王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

文字の大きさ
69 / 76
7

忘れられた存在

しおりを挟む
 レジナルドはリーナの居場所をスコールに聞き出すと、そのまま二人で確認に向かう事にした。王宮の警備は第一騎士団副団長に臨時で任せると急いでバトラー公爵邸──つまりはスコールとレジナルドの邸へ急ぐ。
「しかし何で俺が謹慎って事で強引に王宮に泊まらされたのかやっと分かったよ、リーナ様がウチにいるなんて…。」
「すぐに王宮を出たいと言われたのだが他に行く宛てがなかったんだ。私も王宮に泊まり込んでいて邸には誰も居ないからな、却ってその方が警備がし易いというのもあった。」
「…何も無いといいんだけど。」
「あぁ。」
 もう少しで自邸に到着するという所で、スコールは前方から走ってくる馬車に気が付いた。
「レジー、あれを。」
「…家紋のない馬車?」
 馬車には普通はその家の紋が入っている。貴族の邸が立ち並ぶこの辺りでは紋のないお忍びの馬車も珍しくはないのだが何かひっかかるものを感じた二人は、急いで馬車を停める事にした。
「何事です?」
「失礼します、馬車の中を確認させて頂きたい。」
 いきなり馬車を停められて驚く御者には構わず、スコールは扉に手をかけようとした。
「スコール団長?」
「リーナ様?」
 急に停められたことに驚いたのか扉の窓から覗いたのは今まさにその居場所を確認しようとしていたリーナ本人だった。
「どういう事なの?騎士団で貴方が呼んでいるからと…。」
 レジナルドが開かれた馬車の扉から中を伺い確認するがそこにはリーナの他に誰も乗っていない。
「誰か迎えの者は来なかったのですか?」
「いいえ。馬車だけよ?」
 その言葉にレジナルドは息を呑んだ。スコールもまた同様だ。
「リーナ様はこのまま邸へお戻りください。レジー、リーナ様は任せた。私は急いで王宮へ戻る!」
 スコールはレジナルドを急かすと自らは先に馬首をひるがえした。

 王妃は部屋で一人本を眺めていた。声を出すことも極力避けていたのでまだ王宮内でその声を聞いたのは王族以外ではスコールとセシリアくらいのものだった。できるだけ目立たぬように存在感を消し、自室で籠っているというのに…。侍女が訪問者を知らせに来たのは早朝の事だった。
 その訪問者の名が告げられると王妃はまるで凍りついたように表情を失った。
「王妃様、大変ご無沙汰しております。」
 誰も通すなと言い置かれていた侍女と騎士が許可を得ることなく通したのはその人が第二騎士団の副団長だからだ。王妃の元を訪ねてきたのはビューロー侯爵だった。
「王妃様が王都に戻られる日を…私は心の底から待ち望んでおりました。」
 王妃がごくりと喉をならすのが分かった。しかし何も声には出さない。
「9年になりますか?長かったですな。離宮はそんなに居心地がよかったのですか?ここに戻ってくるのもお嫌になるくらいに?」
 侯爵は何かにとりつかれたかのように一方的に話を続けた。王妃が返事を返さないことを気にしている様子もない。
「それとも、時が経てば誰もが忘れてくれるとでもお思いでしたか?」
 侯爵は表面上はにこやかな笑みをたたえたまま王妃に一歩近づいた。
「…私は決して忘れません。16年前…貴方があんな風に騒ぎを起こさなければ、妻は死なずに済んだんだ。」
「…16年前?」
 王妃は震える声で小さく呟いた。
「貴方には取るに足りない出来事だったのでしょう?お生まれになったばかりの殿下が熱を出されたからと。あの日私たち騎士は休みだった者も駆り出されて総動員で王宮内の調査を命じられました。いるはずもない不審者を見つけよとの命令で。」
「…」
「結局殿下の熱はすぐに下がり、疑わしい者も見つかりませんでした。幼い子にはよくあることです。ですが、あの日私は妻を領地まで護衛していく約束を果たせなかった…。」
 言い終わらぬ内にビューロー侯爵は懐に手を入れた。
「カーラを…カーラを殺したのは貴方です!」 
 侯爵が懐から何かを取り出そうとしたまさにその時、侯爵の身体は何者かによってがっしりと背後から羽交い絞めにされた──一瞬の事だった。静かな部屋に侯爵の僅かな唸り声が響く。
「それまでです、侯爵。」
 ビューロー侯爵はいきなり後ろから現れた人物を振り返ることもできなかったがその声を聞いただけであっけなく肩の力を抜いた。
「…ジークフリート殿下…。」
「ゆっくりとその手を懐から出してください。」
「…どうして殿下がここに?」
「侯爵、私は気が短いのです。手を出してください。」
 侯爵は尚も諦めきれない様子でしばらく歯を食いしばっていたが、ジークフリートの手が強く締め付けるのを感じるとその懐からゆっくりと短刀を取り出し、足元に投げた。
「リア、控えている騎士を呼んで。」
「セシリア?まさか!」
 侯爵は首をわずかに動かし、その姿を確認しようとしたがジークフリートの手は緩むことがなかった。
「騎士が来るまで動かないでいただきたい。私もリアの父君に手荒な真似をしたくはないのです。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

【完結/番外追加】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば
恋愛
彼女は進む。過去に囚われた者たちを残して── 大商会の娘サーシャ。 子どもの頃から家業に関わる彼女は、従妹のメリンダと共に商会の看板娘として注目を集めていた。 華々しい活躍の裏で、着実に努力を重ねて夢へと向かうサーシャ。しかし時には心ないことを言う者もいた。 そんな彼女が初めて抱いた淡い恋。 けれどその想いは、メリンダの涙と少年の軽率な一言であっさり踏みにじられてしまう。 サーシャはメリンダたちとは距離をおき、商会の仕事からも離れる。 新たな場所で任される仕事、そして新たな出会い。どこにあっても、彼女が夢を諦めることはない。 一方、光に囚われた者たちは後悔と執着を募らせていき── 夢を諦めない少女が、もがきながら光を紡いでいく軌跡。 ※前作「ルースの祈り」と同じ世界観で登場人物も一部かぶりますが、単体でお読みいただけます。 ※作中の仕事や制作物、小物の知識などは全てフィクションです。史実や事実に基づいていないことをご理解ください。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

処理中です...