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初めての指名依頼編
29・あなたのための魔石ごはん
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魔石ごはんの量を調整しようか、なんて思ってはみたものの、今日のシオン君はわたしにアリの巣殲滅計画を説明してくれていたので、前菜すら終わってない状態だ。
だれかが太り過ぎてるわけでもないので、量の調整については明日考えることにして、わたしはパスタを作ってみた。
「インウィ料理だな」
「……パスタ」
ふたりとも知っていた。まあそうだよね、ふたりとも食いしん坊だもんね。
「これは初めて見るな」
シオン君がナポリタンを載せたお皿を手にする。
そうでしょう、そうでしょう。
わたしが考案した料理じゃなくても、故郷の料理を友達に驚いてもらったり喜んでもらったりするのは嬉しいものです。
「甘い匂い。……ハンバーガーに入っていたケチャップと同じだな。ケチャップはトマトソースの発展形のようだが、原料のトマト自体が違う気がする」
前世では品種改良に品種改良を重ねていたのです。
「玉ネギに腸詰と……これはピーマンだったな。この硬さと独特の苦みを上手く使っている。……種が手に入れば育ててみたいものだが」
ピーマンはこの世界では見つかっていないらしい。
ここと東の大陸以外にもどこかに大陸があったりするのかな?
じゃが芋はあるそうです。
ダンジョンやモンスターの存在があるから、生態系が前世とは違ってるんだろうな。
「料理しか作れなくてごめんね」
「十分だ。貴様の魔石ごはんの特別性は保持していくつもりだが、代用品で賄えそうなものはレシピを流通させてもらう。ちゃんと対価は払うからな」
「うん、いいよー」
気軽に入った町角のお店で、前世の料理を食べられるようになったら嬉しいな。
ひとり(ラケル含む)で町を散歩するなんて、いつの話になるかわからないけど。
というか……『異世界料理再現錬金術』で変成してるだけだから、レシピを聞かれてもわからないかもしれない。
「……これ、面白い。魚介のパスタは食べたことあるけど、これは独特」
ベルちゃんが気に入ってくれたのは、たらこスパゲッティだった。
イカも入ってるよ。
前世でも海外ではあまりたらこを食べないって聞いてたから心配だったけど……ベルちゃんだもんね。
初日に作ったおにぎりも抵抗なく食べてたし。
「葉菜花、俺にも」
「ベルちゃんが食べてるたらこより辛めの明太子もあるけど、どっちがいい?」
シオン君が不敵に笑う。
「両方に決まっているだろう」
ですよねー。もちろん両方作った。
あ、上に振りかけてる海苔を消化できるのは日本人だけなんだっけ?
シオン君とベルちゃんなら大丈夫かな。そんな気がする。……最終的に魔力になるしね。
「ふん、美味いな。葉菜花、お代わりだ」
美味しく食べてくれてなによりです。
パスタのセットは見つけられなかった。
付け合せっていってもパンとサラダくらいしか思いつかないし。あとドリンクね。
もう普通に美味しく食べてもらうだけでいいんじゃないかな。
──それはともかく、
ナポリタンとボロネーゼ(ミートソース)が攻撃力上昇、カルボナーラが防御力上昇、たらこスパとボンゴレ(貝)が精神力上昇、明太子スパとペペロンチーノが集中力上昇、イカ墨が素早さ上昇という結果が出ました。
パスタはほかにもたくさんあるので、思い出したら作っていきたいです。
緑色のヤツってなんていうんだっけ?
「ベルちゃんがダンジョンに張ってる『聖域』って魔術なんだよね?」
「……そう。私はドワーフだから杖を媒体にしないと使えないけれど、私のMPを消費して発動する、れっきとした魔術」
ヒト族やエルフの杖は媒体としてではなく、杖なしでも使える魔術の威力を増幅するために使うのだという。
「神聖系の魔術なんだよね」
「……そうよ。どうかしたの、葉菜花?」
「えっとね、明後日からしばらくベルちゃんに会えないでしょ?」
「……ええ」
ベルちゃんはジト目でシオン君を見つめたが、シオン君は気にせずパスタの残りを平らげている。
ナポリタンがお気に入りのようだ。
口の周りが赤くならないのが不思議。さすが王子様?
