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一匹目!
14・モフモフわんこのお耳を拝借!
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「タロ君、抱っこしようか?」
わたしが聞くと、黄色いリードの先で黒い豆柴が振り向いた。
ニヤリと笑った彼は、念話で答えて走る振りをする。
(やなのだ)
「こら、走っちゃダメだよ」
もちろん基本は賢い犬なので、すぐわたしに寄り添った。
隣を歩く豆柴を見下ろして言う。
「夏のアスファルトの照り返しは、小さな犬や猫には危険なんだよ?」
(吾はモンスターだから平気なのだ)
まあその通りなんだろうな、とは思う。
正直言うと、タロ君と距離ができて闇の魔気で涼めなくなったわたしが辛いだけだ。
買ったばかりの首輪とリードが嬉しくて仕方がないみたいだし、今日はいいか。
わたし達は買い物の後、ペット用品店近くにある動物病院へ寄ってから帰路に就いた。
予防注射や届け出の相談をするついででタロ君にお友達ができたらいいな、なんて甘いことを思っていたのだけれど、飼い犬にも野性は残っていたらしく、待合室にいた犬達はタロ君が来るなり一斉に怯えてお漏らしをした。
それから股下に尻尾を隠して飼い主の後ろに隠れたり、抱っこしてくれていた飼い主に登って逃げようとしたりし出して阿鼻叫喚──うん、お友達とか無理。
お友達以外は滞りなく終わり、タロ君がモンスターだと気づかれることもなかった。
予防注射は全然平気だったみたい。
ぴこーん♪
繁華街から住宅地へ向かう道を歩いていたら、公園の手前で頭の中に電子音が響いてきた。
……ん? これは?
タロ君にも聞こえたのか、足を止めてわたしを見上げてくる。
【ダンジョンに訪問者がやって来ました】
【ダンジョンマスター『晴』はレベルアップしました!】
【ダンジョンマスター『晴』はレベル3になりました】
【ダンジョンマスター『晴』は特殊スキル『アイテムコア作成』を習得しました】
なんか情報量が多いっ!
というか、ダンジョンに調査会社が来ちゃったのか。
いや、来てくれていいんだけど。明日以降も来てくれないと困るんだけど。困るというか死んじゃうんだけど。
(きゃー♪ 抱っこされたのだー♪)
わたしはタロ君を抱き上げ、人気のない路地に入って転移した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダンジョンには、六人編成のチームが二隊来ていた。
十二人チームではなく六人チーム二隊だと思ったのは、一隊はダンジョンの出入り口の前で待機しているからだ。
迷宮化しているようなダンジョンだと、退路を守るのも大切なことなのだろう。
制服なのか、みんな機動隊員のような恰好をしている。
黒い上着とズボン、透明の覆いがついた灰色のヘルメット、同じ色の防護ベストと各種プロテクター。ベストの背中には『DSSS』の文字があった。
昨日ネットで検索したところによると、確か『ダンジョンサーチサポートサービス』の略で『ダンジョンスリーエス』と呼ばれている。元自衛隊員を中心に組織された民間の会社だ。
エントランスを歩いているほうの六人は、ヘルメットの覆いを上げて辺りを観察している。学校のグラウンドの端と端にいるようなものなので、顔まではわからない。
ダンジョン調査がお仕事の人達なんだから、下級モンスターが積極的に襲って来ないことくらい知っているよね。
実際マッドゴーレム達は彼らに近づかれると自分から逃げていく。……このままマッドゴーレムを倒さずに帰られちゃったらどうしよう。
DSSSの面々は防具こそこの世界のものを身に着けているが、手にした武器はダンジョン製のものばかりだった。
剣や弓、短剣をお手玉のように投げて遊んでいる人もいる。
ひとり仮面舞踏会で着けるような棒付きのマスクを持っている人がいた。鑑定眼や魔眼の付与効果付きのアイテムコアかもしれない。
実は、これまでドロップしたアイテムコアの中に防具はなかったと言われている。
付与効果のあるアクセサリーは防御が上がらないので、ダンジョンに入る人間は普通にこの世界の防具を利用していた。
重火器とは違い、この世界の防具はちゃんとモンスターの攻撃に対しても効果を見せているそうだ。
「うーん、なに話してるのかな?」
「マスター聞きたいのか?」
オルトロス姿のタロ君に頷くと、大きな肉球をそっとわたしの耳に当ててきた。
この姿だと毛が長いせいか、さっき買った首輪が見えない。というか、豆柴サイズで買った首輪はオルトロスサイズのときどうなってるんだろう。
……モンスターだから大丈夫なのかな?
