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第一話 恋文
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愛しいアントニオへ
アナタが学園を卒業して、アタシがこっちの学院に留学させられてから、もう二年も経つのね。
あと一年過ぎれば、アナタは王命で無理矢理結婚させられたあの女と離縁して、アタシを迎えに来てくれるはずだったわね。
なのに……アタシはその日を待てそうにないわ。
こっちの学院の男に見初められて付き纏われているの。
ああ、もちろんアナタを裏切るつもりなんかないわよ?
あの女はアタシのことを「アントニオでなくても良い女」だなんて言ったけど、アタシにはアナタだけだもの。
でもアタシを見初めた男はこっちの国のカルロス王太子なの。
とても逆らえないわ、アタシはただの男爵令嬢なんだから。
拒むことなんか出来ない身分差だってわかってるくせに、カルロスの婚約者の侯爵令嬢に意地悪される辛い毎日よ。
ここにアナタがいたら、あの女から守ってくれたようにアタシを守ってくれるのにって何度も思ったわ。
このままカルロスに迫られ続けていたら、きっとアタシ侯爵令嬢に殺されてしまう!
死んでしまったら、アナタとも会えなくなるわ。
だからその前に死んでしまおうと思うの。
お願い、アントニオ!
今度のアタシの誕生日にこの手紙を灰にして飲んで!
この手紙には、紙と一緒に燃やして灰にしたものを水に溶かして飲むと死毒になる薬品が染み込ませてあるの。
アタシも同じ日に毒を飲むわ。
ふたりで心中して、永遠にあの世で結ばれましょう?
それ以外にアタシ達が結ばれる方法はないわ。
いくらアナタがそっちの公爵でも、カルロスはこっちの王太子なんだもの!
この手紙は全部燃やして灰にしてね。
死毒を口に含むと舌を刺す刺激があるみたいだから、吐き戻したりしないように一気に飲むのよ?
それから、この手紙のことは絶対にだれにも気づかれないでね?
全部燃やしてしまってね。これまでの手紙も出来たら処分するのよ。
アタシはあの世でアナタと再会するときを楽しみに、苦しい日々をあと少しだけ耐えていくわ。
アナタだけを愛するペサディリャより
★ ★ ★ ★ ★
私こと元伯爵令嬢メモリアと公爵アントニオ様は同い年の二十歳です。
十年前、王命によって婚約しました。
その年の大寒波でご両親を喪ったアントニオ様を私が支え、多くの領民が亡くなって農地が荒れ果てた公爵領を我が伯爵家の資産で立て直すことを期待されたのです。大寒波の年まで、公爵領はこの王国一の穀倉地帯でした。
初めてお会いした日から、私はアントニオ様をお慕いしていました。
ご両親を一度に喪っただけでも辛くてたまらなかったでしょうに、悲しい気持ちを心の底へ封じて、公爵領の再建を語る彼の青い瞳に恋をしたのです。
アントニオ様も、政略結婚であっても愛し合う夫婦はいる、僕達もそうなろう、とおっしゃってくださったのです。
この王国の貴族子女が通う学園の最終学年に上がるまで、私達は上手くやっていたと思います。
学園の図書館では、毎日のように日が暮れるまで公爵領の再建について語り合いました。
婚約者といっても所詮は他家の令嬢に過ぎません。嫁いで公爵夫人となり、公私ともにアントニオ様を支えられるようになる日を、学園を卒業する日を、私は待ち望んでいました。
美しく文武に秀でたアントニオ様に横恋慕する令嬢に嫌がらせを受けたり、財力だけの伯爵家が公爵家を乗っ取ろうとしていると誹られたりもしましたが、彼を支えられるのは私だけだと自負しておりました。
だけど……私達が最終学年になった年に入学して来た、私達よりふたつ年下の男爵令嬢ペサディリャ様の存在がアントニオ様を変えたのです。
公爵領再建にのめり込み過ぎて知識ばかりの頭でっかちになった地味な私と違い、ペサディリャ様は華やかで愛らしい令嬢でした。
──彼は彼女に、生まれて初めての恋をなさったのです。
アナタが学園を卒業して、アタシがこっちの学院に留学させられてから、もう二年も経つのね。
あと一年過ぎれば、アナタは王命で無理矢理結婚させられたあの女と離縁して、アタシを迎えに来てくれるはずだったわね。
なのに……アタシはその日を待てそうにないわ。
こっちの学院の男に見初められて付き纏われているの。
ああ、もちろんアナタを裏切るつもりなんかないわよ?
