよ……」
寂しげにそう呟いたあと、ガスパールさんは事情を説明してくれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一年前──
解放されたばかりのマルディ区域に潜ったリュシーさんとガスパールさんは、第十層で真っ赤なドラゴンを倒しました。
けれどリュシーさんがドラゴンの赤い心臓に触れた途端、散らばった皮や肉片が彼女ごと心臓を包んでドラゴンは復活してしまいました。
ガスパールさんはそれを呪いだと思いましたが、対処方法はありませんでした。
たとえ大神官であっても、呪いを解くのは大神殿に張られた聖域内でないと無理なのです。
巨大なドラゴンの体では迷宮から出ることができず、ガスパールさんの従魔にして影に封じようと呼びかけても契約に応じてくれません。
ガスパールさんにできたのは、ドラゴンを眠らせて結界内に閉じ込め霧を生じて、ほかの冒険者さんを近寄らせないようにすることだけでした。
呪いが解けない以上、知られたらリュシーさんが退治されると思って、だれにもなにも言いませんでした。
そして、秘密の重さから逃れるためにお酒に溺れていったのです。
「エメ。本当に呪いじゃなくてゴーレムなのか?」
「実際に見てないので断言できませんが、まず間違いないと思います。リュシーさんは炎の魔力が強かったから、無意識に心臓を起動させてしまったんですよ」
ガスパールさんに話を聞いたわたしはローランさんと迷宮に来ています。マルディの第十層です。
今は立ち入り禁止の期間なので、聖騎士団団長のフレデリクさんを通じて大神官様にお願いしての入場です。
もちろんリュシーさんを助けるために来たのです。
「ガスパールは大神殿の禁書庫も調べたらしいが、そもそも錬金術師の教本は暗号と仄めかしばかりで関係者以外には意味不明だしな」
「錬金術師でも流派が違うと読み解けないことがあります」
「ゴー……」
「ゴーレムだったとして、一年間取り込まれたままで大丈夫なのか?」
「心臓が発する魔力で生き永らえているはずです。ドラゴンが起きていたら消化吸収されていたかもしれませんけど、ガスパールさんはドラゴンを眠らせていたので」
ガスパールさんはここにはいません。
袋叩きにされた傷を治してもらいに行った治療院で内臓に腫瘍が見つかり入院しています。
おそらくお酒を飲み過ぎたせいでしょう。
フレデリクさんも同行を申し出てくれたのですが、次に解放予定のメルクルディ区域でのお仕事があるからということで、大神官様に止められていました。
「そうか。まあどちらにしろ、このままにはしておけないからな」
「はい」
「ゴー……」
最悪の状況(ドラゴンを倒してもリュシーさんが死んでいる)を考えると暗い気持ちになります。
でも今は生存を信じて進むしかありません。
「俺の師匠がいれば良かったんだがな」
ローランさんが溜息を漏らします。
ローランさんのお師匠様は、ご領主様付きの魔法使いです。
魔法だけでなく錬金術も修めているので賢者様と呼ばれているそうです。
「領主館にいなかったから、たぶんお忍びで祭りに来て遊んでいるんだろう」
ローランさんのお師匠様は研究以外のことにはものぐさでやる気がなく、特に仕事からは命を賭けても逃げ出そうとする人だそうです。
うちのお師匠様は引き篭もりで、契約したお店に魔具を卸すことで生活していましたねえ。
お師匠様お元気かしら。
「そういえばローランさんは、ガスパールさんとはどういうお知り合いなんですか? もしかして昔、パーティを組んでいたとか?」
「いや、冒険者になる前に領主館で……」
「ぐおおぉぉぉっ!」
西のほうから叫び声が響いてきました。
第十層が震えます。
「ガスパールがかけていた眠りの魔法が冷めたようだな」
「行きましょう!」
ローランさんは優秀な魔法使いです。
先日護衛をしてもらったときも、その力に助けられました。
ローランさんがドラゴンを眠らせ、風の攻撃魔法で外側を削っていく予定です。
いくらローランさんが魔力に恵まれたエルフでもMPは無限ではないので、到着するまでにマナの花を摘んでマナポーションを調合しています。
ゴーちゃんは削った皮や肉が本体に吸い寄せられて復活しないよう離す係。
リュシーさんの体が見えてきたら、わたしが心臓に刻まれた呪文を書き換えます。
錬金術師は秘密主義なので他人の刻んだ呪文を読み解くのは難しいんですよね。
それでも頑張らなくてはいけません。
恩人のリュシーさんとガスパールさんに恩を返すために、わたしは冒険都市ラビラントに来たのですから。
思っていたのと方法が変わってもできるかぎりのことをします。
