恋なんてするわけがないっ!!

シルド

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番外編

お父さんの煙草④

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「ありがとな。じゃあな、気をつけて帰れよ。」

櫻井さんは会社の近くの駅から、2駅離れたところに住んでいる。私は会社のある側とは反対の、駅の向こう側に家があるため、櫻井さんとは駅で別れることになる。

テキーラを一気飲みはしたけれど、お酒に弱くない櫻井さんは顔色一つ変えず確かな足取りで改札へと続く階段をのぼっていった。

私は櫻井さんと彼女がうまく行くことを願いながら家に帰った。



翌日、特に目的もなく電車で5駅離れたところの駅ビルを一人でブラブラしていると、見知った顔を見かけた。

まさかこんなところで会うとは思わなかった相手に驚く。

だって櫻井さんの家からは7駅離れていて、しかもたくさんある駅ビルの内の一つで会うのだから。

見れば櫻井さんは女性と一緒にいる。

かわいいと綺麗を半分ずつ備えたような、男も女も関係なく思わず頭を撫でたくなるような、そんな感じの女性だ。

櫻井さんがアクセサリーショップに目を向けると、その女性もそちらを見てブースに入っていく。

女性の楽しそうな声が聞こえて、幸せなんだな、よかったと思ってその先のお気に入りのブランドの服の置いてあるブースに向かう。

彼らの後ろを通ろうとした時だった。

「……やっぱり俺……父親になる資格ない。」

そんな櫻井さんの声が聞こえた。

たいして大きくもない、むしろ隣にいたって聞き逃してしまいそうな微かな声だ。

悩んでいることがわかる、絞り出した掠れたそれ。

「どうしてもそう言うの?」

悲しげな女性の声がした。


「あの……、お茶飲みませんか?」

空気の読めないことしてるなぁと自分でもわかっている。

完全なる部外者だ。
しかもこんなに繊細で複雑な問題に。

「えっ……?」

女性の戸惑った声を出した。

だけど、無視できなかった。
もどかしい気持ちが抑えきれない。

それに、ブライダルを掲げたこのアクセサリーショップの輝きに、彼らの雰囲気がより一層暗くさせられたように見えたから。

勝手な判断だけど、はやくここから連れ出さないといけない気がした。

「……紀田、お前。」

櫻井さんが悩んだ顔のまま私を見た。

「櫻井さんと同じ部署で働いています、紀田紅華です。」

自己紹介を手短に済ませて女性の手を引く。

そのままカフェに向かった。

突然現れた変な女に手を引かれて、抵抗しても当たり前だと思うけれど、その女性は戸惑いながらも手を振りほどくこともせずについてきてくれる。

その後ろから櫻井さんもついてくる。いつも通りだったら、おい、とかなんとか言われそうなものだ。ただ今回はいつも通りの彼ではない。何も言わずについてきてくれた。

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