騎士の成り損ないと言われた僕は王子の騎士（恋人）に成りました

サミエル・グロース⑤

カンカンカン！二人の騎士が木刀を重ねる音が重く闘技場に鳴り響いていた。
「フッ、少しは出来るようだな。少し打っだけで倒れ込む騎士だと思っていたが」
「……はあ、はあ……」
（…速い…護る事が多く前に進めない…噂では剣の腕はそれほどでも無いと聞いていたが……グロース家の人間は剣の腕も確かだと今サミエル隊長と交えて分かった）
カーン！フレック騎士の木刀が弾かれた。
「！…しまっ……」
ドッ！
「が…！！」
サミエル隊長の木刀がフレック騎士のお腹を突き、フレック騎士は激痛の痛みにその場で倒れ込んだ。
「……っ」
「考え事とは余裕だな、これが戦場だとあの世行きだな」
サミエル隊長は、蹲るフレック騎士を見下ろし木刀の先でフレック騎士の顎を持ち上げ不敵な笑みを見せていた。
「ククク、良いな～苦痛で蹲る姿を見るのは…お前の様な騎士は少ないからな直ぐ倒れ込む騎士が多く退屈していた所だ」
「……」
フレック騎士は、サミエルの木刀を真正面から受けた為腕に力が入らず立ち上がる事が出来ずにいた。
（……っ、狂っている……サミエル隊長は騎士が苦しむ姿を見て楽しんでいるように見える…だから、ライトもサミエル隊長の兄からの稽古が辛いと言っていたのか……もしかしてライトはサミエル隊長から指導を受けていたのかも知れない…俺には『三番目の兄』だと嘘を話し……）
「……ラ、ライト騎士にも倒れ込む稽古をしていたのですか？」
「何、ライトだと？」
フレック騎士は顔を上げた姿勢でサミエル隊長を睨むように見上げていた。
「……くっ！ははははは～っはぁ～ははははははは～っ…」
「！？」
「ははは…はあ～こんなに声を上げて笑うのは久しぶりだな、ククク…悪い、悪いつい笑ってしまった。」
サミエル隊長は笑顔を見せ、フレック騎士に向けていた木刀を下ろし、笑い声が止まる様子もなかった。
「フッ、言いたい事があるような顔だな話しても良いぞ」
「……ライト騎士にも毎日のように厳しい稽古を受けていると聞きました…」
「ライト本人が話したのか？」
「はい…」
「ククク…今でもライト・グロースを想う気持ちがあるのか？」
「……それは…」
フレック騎士は地面に着く手を握り締めまだ気持ちの整理がつかずにいた。
（自分では吹っ切れた気持ちでいたが、屋敷でも剣の指導が厳しいとライトから聞いて、サミエル隊長に確認をしたかった。
ライトと別れたとはいえ気になる事でもあった…この場を借りてサミエル隊長にライトの稽古を少しでも和らいで暮れたら……）
「フレック騎士は騙されやすい騎士のようだな」
「！？」
フレック騎士は下を向いていた顔を上げ、笑顔を見せるサミエル隊長から顔を逸らす事が出来なかった。
「屋敷でも毎日のように剣の稽古が厳しい？ははは、面白い。
屋敷ではライトに剣の稽古を俺は教えた事は無いが？まあ、城に上がる前にライトの腕を見る為稽古をした記憶があるが…剣の腕は最悪だな」
「な……！？」
「フレック騎士もライトの剣を受けた事があるだろう！？」
「それは……」
「まあ、ライトが城に騰がったのはグロース家の名で騎士に成ったようなモノだがな」
「……」
「ああっ、そうだ！フレック騎士に話しておこう、ライトが屋敷でも稽古が厳しいと言ったのはライトの三番目の兄の話しをしたようだな、如何にも自分が指導を受けていたかのように話したようだ。たいした奴だな」
「……それは」
「まだ分からないのか？嘘の話しをしたと言う事だな。確かに三番目の弟に剣の稽古をしたのは本当の事だ。蹲る姿が何度見ても良い、その兄の姿をライトは笑って見ていたのを君は知っているかな？」
ガシッと握り締める木刀に力が入るフレック騎士は腹部の痛みを忘れサミエル隊長に襲いかかった！
「良いなその顔は…フレック騎士も知らないライト騎士を知って良かっただろう！？」
フレック騎士はサミエル隊長から何度も木刀で体を突かれ、倒れ、それでも向かうフレック騎士にサミエル隊長の笑い声が響いていた。