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皆の前で婚約者に婚約破棄されたのに双方の親が婚約破棄を許してくれなかった。そればかりか不治の病(本当は毒)の美談まで広められて。貴族って怖い

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「ジュリア・キャピュレっ! まさかロザイラ・ヴェロー嬢の事を虐めていたとはなっ! さすがは卑怯なキャピュレ家の人間だけの事はあるっ! おまえにはほとほと愛想が尽きたっ! この場にて、おまえとの婚約は破棄させて貰うからそう思えっ!」

 サンフラワー王国の王宮の第2王子殿下の誕生日パーティーで、私にまさかの婚約破棄を突き付けたのは婚約者のロミー・モンタギュス公爵令息だった。

 そして、ロミー様の腕にはロザイラ・ヴェロー男爵令嬢が絡まっていた。

 何やら勝ち誇って私を見てますけど、アナタ、大丈夫ですか、頭の方?

 私、キャピュレ侯爵家の令嬢なんですのよ? キャピュレ侯爵家に喧嘩を売るなんて。

 いえ、それよりも今、問題なのはロミー様の方ね。

 この男、一体何を考えているのかしら?

 と言うのも、私の家のキャピュレ侯爵家とロミー様の家のモンタギュス公爵家は犬猿の間柄。

 それも双方が共に、サンフラワー王国内で大派閥を構成してるから始末が悪い。

 お陰で他国までも分裂を画策してきており、2年前に王家主導で双方の派閥を和解させる為に、私とロミー様の政略結婚が決まったというのに。

 それをぶち壊すなんて。

 冗談じゃないわ。私は何も悪くないんだから。

 そうよ。ロミー様の有責にしないと。

 私は婚約者としての当然の権利として、

「そんな事よりも婚約者の私を放っておいて何ですの、その御令嬢は?」

「黙れっ! おまえはもう私の婚約者では・・・」

「いいえ、黙りませんっ! キャピュレ侯爵家を代表して質問させていただきますっ! アナタは私と結婚してキャピュレ侯爵家が保有する伯爵位を継ぐ立場なのですのよ? なのに、結婚前から浮気とは・・・モンタギュス公爵家では一体どんな教育をされていたのかしら?」