「だからベルちゃんの『聖域』を張るお仕事が楽になるような魔石ごはんのセットを作れないかな、って思ったの」
「ふん。なにか当てはあるのか? そう簡単にできるものではあるまい。ハンバーガーは上手く組み合わせることができたが、パスタのほうは全然だったじゃないか」
「うーん。わたし、パスタ屋さんに行ったことなかったから」
おじいちゃん行きつけの喫茶店でナポリタンを食べた記憶くらいしかない。
結構小さいころの記憶だ。
大きくなってからは、口の周りが赤くなるのが恥ずかしくて注文しなかった。
和風ハンバーグランチも美味しかったしね。
邪道扱いする人もいるけど、梅干しと大根おろしを載せたハンバーグは美味しいと思う。
前世のセットメニューは魔石ごはんの組み合わせのヒントになるはずだ。
なんと言っても魔石ごはんはわたしが作ってるわけだもの。
想像力が強いと錬金術や魔術の効果が上がるって言ってたし、基礎になる叩き台があってこそ想像力も高まると思うのです。
わたしは、ふたりに魔石ごはんを作るかたわら付与効果についてメモしていた羊皮紙を広げた。
「温かい飲み物は属性に関係なくMP自然回復率が上昇したでしょ? それと、神聖属性スライムの魔石でできたのがネギ塩豚サンドだったよね?」
ネギ塩豚サンドなんて馴染みがないものができたから、びっくりしてよく覚えてる。
前世で、お葬式から帰って来たときにお塩をかける風習があるのは知っていた。
そういう感じでこの世界でも、塩には聖なる力があるんじゃないかと思う。
「だから、温かい飲み物と塩気のある食べ物と……なにかで、付与効果が上書きされず単品で食べるよりも神聖系魔術の効果が大きくなる組み合わせができるんじゃないかと思うの」
「なるほどな」
「ハンバーガーのときに付与効果が同じ組み合わせだと上書きされちゃったから、そこら辺も考えていったらいいんじゃないかな」
ハンバーガー(攻撃力上昇)とフライドポテト(防御力上昇)にドリンク(コーヒー紅茶炭酸水から選べます)でセットになるけど、フライドポテトを明太マヨポテト(攻撃力上昇)に変えるとセットにならないんだよね。
照り焼きチキンバーガー(防御力上昇)とフライドポテト(防御力上昇)の組み合わせもダメ。
普通に美味しいと思うんだけど。
「……葉菜花」
「ベルちゃん、なにか食べたいものある? それを基準に考えてみるよ」
「……私、あんまりしょっぱいものは……お肉と甘いものが好き」
「うん。魔石ごはんといえども塩分過多は良くないよね。だから……えっと、スイカにお塩みたいな?」
お塩が甘さを引き立てるようなものがいいんじゃないかな。
もしかして生ハムメロンもそういうコンセプトだったの?
しょっぱくて甘くて……あ。
ひとつ思いついたので、お皿とコップを渡してもらう。
ダンジョンアントの魔石をひと摘み。
……うわあ、まだまだたくさんあるなあ。
百五十三袋あるダンジョンアントの魔石が一袋分も減ってない状況はちょっと怖い。
初日にシオン君が用意させた一袋もまだ残ってるし。
ひとつのお皿に五個くらい入れて一食分にしてて、しかもシオン君とベルちゃんはそれを何皿もお代わりするというのに。
アリの巣殲滅計画で、また増える。
冒険者ギルドのマスターが言ってたダンジョンアントが顎を噛み合わせる音が、ラケルの影から聞こえてきそうな気がする。
シオン君にお願いして、引き取り賃を一袋金貨一枚に吊り上げたほうがいいかしらん。
……気を取り直して、お皿の魔石に魔力を注ぎ込む。
さっきおじいちゃん行きつけの喫茶店でナポリタンを食べたことを思い出したとき、このメニューについても思い出していたのだ。
え? お皿とコップに入れた魔石の同時変成? 余裕でできますけど。
甘くて、どこか懐かしい香りが辺りに満ちる。
ベルちゃんが呟く。
「……黄金色」
バターを載せてメイプルシロップをかけた、ふっかふかのホットケーキにバニラアイスを添えて。ドリンクはホットココアです。
魔石を複数使って、喫茶店と同じくらいの大きさにしてみました。
「食べてみて」
「……いただきます」
ベルちゃんはフォークで、器用にホットケーキを切り分けていく。
口に運んで、
「美味しーい」
と破顔した。
お塩の要素はバターです。
おじいちゃん行きつけの喫茶店のホットケーキは、蕩けそうなほど甘い中に塩みがちょっぴりあって、美味しさが引き立てられていた。
あと……ココアはおじいちゃんと同じコーヒーを飲みたがるわたしに、子ども用のコーヒーだよ、ってマスターが出してくれてたんだよね。