あの女はアタシのことを「アントニオでなくても良い女」だなんて言ったけど、アタシにはアナタだけだもの。
でもアタシを見初めた男はこっちの国のカルロス王太子なの。
とても逆らえないわ、アタシはただの男爵令嬢なんだから。
拒むことなんか出来ない身分差だってわかってるくせに、カルロスの婚約者の侯爵令嬢に意地悪される辛い毎日よ。
ここにアナタがいたら、あの女から守ってくれたようにアタシを守ってくれるのにって何度も思ったわ。
このままカルロスに迫られ続けていたら、きっとアタシ侯爵令嬢に殺されてしまう!
死んでしまったら、アナタとも会えなくなるわ。
だからその前に死んでしまおうと思うの。
お願い、アントニオ!
今度のアタシの誕生日にこの手紙を灰にして飲んで!
この手紙には、紙と一緒に燃やして灰にしたものを水に溶かして飲むと死毒になる薬品が染み込ませてあるの。
アタシも同じ日に毒を飲むわ。
ふたりで心中して、永遠にあの世で結ばれましょう?
それ以外にアタシ達が結ばれる方法はないわ。
いくらアナタがそっちの公爵でも、カルロスはこっちの王太子なんだもの!
この手紙は全部燃やして灰にしてね。
死毒を口に含むと舌を刺す刺激があるみたいだから、吐き戻したりしないように一気に飲むのよ?
それから、この手紙のことは絶対にだれにも気づかれないでね?
全部燃やしてしまってね。これまでの手紙も出来たら処分するのよ。
アタシはあの世でアナタと再会するときを楽しみに、苦しい日々をあと少しだけ耐えていくわ。
アナタだけを愛するペサディリャより
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私こと元伯爵令嬢メモリアと公爵アントニオ様は同い年の二十歳です。
十年前、王命によって婚約しました。
その年の大寒波でご両親を喪ったアントニオ様を私が支え、多くの領民が亡くなって農地が荒れ果てた公爵領を我が伯爵家の資産で立て直すことを期待されたのです。大寒波の年まで、公爵領はこの王国一の穀倉地帯でした。
初めてお会いした日から、私はアントニオ様をお慕いしていました。
ご両親を一度に喪っただけでも辛くてたまらなかったでしょうに、悲しい気持ちを心の底へ封じて、公爵領の再建を語る彼の青い瞳に恋をしたのです。
アントニオ様も、政略結婚であっても愛し合う夫婦はいる、僕達もそうなろう、とおっしゃってくださったのです。
この王国の貴族子女が通う学園の最終学年に上がるまで、私達は上手くやっていたと思います。
学園の図書館では、毎日のように日が暮れるまで公爵領の再建について語り合いました。
婚約者といっても所詮は他家の令嬢に過ぎません。嫁いで公爵夫人となり、公私ともにアントニオ様を支えられるようになる日を、学園を卒業する日を、私は待ち望んでいました。
美しく文武に秀でたアントニオ様に横恋慕する令嬢に嫌がらせを受けたり、財力だけの伯爵家が公爵家を乗っ取ろうとしていると誹られたりもしましたが、彼を支えられるのは私だけだと自負しておりました。
だけど……私達が最終学年になった年に入学して来た、私達よりふたつ年下の男爵令嬢ペサディリャ様の存在がアントニオ様を変えたのです。
公爵領再建にのめり込み過ぎて知識ばかりの頭でっかちになった地味な私と違い、ペサディリャ様は華やかで愛らしい令嬢でした。
──彼は彼女に、生まれて初めての恋をなさったのです。
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