 おっと、モンタギュス公爵家への嫌味が出てしまいましたわ。

 だって、子供の頃から散々モンタギュス公爵家の悪口をお父様に教えられてきたんですもの。

 幾ら王命だからって、僅か2年で仲良くしろ、と言う方が無理ですものね。

 王家も何を考えている事やら。

 因みに、今の伯爵位の継承の話は本当ですわよ。

 私はキャピュレ侯爵の嫡流家の長女ですけど、お兄様が居ますから。

 対するロミー様はモンタギュス公爵の嫡流家の3男坊。

 両家とも本家を継ぐ後継者は決まっていて、まあ、本家の余り者同士で両家の架け橋となる予定だったのですけど。

 まさか、婚約破棄されるとは。

 ふふふっ、ラッキーですわ。

 こんな男、元々大嫌いだったですし。

「うるさいっ! 今重要なのは、おまえのロザイラ・ヴェロー嬢に対する虐めであって・・・」

「はあ? この私がイジメ? キャピュレ侯爵家の実力が分かってらっしゃらないのね? キャピュレ侯爵家が本気を出せば、男爵家如き一瞬で潰せますのよ?」

 ジロリッと私が睨むも、ロザイラ様はまだ自分の立場が分かっていないのか、勝ち誇った顔をしていましたわ。

 実際に潰して見せてあげないと分からないようですわね、このテの部類は。

「うるさい、うるさい、うるさいっ! ともかくおまえの有責で婚約破棄をーー」

 とロミー様が叫ぼうとした時、

「何を騒いでいるっ!」

 とやってきたのはロミー様の父君であるモンタギュス公爵でした。

 まあ、王家の誕生会なのですから、居ますわよね、当然のように。

 あら、隣にはキャピュレ侯爵である私のお父様まで。

 王家に対するポーズとは言え、珍しいですわね、お2人が一緒だなんて。

「聞いて下さい、父上。このジュリア・キャピュレは愚かにもロザイラ・ヴェロー嬢を虐めてーー」

「待て、ロミー。その前に・・・何だ、その腕に纏わり付いてるゴミ虫は?」

 とロミー様の父君であるモンタギュス公爵が問うも、ロザイラ様が、

「ゴミ虫なんて、酷い」

 と泣き真似をしてロミー様が、

「父上っ! このロザイラは、政略で結ばれたそこのジュリアとは違い、私の真実の愛の相手ですっ! 私は、このロザイラと結婚しますっ! 父上、許して下さいっ!」

 あら、想像以上におバカだったようですわね。このロミー様って。

 まあ、手間が省けて助かりましたけど。

 笑いを堪えながら扇で顔を隠した私がお父様の顔を見れば、案の定、一番ブチキレてる時の冷たい微笑をしていらっしゃったわ。

 これでロミー様との婚約も御破算。

 15歳からキャピュレ侯爵家の為に2年間の苦行に耐えてきたのですから、次の婚約者は期待してますわよ、お父様。

 と思っていたのだけど、モンタギュス公爵がハンカチを取り出して眼元に当て(泣いてるフリですわよね、全然涙が出ていませんから)、

「そうか。ロミーはそこまでジュリア嬢の事を愛していたのか」

 はあ? 何を言っていますの?

 と私が注目してると、更にモンタギュス公爵が、

「自分の有責で婚約破棄をして、相手のジュリア嬢を守ろうとは。真実の愛、確かに見せて貰ったぞ」

 と訳の分からん事を言い、

「はあ? 父上、私は――」

 ロミー様が父君の顔を見て、何かを悟ったらしいですけど、それよりも早く、

「おまえの気持ちはよぉ~く分かった。後は任せろ。ロミーを屋敷に連れ帰れ」

 との命令で、取り巻きの貴族達があっという間にロミー様とロザイラ様をパーティー会場から連れ出していきましたわ。

 そして、ハンカチをしまったロミー様の父君のモンタギュス公爵が私の前で、

「まさか、ロミーがあそこまでジュリア嬢の事を思っていたとは知らなかったよ。息子の愛に免じて、この騒ぎは許してやってくれ」

 何言ってるの? ってか、待って。何、この流れ?

「ええっと、ですね?」

「許すのだよね、ジュリア?」

 モンタギュス公爵の隣に居たお父様がそう口添えをしたので、私は仕方なく、

「はい。よくわかりませんが、両家の為にも許しますわ」

 と答えてその日のパーティーはその後も続いたのだった。

 ◇

 3日後。

「はあぁっ? 私とあの浮気男との婚約が続行っ? どうしてですのっ?」

 キャピュレ侯爵家の屋敷のお父様の執務室で私はお父様に詰め寄っていた。

「仕方あるまい。王家主導の政略結婚なのだから」

「浮気されたのですわよ、私? それも皆の前であれだけ派手に婚約破棄を宣言されて、真実の愛とやらの浮気を叫ばれたのにっ? モンタギュス公爵家にキャピュレ侯爵家の名誉がはずかしめられたのですっ! 受けて立つのが筋ではあリませんかっ!」

 と私が詰め寄るもお父様は、

「何を言っている。王家に、争いは止めろ、と言われてるのに・・・それにな、ジュリア。ロミー殿は不治の病におかされているのだぞ。それでこのままでは王家主導の政略結婚の婚約者であるジュリアに迷惑が掛かると思い、殿下の誕生日パーティーでのあんな猿芝居を思い付いた訳だ。許してやれ」

 あれが演技? そんな訳ないでしょうが。

「ええっと・・・お父様、何ですか? その不治の病とかいう三文芝居の脚本は?」

 私が呆れながらお父様を見ると、

「確かに三文芝居の脚本だが、それが事実となる。モンタギュス公爵は3男坊を切り捨てたからな」

「モンタギュス公爵家が切り捨てた相手と結婚するんですの、私? それも浮気男と? 眼の前で浮気してるのを見逃すなど冗談ではありませんわ」

 と私が言うと、お父様が笑いながら、

「浮気など出来んさ。モンタギュス公爵が3男坊に毒を盛ったからな」

 と軽く言い、私は久々に背筋をゾクリッとさせましたわ。

 あのモンタギュス公爵は実の息子にもそれがやれる貴族ですから。

 2年前まではそれはもうお父様も手こずってましたからね。

 お父様が明日の天気の話でもするように、

「もう3男坊は寝込んでる。1人では立つ事も敵わない身体だそうだ。そしてジュリアはそんな不治の病の婚約者を愛しており、毎日のように看病の為にモンタギュス公爵邸に通う訳だ」