わたし達は叫び声がした方向へと歩いて行きました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──なんとかドラゴンを退治して一週間が過ぎました。
お祭りが終わり、メルクルディ区域の解放で冒険都市ラビラントは賑わっています。
『赤の止まり木』は連日満員御礼です。
「エメ、マナポーションの在庫はあるか?」
「店頭にあるだけです。また迷宮にマナの花を採取しに行かなくちゃいけません」
「そうか」
あれから、ローランさんがお店を手伝ってくれるようになりました。
それと──
「すいませーん! この攻撃力上昇の付与効果の付いた護符、もっとありませんか?」
「結界石が五組欲しい」
「聖騎士団が持っている付与効果の付いた武器を俺も作ってもらいたいんだが」
「ゴー!」「ゴッゴー!」「ゴゴ!」
うちの店番が増えました。
リュシーさんを取り込んでいたドラゴンゴーレムの心臓から作った新しいゴーレム、レーちゃんとムッくんです。
名前を教えたとき、ローランさんが複雑そうな表情をしていたのはなぜでしょう。
ローランさんのお師匠様、ご領主様付きの魔法使いの方も研究用にドラゴンゴーレムの心臓が欲しいとおっしゃっていたのですが、ローランさんが説得してわたしに譲ってくれたのです。
ローランさんが微笑みます。
「じゃあゴー達に店を任せて、明日にでもふたりで迷宮へ潜ろう」
「そうですね」
閉店して一緒に夕飯を食べたあと、帰って行くローランさんを見送るのときの寂しさが日に日に増していくような気がします。
……二階にもう一部屋あったら同居してもらえるのにな。
そんなことを考えながら、『赤の止まり木』を切り盛りしていく日々なのでした。
【ローランEND】
【隠しキャラのルートが解放されました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】/【ひとりで祭りに行く】←
「すいません。今日はひとり……ゴーちゃんとふたりでお祭りに行くことにします」
「ゴー♪」
わたしの言葉に、ローランさんとフレデリクさんは苦笑しました。
「そうか、それじゃ仕方がないな」
「わかりました。ではまたお会いしましょう」
ふたりを見送ったあと、わたしは店の扉に鍵をかけてゴーちゃんと一緒に大通りへ向かいました。
いっぱい試食はしましたが、売れ行きは気になりますし、ほかの方に美味しいと言ってもらえるのは嬉しいものです。
「いらっしゃいませ!……あ、錬金術師のお姉ちゃんだ」
「こんにちは。繁盛してるみたいで良かったです」
わたし達の後ろには、長い長い行列ができています。
「足りなくなったら追加で作るので言ってくださいね」
「ありがとう。でもお姉ちゃんもお祭り楽しんでよ。納品してもらった分全部売れたら儲けは十分だから」
わたし達はひとり一個ずつドーナツを買って屋台を離れました。
近くの建物の壁にもたれて食べ始めます。
「自画自賛になるけど美味しいです」
「ゴー♪」
だれかと一緒に食べるから尚更美味しく感じるのかもしれませんね。
試食のときもゴーちゃんと食べてましたけど。
「……あれ? ローランさんはどこでしょう?」
「ゴ?」
辺りを見回していたら、人込みをかき分けてローランさんが戻ってきました。
「美味いが甘いものは喉が渇くからな。ほら、レモン水だ」
「わあ、ありがとうございます。……ローランさんのドーナツは?」
「もう食べた。少しだけもの足りないが、またあの行列に並ぶのもな」
「じゃあわたしのをひと口食べますか?」
ゴーちゃんのでも良かったんだけど……ゴーちゃんはゴーレムなので紅蓮の魔鉱製の心臓の魔力だけで百年くらい作動できます……、ゴーちゃんは食べ終わっていたのです。
ドーナツを差し出すと、ローランさんはぱくりと食べて言いました。
「うん、美味い。元から美味いのが、エメにもらったから特別美味くなった」
「そうですか?」
「ああ、ごちそう様」
ローランさんが嬉しそうなので、わたしも嬉しいです。
それでは残りを……あれ? 相手が食べたところに口をつけるのって、間接キスっていうんじゃ……考えないことにしましょう。
「どうした、エメ。顔が赤いぞ」
「えっ? そそ、そうですか?」
「ゴゴ?」
わたしは気合いを入れて、残りのドーナツを飲み込みました。
ローランさんが齧る前より美味しい……かもしれません。
彼がなんだかからかうような笑みを浮かべているように感じるのは、きっと気のせいなのでしょう。
ドーナツのあとに飲んだレモン水の冷たさが心地良かったです。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ん?」