高校生になったら、コーヒーをご馳走してくれるって言ってくれてたなあ。
「ホットケーキに神聖系魔術の威力増幅効果、アイスクリームにMP消費量減少効果、ココアにMP自然回復率上昇効果。付与効果が上書きされずに増幅し合っているな」
シオン君が『鑑定』スキルを使って確認してくれる。
「まさに『聖域』を使うもののためだけに構成されたような組み合わせだ。だが、『聖域』を使えないものが食べていけないわけではなかろう。葉菜花、俺にも作ってくれ」
「わかった」
「……葉菜花。このソースはハチミツではないの?」
「メープルシロップって言って楓の樹液だよ。……たぶん」
特別な楓だった気もする。
「楓か。葉菜花の世界のものとは違うかもしれないが、この辺りにも生えている。アリの巣殲滅計画が終わったら視察に行ってみるか」
シオン君も気に入ってくれたようだ。
「ごしゅじん! 俺、その匂い知ってるぞ。じぃじとの散歩から帰って来たときの匂いだ!」
じぃじ……おばあちゃんがチビ太に「ばぁばですよー」と呼びかけてたのは知ってたけど、おじいちゃんもそうだったんだ。
「わたしの分も作るから、半分こして食べてくれる?」
「いいぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホットケーキを楽しんだあと、ぜんざい(神聖系魔術の威力増幅)+塩昆布(邪毒系状態異常耐性上昇)+ほうじ茶(MP自然回復率上昇)のセットやアップルパイ(集中力上昇)+ハチミツかけバニラアイス(精神力上昇)+ホットティー(MP自然回復率上昇効果)のセットなどを見つけ出すことができた。
アップルパイのセットは少し目的と違う付与効果になりました。
おばあちゃんの好きだった古代エジプトを特集したテレビかネットの番組で、シナモンは宗教儀式で使われる聖なる香煙だったって話があったから、シナモンを効かせたアップルパイは神聖属性でイケると思ったんだけど。
今度シナモンロールも作ってみよう。
アップルパイだとリンゴの集中力上昇効果のほうが強いのかもしれない。
集中して放たれた矢で射られたりする果物だし。
そしてアイスは、やっぱりソースによって効果が変わるみたいです。
ハチミツ……ハチのモンスターもいるのかなあ。
だれかが太り過ぎてるわけでもないので、量の調整については明日考えることにして、わたしはパスタを作ってみた。
「インウィ料理だな」
「……パスタ」
ふたりとも知っていた。まあそうだよね、ふたりとも食いしん坊だもんね。
「これは初めて見るな」
シオン君がナポリタンを載せたお皿を手にする。
そうでしょう、そうでしょう。
わたしが考案した料理じゃなくても、故郷の料理を友達に驚いてもらったり喜んでもらったりするのは嬉しいものです。
「甘い匂い。……ハンバーガーに入っていたケチャップと同じだな。ケチャップはトマトソースの発展形のようだが、原料のトマト自体が違う気がする」
前世では品種改良に品種改良を重ねていたのです。
「玉ネギに腸詰と……これはピーマンだったな。この硬さと独特の苦みを上手く使っている。……種が手に入れば育ててみたいものだが」
ピーマンはこの世界では見つかっていないらしい。
ここと東の大陸以外にもどこかに大陸があったりするのかな?
じゃが芋はあるそうです。
ダンジョンやモンスターの存在があるから、生態系が前世とは違ってるんだろうな。
「料理しか作れなくてごめんね」
「十分だ。貴様の魔石ごはんの特別性は保持していくつもりだが、代用品で賄えそうなものはレシピを流通させてもらう。ちゃんと対価は払うからな」
「うん、いいよー」
気軽に入った町角のお店で、前世の料理を食べられるようになったら嬉しいな。
ひとり(ラケル含む)で町を散歩するなんて、いつの話になるかわからないけど。
というか……『異世界料理再現錬金術』で変成してるだけだから、レシピを聞かれてもわからないかもしれない。
「……これ、面白い。魚介のパスタは食べたことあるけど、これは独特」
ベルちゃんが気に入ってくれたのは、たらこスパゲッティだった。
イカも入ってるよ。
前世でも海外ではあまりたらこを食べないって聞いてたから心配だったけど……ベルちゃんだもんね。
初日に作ったおにぎりも抵抗なく食べてたし。
「葉菜花、俺にも」
「ベルちゃんが食べてるたらこより辛めの明太子もあるけど、どっちがいい?」
シオン君が不敵に笑う。
「両方に決まっているだろう」
ですよねー。もちろん両方作った。
あ、上に振りかけてる海苔を消化できるのは日本人だけなんだっけ?