「敵地のど真ん中に? 冗談ですわよね?」

「いや、本気だ。パーティーでの婚約者が突き付けた婚約破棄に隠された真相を知ったジュリアは、別れたくない、とモンタギュス公爵に直談判し、そしてモンタギュス公爵の方もそんなジュリアの熱意に折れて結婚を許し、2人は結ばれる事になる。更に、ジュリアは奇跡的に愛する夫との間に1子を儲け、出産と同時に夫は天国へと旅立って、ジュリアはその愛する夫の忘れ形見と一緒に幸せに暮らすのさ」

 何、そのツッコミどころ満載の御都合主義の三文芝居の脚本は?

 あの浮気男が死ぬところはいいですけど。

「ええっと・・・嘘ですわよね?」

 私が問うと、お父様が、

「本当だ。政略結婚は続行だからな。今日からモンタギュス公爵邸に通うように」

「嫌ですわよ。そもそも、あんな浮気者の子供を産むなんて・・・」

「ああ、そっちはいい。好きな相手との子供を産んで。モンタギュス公爵とも話が付いてるから」

 お父様がマジ顔で私にそう言った。

 嘘、本当に娘の私にいる気ですの、その三文芝居を?

「――あの女はどうなりますの?」

「あの女とは?」

「居たでしょう。浮気男の横に?」

 私の指摘でようやく思い出したのか、お父様が、

「ああ、あの娘なら前パリス伯爵にとつぐ為にパリス伯爵領へと出発したぞ」

「もう? 仕事が早いのですね」

 と私は呆れながら、ふと、

「お待ちを、お父様。前バリス伯爵って誰ですの? そもそもパリス伯爵やパリス伯爵領なんて聞いた事ありませんけど」

「ああ、ジュリアは知らなかったか? 20年前に我が家に楯突いたんで父上が潰した爺さんさ。もう80歳を越えていたかな? 伯爵位を失っているので前伯爵という訳だ。パリス伯爵領という蔑称の隠語でな。王家が持つファルネ離宮の隣にある小さな村の事を言うのさ。殺さずに生かしてあるのは、まあ、見せしめだな、我が父上による」

「あらあら、80歳を越えて・・・お盛んですのね。前伯爵という方は。それに元貴族で、今はただの平民。まあ、男爵家の令嬢にはそれくらいの相手がお似合いかしら。で、娘の実家の男爵家の方はどうなりますの?」

「潰れるであろうな、半年以内に」

「結構」

「では、頼んだぞ。モンタギュス公爵邸通い」

 と言われて、

「畏まりましたわ、お父様」

 と婚約続行を私は覚悟したのでした。

 ◆

 どうして私がこんな目に。

 ロザイラ・ヴェロー男爵令嬢である私はモンタギュス公爵家の令息のロミー様と結婚して幸せになるはずだったのに。

 なのに、あの誕生日パーティーの直後、ヴェロー男爵家の屋敷にも帰して貰えず、私は馬車に無理やり乗せられて9日間移動した先の小さな民家の中に居た。

 民家には好色そうな脂ぎったお爺さんが居て、

「ヒョッヒョッヒョッ、これがワシの可愛いお嫁さんな訳か」

 と私の髪に触れてきた。

「いや、汚い手で触らないで」

 私が拒絶する中、私をこの屋敷まで連れてきた本物の王国騎士が、

「はい。そうです、前パリス伯爵。モンタギュス公爵からのプレゼントです」

 これが前伯爵? 嘘でしょーーって、そっちじゃない。

 まさか、モンタギュス公爵家の差し金だったなんて。

「嘘よ。私はロミー様と結婚するんだからっ!」

 私が震えながらそう言うと、

「男爵令嬢ごときが公爵令息と結婚出来る訳がないでしょうが。ロミー様もお認めになられましたよ。こちらの前伯爵とお幸せにお暮らし下さい。尚、逃亡した際は犯罪者として手配されるのでお気を付け下さいますように。まあ、結婚式と新婚半年間は我々がアナタを逃がす事はしませんが」