首輪について考えるのはやめにして、耳に当てられた肉球を見る。
小さいときの肉球も大きいときの肉球も色は黒だ。
サクラの肉球も黒だったなー、なんて懐かしみながら、ひとまず肉球の感触を味わって落ち着こうとしていたら──
『隊長、どうします?』
『レーダ探査で確認したところ、ここはこのエントランスと奥にあるボス部屋だけだった』
『このフロアには今入って来た以外の出入り口は見えませんよー?』
『ボス部屋はあります。結界が張られていて、こちらからは存在が確認できませんが、出入り口の真正面にボス部屋の入り口があります』
彼らの会話が聞こえてきた。
ぼんやりとだけど、彼らの姿かたちのイメージも頭に浮かんでくる。
「吾の聴覚をマスターと半分こした。DPもMPも消費しないから安心するのだ」
「ありがとう。……こっちの声は聞こえないよね?」
「なにか言いたいことがあるのか?」
「そうじゃなくて、わたしとタロ君の会話を聞かれたら困るなーと思って」
「結界があるから大丈夫だ」
ホッとして、もう一度耳を澄ませる。
『高原、結界の解除条件はわかるか?』
『知りたいのなら、もっと高性能のアイテムコアを買っていただけませんか。このアイテムコアの性能では結界に隠された部屋がある以上のことはわかりません』
『そうだな。……平野、お前はどう思う?』
『結界の解除条件はひとつじゃないですからねー。指定されたアイテムコアを持って行くことで開く場合もあるし、訪問者のレベルで選別されることもある。決まった日時のみ開く結界もありますが……今の俺達に可能なのはエントランスのモンスターをすべて倒して実力を見せることくらいじゃないですかねー』
『そうか。じゃあそうするか』
『勝手にそんなことして大丈夫なんですか、隊長』
『調査だけだとはいえダンジョンの中では命がけなんだ。それくらいの判断も許されないんなら、こんな仕事やっていけないだろ』
『ボス部屋からボスが出た事例はこれまで報告されてないから、結界解いてボス部屋に入った後、強そうだったら逃げちゃえばいいですよー』
『ボス部屋に入った時点で新しい結界が張られる可能性もあるでしょうが』
『結界だけ解いて入らずに外から覗けばいい。……始めるぞ』
隊長と呼ばれている男性の号令で、彼らは戦闘を開始した。
攻撃を受けてマッドゴーレム達も反撃する。
遠目だし、DSSSの面々がファンタジーじみた武器(大剣とか)で戦っているので、なんだかとても現実味がなかった。ゲームの画面を見ているようだ。
わたしが聞くと、黄色いリードの先で黒い豆柴が振り向いた。
ニヤリと笑った彼は、念話で答えて走る振りをする。
(やなのだ)
「こら、走っちゃダメだよ」
もちろん基本は賢い犬なので、すぐわたしに寄り添った。
隣を歩く豆柴を見下ろして言う。
「夏のアスファルトの照り返しは、小さな犬や猫には危険なんだよ?」
(吾はモンスターだから平気なのだ)
まあその通りなんだろうな、とは思う。
正直言うと、タロ君と距離ができて闇の魔気で涼めなくなったわたしが辛いだけだ。
買ったばかりの首輪とリードが嬉しくて仕方がないみたいだし、今日はいいか。
わたし達は買い物の後、ペット用品店近くにある動物病院へ寄ってから帰路に就いた。
予防注射や届け出の相談をするついででタロ君にお友達ができたらいいな、なんて甘いことを思っていたのだけれど、飼い犬にも野性は残っていたらしく、待合室にいた犬達はタロ君が来るなり一斉に怯えてお漏らしをした。
それから股下に尻尾を隠して飼い主の後ろに隠れたり、抱っこしてくれていた飼い主に登って逃げようとしたりし出して阿鼻叫喚──うん、お友達とか無理。
お友達以外は滞りなく終わり、タロ君がモンスターだと気づかれることもなかった。
予防注射は全然平気だったみたい。
ぴこーん♪
繁華街から住宅地へ向かう道を歩いていたら、公園の手前で頭の中に電子音が響いてきた。
……ん? これは?
タロ君にも聞こえたのか、足を止めてわたしを見上げてくる。
【ダンジョンに訪問者がやって来ました】
【ダンジョンマスター『晴』はレベルアップしました!】
【ダンジョンマスター『晴』はレベル3になりました】
【ダンジョンマスター『晴』は特殊スキル『アイテムコア作成』を習得しました】
なんか情報量が多いっ!