シオン君とベルちゃんなら大丈夫かな。そんな気がする。……最終的に魔力になるしね。
「ふん、美味いな。葉菜花、お代わりだ」
美味しく食べてくれてなによりです。
パスタのセットは見つけられなかった。
付け合せっていってもパンとサラダくらいしか思いつかないし。あとドリンクね。
もう普通に美味しく食べてもらうだけでいいんじゃないかな。
──それはともかく、
ナポリタンとボロネーゼ(ミートソース)が攻撃力上昇、カルボナーラが防御力上昇、たらこスパとボンゴレ(貝)が精神力上昇、明太子スパとペペロンチーノが集中力上昇、イカ墨が素早さ上昇という結果が出ました。
パスタはほかにもたくさんあるので、思い出したら作っていきたいです。
緑色のヤツってなんていうんだっけ?
「ベルちゃんがダンジョンに張ってる『聖域』って魔術なんだよね?」
「……そう。私はドワーフだから杖を媒体にしないと使えないけれど、私のMPを消費して発動する、れっきとした魔術」
ヒト族やエルフの杖は媒体としてではなく、杖なしでも使える魔術の威力を増幅するために使うのだという。
「神聖系の魔術なんだよね」
「……そうよ。どうかしたの、葉菜花?」
「えっとね、明後日からしばらくベルちゃんに会えないでしょ?」
「……ええ」
ベルちゃんはジト目でシオン君を見つめたが、シオン君は気にせずパスタの残りを平らげている。
ナポリタンがお気に入りのようだ。
口の周りが赤くならないのが不思議。さすが王子様?
「だからベルちゃんの『聖域』を張るお仕事が楽になるような魔石ごはんのセットを作れないかな、って思ったの」
「ふん。なにか当てはあるのか? そう簡単にできるものではあるまい。ハンバーガーは上手く組み合わせることができたが、パスタのほうは全然だったじゃないか」
「うーん。わたし、パスタ屋さんに行ったことなかったから」
おじいちゃん行きつけの喫茶店でナポリタンを食べた記憶くらいしかない。
結構小さいころの記憶だ。
大きくなってからは、口の周りが赤くなるのが恥ずかしくて注文しなかった。
和風ハンバーグランチも美味しかったしね。
邪道扱いする人もいるけど、梅干しと大根おろしを載せたハンバーグは美味しいと思う。
前世のセットメニューは魔石ごはんの組み合わせのヒントになるはずだ。
なんと言っても魔石ごはんはわたしが作ってるわけだもの。
想像力が強いと錬金術や魔術の効果が上がるって言ってたし、基礎になる叩き台があってこそ想像力も高まると思うのです。
わたしは、ふたりに魔石ごはんを作るかたわら付与効果についてメモしていた羊皮紙を広げた。
「温かい飲み物は属性に関係なくMP自然回復率が上昇したでしょ? それと、神聖属性スライムの魔石でできたのがネギ塩豚サンドだったよね?」
ネギ塩豚サンドなんて馴染みがないものができたから、びっくりしてよく覚えてる。
前世で、お葬式から帰って来たときにお塩をかける風習があるのは知っていた。
そういう感じでこの世界でも、塩には聖なる力があるんじゃないかと思う。
「だから、温かい飲み物と塩気のある食べ物と……なにかで、付与効果が上書きされず単品で食べるよりも神聖系魔術の効果が大きくなる組み合わせができるんじゃないかと思うの」
「なるほどな」
「ハンバーガーのときに付与効果が同じ組み合わせだと上書きされちゃったから、そこら辺も考えていったらいいんじゃないかな」
ハンバーガー(攻撃力上昇)とフライドポテト(防御力上昇)にドリンク(コーヒー紅茶炭酸水から選べます)でセットになるけど、フライドポテトを明太マヨポテト(攻撃力上昇)に変えるとセットにならないんだよね。
照り焼きチキンバーガー(防御力上昇)とフライドポテト(防御力上昇)の組み合わせもダメ。
普通に美味しいと思うんだけど。
「……葉菜花」
「ベルちゃん、なにか食べたいものある? それを基準に考えてみるよ」
「……私、あんまりしょっぱいものは……お肉と甘いものが好き」
「うん。魔石ごはんといえども塩分過多は良くないよね。だから……えっと、スイカにお塩みたいな?」
お塩が甘さを引き立てるようなものがいいんじゃないかな。
もしかして生ハムメロンもそういうコンセプトだったの?