 と王国騎士がそう冷淡に言って、私は本当にこのお爺さんと結婚させられたのだった。

 ◇

 その後、本当にその三文芝居の美談がサンフラワー王国の社交界を席巻した。

 モンタギュス公爵とキャピュレ侯爵の二大派閥に、王家も承認したらしいので、それが真実となって。

 お陰で、満座で婚約を破棄された私は今や、婚約破棄に隠された真相を知り、病に伏せてる愛する婚約者を心配する健気な令嬢。

 そんな訳で、愛する婚約者とやらの看病の為に、毎日モンタギュス公爵邸に通わされていた。

 まあ、病室では本当に毒を盛られて死に掛けてるロミー様が、

「うううっ」

 と眼も開けられずに毒で苦しんで呻いているのだけれど。

 その姿を眺めるだけで結構笑えたわ。

 頬を抓っても、針で服の下を刺しても、身体が動かせずに呻くだけだしね。

 でもモンタギュス公爵邸のロミー様の病室でやる事が余りになくて、読書や刺繍三昧の日々になってしまったわ。

 だってお見舞いに来て、すぐに帰れなくて。

 毎日3時間以上、部屋で拘束って、さすがにやりすぎでしょ?

 お茶や高級菓子は用意されてるけど、こっちの身にもなって欲しいわ。

 そのような事情の為、私、読書も刺繍も嫌いだったのに、今や何百冊と読んだ読書家で、刺繍も上級者になってしまったわ。

 逆に大好きだったパーティーにも出席出来なくなってしまったのよねぇ~。

 愛する婚約者以外のエスコートなんてお断りですわ、との健気で一途な令嬢のポーズを取らなくてはならなくて。

 お茶会も余り出席してはならなくなってしまい、出席したら出席したで、

「聞きましたわ、ジュリア様、ロミー様のお話。不治の病とか」

「それをおもんぱかって殿下の誕生日パーティーで婚約破棄をロミー様が申し出られたのだとか? 愛されてますわね、ジュリア様はロミー様に」

「そのジュリア様もロミー様に一途で、婚約の継続を望まれたとか。毎日モンタギュス公爵邸の病に伏せてるロミー様の病室に通われていると噂になっていますわよ」

「さすがはジュリア様、貴族令嬢の鑑ですわ」

 貴族令嬢達に励まされる中、

「いえいえ、愛する婚約者の看病をするのは当然の事ですわ」

 私は悲劇のヒロインのお涙頂戴の嘘話を延々とする破目になり、馬鹿馬鹿しくてお茶会とも疎遠になってしまったわ。

 ◇

 そして例の婚約破棄騒動から半年後。

 私は結婚式を挙げる事となった。

 相手は誰かって?

 もちろん、毒を盛られて眼も開けられないロミー様よ。

 モンタギュス公爵とキャピュレ侯爵の二大派閥に、王家、更には他の貴族達が出席する中で、私はウエディングドレスを纏い、結婚式会場に入場した。

 新郎のロミー様は不治の病の所為で立てないどころか意識もないので椅子に座り、従者が3人掛かりで支えてる。

 そんな状態なので新郎は口も利けず、神父の問いかけにも返事出来なかったが、

「誓う、という心の言葉、確かに聞きました」

 両家が幾ら積んだのか、神父が臨機応変に対処して、私も、

「誓います」

 と宣言して、私は椅子に座るロミー様に誓いのキスをして、結婚式は恙無つつがなく終了し、皆から祝福されたのだった。

 ◆

 きたならしい前パリス伯爵と結婚させられたロザイラ・ヴェロー男爵令嬢の私はようやく王都に帰って来ていた。

 本当に半年間、王国騎士の一団が屋敷の周囲を見張った為に私はずっとお爺さんの妻をやらされてて、半年してようやく王国騎士の一団が居なくなったけど、それからも大変で、お爺さんの屋敷(実際は民家よ、あんなの)には金目の物がなくて、働きながら路銀を貯めて、何とか王都に帰ってきたのだけれど、私は両親が居るはずのヴェロー男爵家の屋敷を見て絶句した。

 正確には屋敷跡をだ。

 屋敷があった場所は更地になっていた。

「嘘よ? 何、これ?」

 私は地元の通行人数人に質問して、貴族の使用人っぽい人に話を聞けて、ようやく真相を知った。

「ああ、この男爵家なら潰れたよ」

「男爵家の屋敷の人達は?」

「確か罪人が送られる鉱山に連行されたはずだよ」

 あの女だ。

 あの女がやったに決まってるっ!