「どうしましたか?」
「ゴ?」
魔法使いや錬金術師の露店地域へ向かっていたら、ローランさんが立ち止まりました。
建物と建物の間の細い道、路地の中を覗き込んでいます。
「すまない、エメ。知り合いだ。……どうした、ガスパール!」
「ガスパールさん?」
ローランさんの背中を追って路地へ入ると、丸まって地面に転がっている男性の姿がありました。
泥や血に汚れた髪の毛はハシバミ色です。
辺りにはお酒と吐しゃ物の匂いが充満していました。
「う……う、う……」
ローランさんが彼の体を起こします。見覚えのある顔です。
でも思っていたよりもはるかに年を取っているように見えます。
「せっかくの祭りに、他人を袋叩きにして遊んでいるバカがいるとはな」
「……僕が、僕が悪いんです。僕がリュシーを助けられなかったから……」
「リュシーさんになにかあったんですか?」
「……エメちゃん?」
「知り合いか?」
──リュシーさんは一年前から行方不明になっていました。
姐御肌のリュシーさんを慕う冒険者さん達が行方不明になったのはガスパールさんのせいだと思い込んで、前から嫌がらせをしていたそうです。
「間違いじゃない。僕が呪いを解けるほど優れた神官なら……でも、ダメなんです。大神官様でさえ、リュシーは救えない」
「……ガスパール。いい加減なにがあったか話してくれ。浴びるほど酒を飲まなければ忘れられないほどのことが起こった……起こっているんだろ? 俺にも協力させてくれよ」
「わ、わたしも協力します! リュシーさんとガスパールさんは恩人ですから!」
「……無理ですよ……」
寂しげにそう呟いたあと、ガスパールさんは事情を説明してくれた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一年前──
解放されたばかりのマルディ区域に潜ったリュシーさんとガスパールさんは、第十層で真っ赤なドラゴンを倒しました。
けれどリュシーさんがドラゴンの赤い心臓に触れた途端、散らばった皮や肉片が彼女ごと心臓を包んでドラゴンは復活してしまいました。
ガスパールさんはそれを呪いだと思いましたが、対処方法はありませんでした。
たとえ大神官であっても、呪いを解くのは大神殿に張られた聖域内でないと無理なのです。
巨大なドラゴンの体では迷宮から出ることができず、ガスパールさんの従魔にして影に封じようと呼びかけても契約に応じてくれません。
ガスパールさんにできたのは、ドラゴンを眠らせて結界内に閉じ込め霧を生じて、ほかの冒険者さんを近寄らせないようにすることだけでした。
呪いが解けない以上、知られたらリュシーさんが退治されると思って、だれにもなにも言いませんでした。
そして、秘密の重さから逃れるためにお酒に溺れていったのです。
「エメ。本当に呪いじゃなくてゴーレムなのか?」
「実際に見てないので断言できませんが、まず間違いないと思います。リュシーさんは炎の魔力が強かったから、無意識に心臓を起動させてしまったんですよ」
ガスパールさんに話を聞いたわたしはローランさんと迷宮に来ています。マルディの第十層です。
今は立ち入り禁止の期間なので、聖騎士団団長のフレデリクさんを通じて大神官様にお願いしての入場です。
もちろんリュシーさんを助けるために来たのです。
「ガスパールは大神殿の禁書庫も調べたらしいが、そもそも錬金術師の教本は暗号と仄めかしばかりで関係者以外には意味不明だしな」
「錬金術師でも流派が違うと読み解けないことがあります」
「ゴー……」
「ゴーレムだったとして、一年間取り込まれたままで大丈夫なのか?」
「心臓が発する魔力で生き永らえているはずです。ドラゴンが起きていたら消化吸収されていたかもしれませんけど、ガスパールさんはドラゴンを眠らせていたので」
ガスパールさんはここにはいません。
袋叩きにされた傷を治してもらいに行った治療院で内臓に腫瘍が見つかり入院しています。
おそらくお酒を飲み過ぎたせいでしょう。
フレデリクさんも同行を申し出てくれたのですが、次に解放予定のメルクルディ区域でのお仕事があるからということで、大神官様に止められていました。
「そうか。まあどちらにしろ、このままにはしておけないからな」
「はい」
「ゴー……」
最悪の状況(ドラゴンを倒してもリュシーさんが死んでいる)を考えると暗い気持ちになります。
でも今は生存を信じて進むしかありません。
「俺の師匠がいれば良かったんだがな」
ローランさんが溜息を漏らします。
ローランさんのお師匠様は、ご領主様付きの魔法使いです。