というか、ダンジョンに調査会社が来ちゃったのか。
いや、来てくれていいんだけど。明日以降も来てくれないと困るんだけど。困るというか死んじゃうんだけど。
(きゃー♪ 抱っこされたのだー♪)
わたしはタロ君を抱き上げ、人気のない路地に入って転移した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ダンジョンには、六人編成のチームが二隊来ていた。
十二人チームではなく六人チーム二隊だと思ったのは、一隊はダンジョンの出入り口の前で待機しているからだ。
迷宮化しているようなダンジョンだと、退路を守るのも大切なことなのだろう。
制服なのか、みんな機動隊員のような恰好をしている。
黒い上着とズボン、透明の覆いがついた灰色のヘルメット、同じ色の防護ベストと各種プロテクター。ベストの背中には『DSSS』の文字があった。
昨日ネットで検索したところによると、確か『ダンジョンサーチサポートサービス』の略で『ダンジョンスリーエス』と呼ばれている。元自衛隊員を中心に組織された民間の会社だ。
エントランスを歩いているほうの六人は、ヘルメットの覆いを上げて辺りを観察している。学校のグラウンドの端と端にいるようなものなので、顔まではわからない。
ダンジョン調査がお仕事の人達なんだから、下級モンスターが積極的に襲って来ないことくらい知っているよね。
実際マッドゴーレム達は彼らに近づかれると自分から逃げていく。……このままマッドゴーレムを倒さずに帰られちゃったらどうしよう。
DSSSの面々は防具こそこの世界のものを身に着けているが、手にした武器はダンジョン製のものばかりだった。
剣や弓、短剣をお手玉のように投げて遊んでいる人もいる。
ひとり仮面舞踏会で着けるような棒付きのマスクを持っている人がいた。鑑定眼や魔眼の付与効果付きのアイテムコアかもしれない。
実は、これまでドロップしたアイテムコアの中に防具はなかったと言われている。
付与効果のあるアクセサリーは防御が上がらないので、ダンジョンに入る人間は普通にこの世界の防具を利用していた。
重火器とは違い、この世界の防具はちゃんとモンスターの攻撃に対しても効果を見せているそうだ。
「うーん、なに話してるのかな?」
「マスター聞きたいのか?」
オルトロス姿のタロ君に頷くと、大きな肉球をそっとわたしの耳に当ててきた。
この姿だと毛が長いせいか、さっき買った首輪が見えない。というか、豆柴サイズで買った首輪はオルトロスサイズのときどうなってるんだろう。
……モンスターだから大丈夫なのかな?
首輪について考えるのはやめにして、耳に当てられた肉球を見る。
小さいときの肉球も大きいときの肉球も色は黒だ。
サクラの肉球も黒だったなー、なんて懐かしみながら、ひとまず肉球の感触を味わって落ち着こうとしていたら──
『隊長、どうします?』
『レーダ探査で確認したところ、ここはこのエントランスと奥にあるボス部屋だけだった』
『このフロアには今入って来た以外の出入り口は見えませんよー?』
『ボス部屋はあります。結界が張られていて、こちらからは存在が確認できませんが、出入り口の真正面にボス部屋の入り口があります』
彼らの会話が聞こえてきた。
ぼんやりとだけど、彼らの姿かたちのイメージも頭に浮かんでくる。
「吾の聴覚をマスターと半分こした。DPもMPも消費しないから安心するのだ」
「ありがとう。……こっちの声は聞こえないよね?」
「なにか言いたいことがあるのか?」
「そうじゃなくて、わたしとタロ君の会話を聞かれたら困るなーと思って」
「結界があるから大丈夫だ」
ホッとして、もう一度耳を澄ませる。
『高原、結界の解除条件はわかるか?』
『知りたいのなら、もっと高性能のアイテムコアを買っていただけませんか。このアイテムコアの性能では結界に隠された部屋がある以上のことはわかりません』
『そうだな。……平野、お前はどう思う?』
『結界の解除条件はひとつじゃないですからねー。指定されたアイテムコアを持って行くことで開く場合もあるし、訪問者のレベルで選別されることもある。決まった日時のみ開く結界もありますが……今の俺達に可能なのはエントランスのモンスターをすべて倒して実力を見せることくらいじゃないですかねー』
『そうか。じゃあそうするか』
『勝手にそんなことして大丈夫なんですか、隊長』
『調査だけだとはいえダンジョンの中では命がけなんだ。それくらいの判断も許されないんなら、こんな仕事やっていけないだろ』
『ボス部屋からボスが出た事例はこれまで報告されてないから、結界解いてボス部屋に入った後、強そうだったら逃げちゃえばいいですよー』
『ボス部屋に入った時点で新しい結界が張られる可能性もあるでしょうが』
『結界だけ解いて入らずに外から覗けばいい。……始めるぞ』
隊長と呼ばれている男性の号令で、彼らは戦闘を開始した。
攻撃を受けてマッドゴーレム達も反撃する。
遠目だし、DSSSの面々がファンタジーじみた武器(大剣とか)で戦っているので、なんだかとても現実味がなかった。ゲームの画面を見ているようだ。
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