 私がそう思い立った時、余りの事に胸がムカムカして吐き気を催したくらいだった。

 許せない、あの女っ!

 ロミー様に言い付けてやるっ!

 ◆

 ロザイラ・ヴェロー男爵令嬢である私は前パリス伯爵という名ばかりの貴族の田舎の家に戻らされていた。

 実家が無くなってて、ロミー様が居るモンタギュス公爵邸の門を叩いたのが運の尽き。

 公爵家の私兵に捕縛されて王国騎士団に引き渡されて、そのまま田舎まで連れ戻されていたのだ。

 その際にロミー様があの女と結婚式を挙げた事を教えられた。

 田舎に送られる移動中、馬車の中で私が嘔吐を続けた事で男爵令嬢なのに町医者に見せられたらオメデタだと言われた。

「冗談じゃないわ。誰があんなお爺さんの子供なんて産むもんですか。堕ろして頂戴。産みたくないから」

 と言ったけど、王国騎士が許さず、私は胎児を堕ろす事も出来ずに、臨月を経て出産させられたのだった。

 ◇

 ロミー様との結婚から半年後、私は妊娠した。

 私のお腹の種はズバリ、ロミー様の父君のモンタギュス公爵、その人だった。

 私が指名したのよね。

「好き相手の子供を産んでくれていいぞ。何だったらモンタギュス公爵家の息子や親族を手配してもいい」

 とモンタギュス公爵邸のロミー様の病室で、私の産む子供の父親の話をモンタギュス公爵にされた時に、

「では、モンタギュス公爵で」

 とね。

「冗談だよな?」

「いえ、王家主導の政略結婚ですので、やるなら徹底的にやろうかと。ああ、罠に嵌めるとかそんなつもりは微塵もありませんから。疑うなら、妊娠するまで私を見張るメイドを付けて貰って構いませんので」

「考えておこう」

 と言われて、結婚後に、

「本当に私でいいのだね?」

「はい。お父様が倒せなかった唯一の相手ですので。お願いします」

「では子を作るとしようと」

 こうして私はモンタギュス公爵であるレオン様の子供を授かる事となり、私が男子を出産したその日に、当初の脚本通り、夫のロミー様は悲劇的にも死者の国へと旅立ったのでした。

 ◇

 もう。

 浮気男の死に立ち会いたかったのに、こっちが出産して大変な時に勝手に殺すだなんて。

 お父様もモンタギュス公爵のレオン様も気が利かないんだから。

 まあ、ようやく浮気男が死んでくれてせいせいしたわ。

 出産直後の葬儀は大変だったけど。

 ◇

 そして、息子の出産から3年後には二大派閥の差し金か、それとも総ての事情を知ってる王家の融和策か、私達の事を題材にした演劇が国内で人気を博していた。

 試しにお忍びで観覧に行くと、私役の女優がラストに産んだ赤子を抱きながらお星様になった死んだロミー様に向かって、

「ロミー様、アナタとの愛の結晶である息子ロミンは、私が立派に育ててみせますっ! どうぞ、空から見守っていて下さいねっ!」

 との決めゼリフで暗転して演劇は終了して、観客達は(特に御婦人達は)その純愛に涙したのだった。

 当事者の私は余りの美談にドン引きだったけどね。

 だって全部、嘘だから。

 まあ、夫の居ない独り身だけど、息子のロミンが一緒に居て、それなりに幸せなのは確かだけどね。

 と思ってると、劇を見ていた幼子を背中に一人背負って、更に別の幼子を腕にかかえてる小汚い女が、

「嘘よっ! こんな劇、全部嘘っぱちよっ! ロミー様は私を愛していたんだからっ!」

 と喚き始めた。

 すぐに取り押さえられて外に連れて行かれたけど。

 どこかで見たような気がするけど誰だったかしら?

 ◇

 それにしても、こんな嘘の美談を平気で市井しせい流布るふするなんて貴族って怖いわ。





 おわり。
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