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ゾンビは既に死んでいる。よって呼吸を必要としない

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 村の兵舎で地図情報を得た事で分かった事がある。

 オレが流れ着いた川は北側よりも、南側の方が集落が多い。

 人が多ければ当然、冒険者等々の危険に遭う回数も多くなるが。

 その分、獲物にも多くあり付ける。

 こんなの考えるまでもない。

 ノータイムで南下だ。

 昔の日本人風に言えば、





 田舎から都会に出て一旗揚げる。





 って奴だな。

 違うか?





 ◇





 川を越える。

 それには橋を渡るか、舟に乗る必要がある。

 だが、それは人間の話だ。

 ゾンビに呼吸は必要ない。

 幅25メートル程、深さ4メートル程の大川だったが、川底をノロノロとゾンビポーズで行進だ。

 水流は激しいが爪先を川底の石に引っかけて歩いた。





 それが拙かった。





 いや。

 オレがファンタジーの世界を舐め過ぎていた。

 そうだ。

 ここはファンタジーの世界なのだ。

 川底にも魔物は居る。

 オレが遭遇したのは海老系の魔物だった。

 アメリカザリガニの4メートル級と表現した方がいいか。

 ともかく甲殻類のデカイのだ。

 鉄の精神を持つオレは別に気持ち悪いとは思わなかったが、甲殻類には表情がない。

 何を考えてるのか意図が読めない。

 そして両手にハサミを持っていた。

 それがゆっくりと動いた瞬間、攻撃される、とオレは悟った。

 オレはゾンビだ。

 動きがのろい。

 あの巨大なハサミなら胴体も簡単に切断出来るだろう。

 ゾンビなだけで回避は絶望的なのに、プラス水中だ。

 回避は不可能。

 仕方がない。

 引っかけていた爪先を岩の隙間から離して、水流に身を任せて間合いから離脱した。

 直後に、ハサミがオレに伸びてくる。

 水流の流れに乗って胴体は間合いの外に出たが、両腕を前に上げたゾンビポーズが災いして右腕がハサミで切断された。

 クソ。

 やってくれる。

 触れただけで瞬時に切断って。

 どれだけ切れ味と動きがいいんだ、あのハサミ。

 それとも右腕1本で済んでよかった、と安堵する場面か?

 そう思いながらオレは川の水流に流されたが、ピンチは続く。

 アメリカザリガニが追ってきたからだ。

 こちらは水流に翻弄されて体勢すらままならないのに。

 おいおい。

 オレは内心でヒヤリとしたが。

 このアメリカザリガニは前進が遅い。

 少なくとも水流で流されるオレよりも。

 数分間、アメリカザリガニはオレを追い掛け続けたが、途中で諦めて足を止めた。

 それでアメリカザニガニから水流に乗ったオレは遠ざかっていったのだった。





 『難を逃れた』とはオレは思わなかった。

 知ってるぞ、これ。

 蜥蜴系の魔物が居なくなったと思ったら虎系の魔物と遭遇したあれだろ。

 アメリカザリガニの縄張りを越えたのか?

 次は何だ?

 オレは水流に流されながら周囲を見渡した。

 オレはゾンビだ。

 なので、泳げない。

 試みたがバタ足もノロノロなのだから。

 少なくとも対岸には泳げれなかった。

 そしてタイムアップだ。

 案の定、次の魔物が出現した。

 今度はナマズ系のデカイ魔物だった。

 ナマズ?

 電気ナマズって居たような。

 と思った時には、オレの周囲でバチッと音がした。

 明らかに電気攻撃だ。

 別にダメージはない。

 ゾンビだからな。

 もしかしたらダメージを受けたかもしれないが痛覚がないので分からなかった。

 ナマズ系の魔物がオレに迫る。

 ナマズは魚だ。

 泳げるので、泳げないオレは回避不可能だ。

 そしてサイズは4メートル級。

 口もデカい。

 オレは上半身を丸ごとパクッと喰われた。

 終わった。

 そうすぐに思える程、オレは諦めが良くない。

 魚は舌が存在しないので、

 オレはナマズ系の魔物の下口腔の肉にガブッと喰らいついた。

 激痛が走ったのか、次の瞬間、ナマズ系の魔物がペッとオレを口から吐き出した。

 オレの口の中には一杯のナマズ系の魔物の肉。

 美味しくいただきながら水流に流されつつ、ナマズ系の魔物を見てるとUターンして帰っていった。

 んっ?

 あの図体だ。

 オレの口一杯の肉の損失程度でダメージがあったとは思えない。

 もしかして、オレが口の中で反撃したからではなくて、





 ゾンビの身体が毒だから吐き出しただけなのか?

 それとも純粋にゾンビが不味かったから?





 それでも助かった事には変わりはない。

 理由は不明だがラッキー。

 そう思ったが同時に、





 ナマズ系の魔物の餌にもならないって。

 プライドというか尊厳が踏み躙られたような気がするぞ。





 との葛藤が生まれた瞬間だった。





 その後も流されて、ようやくオレは対岸の岸辺へと何とか辿り着いたのだった。

 おっと、胴体にナマズ系の魔物の歯型がくっきりか。

 んっ?

 どこだ、ここは?

 体感では10分以上は流されたはずだが。





 こうして、オレはまた現在地を見失ったのだった。





 ◇





 何とか南下して岸辺に上がった場所は枯れた麦畑だった。

 完全に枯れてる。

 川のこちら側でも、オレが焼いた森から放流された魔物の被害に遭って放棄したのだろう。

 やはりエリートのオレは違う。

 被害規模がここまで広範囲とは。

 周囲に人影はない。

 例のピパリスの銀雷って名前付きネームドの魔物のお陰だろうか。

 オレはゾンビポーズをしてる視界の腕を見た。

 アメリカザリガニにやられて右腕を欠損している。

 早く修復しないとな。

 オレは左腕1本を前に出したゾンビポーズで歩き出した。





 ◇





 昼間は兵士や冒険者や行商人や村人と遭遇しなかった。

 夜になり、暗闇となる。

 オレは夜目が利くので夜でも大丈夫だ。

 だが、人間は違う。

 夜になると明かりを点ける。

 遠くで明かりがともり、それを目印に進んだ。

 近付いて分かった。

 いきなりのボーナスタイムだと。

 冒険者5人が呑気に焚火を囲んで眠ってる。

 正確には焚き火の前に座った見張りの男戦士がウトウトしている。

 残りはマントを羽織って地面で寝ていた。

 左手1本で闇の手を発動。

 見張りの男戦士を落とす。

 その後は寝てる男魔術師、男狩人、女武道家、男僧侶の順に次々と落とした。

 5人全員を落とした後、近付いて首筋を噛んでトドメを刺し、その後、美味しくいただいたのだった。

 損傷個所の右腕も、腹の歯型も完全に修復。

 腕が生えるって今更だが普通に凄いな。

 オレは移動を続けた。
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