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いい子の反逆

本当に、君は、

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「お、やっと着替え終わった? 廊下はね、天使様の全裸でみんな煩悩まみれって感じ、地獄だったよ」

 なんとか涙も勃起もおさまってそっと胸を撫で下ろす、とても教室でするようなことではない事を致してしまったが、その防音魔術ってやつのお陰で勘付かれていないか……? いない事を願おう。

「無事に終わりましたよ、授業を再開しましょう!」

「そっかー流石は可愛い弟だなぁ「兄さん、授業」わかった、そうだ授業終わったらね」

「遠慮しときます」

「まだ何も言ってない……」

「どうせ碌なモノではないでしょう」

 想像を遥かに絶するぐらいズバズバしているが、あんな悪戯っ子な本性があるのだとすれば、兄に対しての辛辣な態度も一応は納得出来る。気の毒だと同情はさせてもらうが。

「天使様、お名前は書きましょう! この学園の教科書は防犯や盗難防止目的のために名前を書いていない生徒と、書いた生徒が許可した人間以外が開くと脱衣してしまう魔術が込められているのです」

「もっとマシな防犯対策しろよ」

「そうでしょうか? 服を脱がすことによって防御力が著しく下がりますし、大胆な行動が取れなくなってしまいますので、かなり有用ですよ?」

 ものはいいようだな。まあ人を傷付けずに犯罪を阻止すると言う点では間違っていないのかもしれない。毒され過ぎかも知れないが、感度が上がる仕掛けとかだったら多分もっとヤバい惨事が起こったのは想像に容易い。とりあえずもうこんなのは2度とゴメンなので、一冊一冊丁寧に朝比奈一と書いておく。
 大丈夫と言われたものの怖かったので深呼吸して開いたみると、もうあの珍妙な煙が出る事はなくただの本となっていた。ちょっとガッカリする周りの声が聞こえて恥ずかしい気分になったのは内緒だ。なんだか自分の体が変になっていく。周りから性的な目で見られるのなんて初めてだし普通嫌悪感がくるものだと思う、なのに表現出来ない感覚が背中を駆け巡ってムズムズする。

「……先程は申し訳ありませんでした。俗世に疎い事を知っている僕が、1番注意して天使様を見ておけばこんな事にはならなかったのに」

「ん? あ、いいよもう」

 俯いてしまった俺を見て罪悪感が湧いたのだろうか。気にする事ないのに。いつもの俺なら先に言えやといった毒を1つや2つ飛ばしてやるのに、今はそんな気分じゃない。人って今までぶち当たった事ない毛色の悩み事に直面するとらしくない行動するんだな。
 それでも毒を吐く事以外のコミュニケーション方法を知らない俺は、当たり障りのない返しをすることしか出来ずに、素っ気ない感じになってしまった。素直になるって意外と、いや全然意外じゃない、予想通りに難しいな。

……

…………

………………

 オリエンテーションが終わった俺はまたまた素っ気なくトイレの場所を聞き、そして個室に引きこもってしまった。白い石でできた地中海って感じの空間にあるトイレで、照明のおかげかとても明るい。個室とトイレの廊下を繋ぐ木の扉は上の方に隙間があるおかげで廊下からの照明を遮る事なく個室も明るくそして綺麗だった。学校でこんなことしたくないと言うのは今更か、むしろトイレだから許してくれと願いつつ、ズボンを下ろした。

 さっき治ったといったな、アレは半分嘘だ。周りが俺をいやらしい目で見てくるたびに、少しずつ勃ち上がって、完勃ち寸前までいってしまっている。紐を恐る恐る解くとピンと音を立てて硬いそれが上を向く。

「……こんなはずじゃなかったんだけどな」


 __元の世界にいた頃の俺は、身長を伸ばす事しか考えてなかった。周りには、男も女も149㎝の自分を揶揄う奴しかいなかったからそいつらも敵扱いして、色恋沙汰とは無縁の人生だった。
 だからいきなり好きだとか可愛いだとか言われても最初は何一つピンとこないし、少なくとも嬉しくはなかった、困惑の方が圧倒的に優っていた。

 だが今はどうだ? 好きだと言ってくれるスターやアナに身を任せ、いやらしい目で見てくる奴らに気持ち悪さも引き出せない。自分はどこに向かっているんだろ。陰茎を持つその手の確かな震えを感じた。





「ハジメ、大丈夫か?」

 大きく体が揺れた。ドア越しに聞こえるJBの声にどう返していいのかわからない。
 どうやったら人をイラつかせず、思わせぶりな対応だと勘違いさずに済むんだろう。どんな言葉を使えば角のない優しい話し方に聞こえるんだろう。そもそも、どうして自分のアイデンティティは低身長と毒舌という不必要なものしかないのだろう。

 わからない、わからない。
 どうして自分はあんなに平気だった孤独や他人からの拒絶を恐れているのだろう。

「ッッ……あっち行け」

「いやそんな涙声で言われても、兎も角普通の用事でトイレに来たわけじゃないんだな」

「お前には関係ない、大きなお世話だ、向こうへ行ってくれ!!」

「ありゃりゃ……これは重症だな」

 止まらない、言葉の暴力が止まらない。自分の涙を見せたくない自尊心、もしくはこの世界の人間を根本的に信用してない臆病な自分、その2つが自分の心に重たい蓋をしていた。この蓋のせいで助けての短い言葉が言えないんだ、情けない話だろう。

「失礼するぜ、よっこらせ」

「え……」

 JBが上にあるわずかな隙間を通って個室に入ってきた。なんの悪びれもなく。跳躍力半端ないなとか覗き魔の方がまだ無害とかそんな指摘をする暇もなく、俺はこんな時にも勃起したそれを隠しながら威嚇するしかなかった。

「__初めて見た時から思ってたけど、ほんっと素直じゃねえよな」

「どうせそんな所も可愛いとか訳の分からん事言うんだろ、気持ち悪いんだよ」

「え、エスパーなの?」

「ほれみろ」

 嘘だ。ほんとは気持ち悪いなんて思ってない。寧ろありのままの自分をこんな風に認められるのなんて初めてで、どうしたらいいかわからないんだ。

 こうして俺とJBのトイレでの攻防は始まった。
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