魔法だけでなく錬金術も修めているので賢者様と呼ばれているそうです。
「領主館にいなかったから、たぶんお忍びで祭りに来て遊んでいるんだろう」
ローランさんのお師匠様は研究以外のことにはものぐさでやる気がなく、特に仕事からは命を賭けても逃げ出そうとする人だそうです。
うちのお師匠様は引き篭もりで、契約したお店に魔具を卸すことで生活していましたねえ。
お師匠様お元気かしら。
「そういえばローランさんは、ガスパールさんとはどういうお知り合いなんですか? もしかして昔、パーティを組んでいたとか?」
「いや、冒険者になる前に領主館で……」
「ぐおおぉぉぉっ!」
西のほうから叫び声が響いてきました。
第十層が震えます。
「ガスパールがかけていた眠りの魔法が冷めたようだな」
「行きましょう!」
ローランさんは優秀な魔法使いです。
先日護衛をしてもらったときも、その力に助けられました。
ローランさんがドラゴンを眠らせ、風の攻撃魔法で外側を削っていく予定です。
いくらローランさんが魔力に恵まれたエルフでもMPは無限ではないので、到着するまでにマナの花を摘んでマナポーションを調合しています。
ゴーちゃんは削った皮や肉が本体に吸い寄せられて復活しないよう離す係。
リュシーさんの体が見えてきたら、わたしが心臓に刻まれた呪文を書き換えます。
錬金術師は秘密主義なので他人の刻んだ呪文を読み解くのは難しいんですよね。
それでも頑張らなくてはいけません。
恩人のリュシーさんとガスパールさんに恩を返すために、わたしは冒険都市ラビラントに来たのですから。
思っていたのと方法が変わってもできるかぎりのことをします。
わたし達は叫び声がした方向へと歩いて行きました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
──なんとかドラゴンを退治して一週間が過ぎました。
お祭りが終わり、メルクルディ区域の解放で冒険都市ラビラントは賑わっています。
『赤の止まり木』は連日満員御礼です。
「エメ、マナポーションの在庫はあるか?」
「店頭にあるだけです。また迷宮にマナの花を採取しに行かなくちゃいけません」
「そうか」
あれから、ローランさんがお店を手伝ってくれるようになりました。
それと──
「すいませーん! この攻撃力上昇の付与効果の付いた護符、もっとありませんか?」
「結界石が五組欲しい」
「聖騎士団が持っている付与効果の付いた武器を俺も作ってもらいたいんだが」
「ゴー!」「ゴッゴー!」「ゴゴ!」
うちの店番が増えました。
リュシーさんを取り込んでいたドラゴンゴーレムの心臓から作った新しいゴーレム、レーちゃんとムッくんです。
名前を教えたとき、ローランさんが複雑そうな表情をしていたのはなぜでしょう。
ローランさんのお師匠様、ご領主様付きの魔法使いの方も研究用にドラゴンゴーレムの心臓が欲しいとおっしゃっていたのですが、ローランさんが説得してわたしに譲ってくれたのです。
ローランさんが微笑みます。
「じゃあゴー達に店を任せて、明日にでもふたりで迷宮へ潜ろう」
「そうですね」
閉店して一緒に夕飯を食べたあと、帰って行くローランさんを見送るのときの寂しさが日に日に増していくような気がします。
……二階にもう一部屋あったら同居してもらえるのにな。
そんなことを考えながら、『赤の止まり木』を切り盛りしていく日々なのでした。
【ローランEND】
【隠しキャラのルートが解放されました】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【セーブしたところから再開しますか?】
【はい】/【いいえ】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
→【はい】/【いいえ】
【セーブしたところから再開します】
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【銀髪のエルフ】/【金髪の聖騎士】/【ひとりで祭りに行く】←
「すいません。今日はひとり……ゴーちゃんとふたりでお祭りに行くことにします」
「ゴー♪」
わたしの言葉に、ローランさんとフレデリクさんは苦笑しました。
「そうか、それじゃ仕方がないな」
「わかりました。ではまたお会いしましょう」
ふたりを見送ったあと、わたしは店の扉に鍵をかけてゴーちゃんと一緒に大通りへ向かいました。
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