しょっぱくて甘くて……あ。
ひとつ思いついたので、お皿とコップを渡してもらう。
ダンジョンアントの魔石をひと摘み。
……うわあ、まだまだたくさんあるなあ。
百五十三袋あるダンジョンアントの魔石が一袋分も減ってない状況はちょっと怖い。
初日にシオン君が用意させた一袋もまだ残ってるし。
ひとつのお皿に五個くらい入れて一食分にしてて、しかもシオン君とベルちゃんはそれを何皿もお代わりするというのに。
アリの巣殲滅計画で、また増える。
冒険者ギルドのマスターが言ってたダンジョンアントが顎を噛み合わせる音が、ラケルの影から聞こえてきそうな気がする。
シオン君にお願いして、引き取り賃を一袋金貨一枚に吊り上げたほうがいいかしらん。
……気を取り直して、お皿の魔石に魔力を注ぎ込む。
さっきおじいちゃん行きつけの喫茶店でナポリタンを食べたことを思い出したとき、このメニューについても思い出していたのだ。
え? お皿とコップに入れた魔石の同時変成? 余裕でできますけど。
甘くて、どこか懐かしい香りが辺りに満ちる。
ベルちゃんが呟く。
「……黄金色」
バターを載せてメイプルシロップをかけた、ふっかふかのホットケーキにバニラアイスを添えて。ドリンクはホットココアです。
魔石を複数使って、喫茶店と同じくらいの大きさにしてみました。
「食べてみて」
「……いただきます」
ベルちゃんはフォークで、器用にホットケーキを切り分けていく。
口に運んで、
「美味しーい」
と破顔した。
お塩の要素はバターです。
おじいちゃん行きつけの喫茶店のホットケーキは、蕩けそうなほど甘い中に塩みがちょっぴりあって、美味しさが引き立てられていた。
あと……ココアはおじいちゃんと同じコーヒーを飲みたがるわたしに、子ども用のコーヒーだよ、ってマスターが出してくれてたんだよね。
高校生になったら、コーヒーをご馳走してくれるって言ってくれてたなあ。
「ホットケーキに神聖系魔術の威力増幅効果、アイスクリームにMP消費量減少効果、ココアにMP自然回復率上昇効果。付与効果が上書きされずに増幅し合っているな」
シオン君が『鑑定』スキルを使って確認してくれる。
「まさに『聖域』を使うもののためだけに構成されたような組み合わせだ。だが、『聖域』を使えないものが食べていけないわけではなかろう。葉菜花、俺にも作ってくれ」
「わかった」
「……葉菜花。このソースはハチミツではないの?」
「メープルシロップって言って楓の樹液だよ。……たぶん」
特別な楓だった気もする。
「楓か。葉菜花の世界のものとは違うかもしれないが、この辺りにも生えている。アリの巣殲滅計画が終わったら視察に行ってみるか」
シオン君も気に入ってくれたようだ。
「ごしゅじん! 俺、その匂い知ってるぞ。じぃじとの散歩から帰って来たときの匂いだ!」
じぃじ……おばあちゃんがチビ太に「ばぁばですよー」と呼びかけてたのは知ってたけど、おじいちゃんもそうだったんだ。
「わたしの分も作るから、半分こして食べてくれる?」
「いいぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ホットケーキを楽しんだあと、ぜんざい(神聖系魔術の威力増幅)+塩昆布(邪毒系状態異常耐性上昇)+ほうじ茶(MP自然回復率上昇)のセットやアップルパイ(集中力上昇)+ハチミツかけバニラアイス(精神力上昇)+ホットティー(MP自然回復率上昇効果)のセットなどを見つけ出すことができた。
アップルパイのセットは少し目的と違う付与効果になりました。
おばあちゃんの好きだった古代エジプトを特集したテレビかネットの番組で、シナモンは宗教儀式で使われる聖なる香煙だったって話があったから、シナモンを効かせたアップルパイは神聖属性でイケると思ったんだけど。
今度シナモンロールも作ってみよう。
アップルパイだとリンゴの集中力上昇効果のほうが強いのかもしれない。
集中して放たれた矢で射られたりする果物だし。
そしてアイスは、やっぱりソースによって効果が変わるみたいです。
ハチミツ……ハチのモンスターもいるのかなあ。
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