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理性を失う狼

アレキンス・ジョセフレカの昔話 ※R18

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それは、アレキンス家への祝福だった。

それは、アレキンス家の大きな課題だった。

それは、アレキンス家を蝕み続ける呪いだった。



森の奥深くにある小さな集落。アレキンス家が先祖代々傭兵をしている村、おそらくアレキンス家が見捨てたら最後すぐに潰えてしまうか弱い村。そこに生まれた、人狼の更に上位であるウォーウルフとしては最後の純血種。それが俺と、可愛い弟達。所謂世間的に知られる人狼とは打って変わって、俺達は人間化に大きな制限がかかっていた。

まず自分の欲を満たし続けないと人間に化けるのが困難である事。それは人によっては睡眠欲であり、性欲であり、俺にとっては食欲だった。好きなもの(ビーフジャーキー)を食べ続けなければ人間化を維持できない。

次に厄介なのは、もともと本能的には獣に近いウォーウルフは一度人間化を解いたが最後、説得どころか人語も通じず暴走してしまう。ウォーウルフがそもそも性欲が強い種族であるのもそのめんどくささに拍車をかけている。

幼少期、俺は性欲を発散させるより美味しいものを食べることの方が幸せを感じる性格だったのもあって、その性を甘く見ていた。しかし夢精を機に性への目覚めをしてしまった三男とそれを心配していた次男によって、初めてそれの洗礼を受けた。

「に、兄さん……」

「んぅ……だあってろ……」

三男にマスターベーションを教えていたはずの次男が何を血迷ったのか、いいや、欲を抑えきれなかったんだろう。三男のそれを大きく口を開けて咥え込んでいるのを発見した。別に覗き見るつもりはなかった、深夜に厠へ行こうとしたらシンプルに見つけてしまったんだ。

2人は隠れる事と硬直することしかできない俺に全く気付かず、そのまま互いのモノの咥え合いを始めてしまった。

「あっ、ぁぅ……ひー、すっ……」

「にぃひゃん、きもひい?」

恍惚とした表情で、2人してとろけた目をしている。三男は口いっぱいに次男を咥え込み、次男は腰を屈めて必死に腰を振っていた。ビーフジャーキーと寝床さえあれば無問題の単純明快な俺とは違い、弟達は性的な事をすることで欲を発散する性質だった。俺は最低限知識はあれど経験はないし、性の認識があまりにも違いすぎるためどうとも言えなかったが、その時俺は確かに恐怖を覚えたんだ。あれだけ心の底から可愛いと思っていた弟達が、なんの前触れなく怖くなってしまった。

次男は俺に隠れて日々自分を慰める事で欲を誤魔化し、みんなに頼られる真面目な次男坊という役職を請け負っていたのか。そして三男もそれに薄々勘付きながらも素直な人気者を演じていたのか? ただ1つ言えることは、2人にとってそこは俺すら介入できない秘密の園である事。そこは聖域なのか、はたまた俺がいるこの性とは無関係だった環境がアイツらから見たら聖域なのか、わからない。

「あっ!ふっ……ご、ごめん!」

「んー……ぅう!」

そろそろ限界なんだろう。次男が三男の頭を鷲掴み、ラストスパートをかける。苦しそうに目を細める三男は口を離そうと頭では思っているだろうが、本能に身を任せていたし何より欲に抗いたくないような目をしていた。

「ッ!あっ、は……ぁ……」

「んぐ……」

2人同時に果てる。荒い息を吐きながら互いを慈しむように舐めあう姿は兄弟といえど官能的で、確実に俺が見てはいけないものだった。

それ以来、俺は取り憑かれたようにビーフジャーキーを貪るのが癖になってしまった。少しでも食べる手を緩めると、次男と三男のアレが脳裏に蘇ってくるのが耐えられなかった。可愛い弟達を怖がってしまう自分が疎ましかった。ひょっとしたら友達思いで活発な四男も、果てにはまだ言葉を覚えたばかりの一家のアイドルにして末弟五男でさえも……と。

そう思えば、俺はひたすらに性欲という存在を無視し続け食欲と睡眠欲の発散に注力した。家では無感情を貫き、2人きりになりそうな環境は徹底的に避け、性的なものは全て遠ざけた。

距離を取っている俺を三男がたまに訝しげに見てくる事があったが、全力で気づかないふりをした。思えば俺も三男も次男も、本能に従っていたとは言え、四男や五男そして俺が寝ている間に互いを求めあっていた。アイツらもきっと怖かったんだ。自分たちがところ構わず致してしまう本当の意味での獣に堕ちないよう必死に耐えていたんだと思う。

だからこそ不甲斐なかった。そんな弟達の努力をろくに汲みとりもせず、ただいっときの恐怖から拒絶していた自分があまりにも。俺にできる事といえばせいぜいビーフジャーキーと寝床があれば満足する純真無垢な兄貴を演じる事だけ。こういう生き方だってあるんだという道を示す事。

だと、いうのに……

……

…………

………………

「ハ、ハジメ……」

獣じみた本能から解放された俺を待っていたのは地獄だった。間違いなく俺のせいでドロドロになってしまったハジメと抱きしめている自分。それらは一瞬まるで他人事のように見えた。

可哀想に、こんな小さな体で俺を受け入れて、ホロホロになってしまって。自分も結局同じだった。あれだけ隠して遠ざけ知らないフリをしてきたそれは後も簡単に、しかも最もバレたくなかった人にバレてしまった。

震える手、固まる思考。自分への失望に苛まれていた俺の自我を叩き起こしたのは、思わぬ来客だ。

ガチャリと本来聞こえるはずのない音。ハジメが手に持っていた赤い首輪が蛇のように1人でに動き、勝手に鍵を開けた。……ほーん。あれ動くんだ。

ギィ……という音と共に見知った奴等、スター、JB、アナと目が合った。
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