もう一度、きみと

うしお

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1、レインという男

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「やあ、やあ、はじめましてだね、新しい人! 僕は、レイン。この島で稼働している唯一のアンドロイドさ。ここには、僕の他に海鳥たちも住んでいるけど、君とおしゃべりができるのは、たぶん、きっと、アンドロイドの僕だけだよ。海鳥たちは、発声機能があまり発達していない種族だからね。おしゃべりするのは、少し難しいけれどとても楽しいよ。でも、君が簡単な鳴き声だけでコミュニケーションが取れる機能を持っているなら、海鳥たちもきっといい話し相手になってくれるだろうね。とても長い距離を飛んでやってくる海鳥たちの話は、結構、興味深いものが多いから、僕としてはおしゃべりにチャレンジしてみることをおすすめしておくよ。本当に楽しい子たちだから、きっと君もおしゃべりさえできれば、気に入ってくれると思うな」

迎え入れられた家の中、俺がすすめられた椅子に座るどころか、荷物を置く間もなく、唐突に自称アンドロイド《レイン》の話がはじまった。
同じアンドロイドとは思えないほどに感情豊かで、しゃべり出したら止まらないレインは、ド派手な蛍光ピンク色のつなぎの上に、裾が擦り切れてボロボロの白衣を着た男性タイプのアンドロイドだった。
どうやら、レインは、かなり昔に流行していた『理系男子』タイプに分類されるアンドロイドらしく、身長はそれなりにあるのに、手足には必要最低限の筋肉しか割り振られておらず、どこか細くてひょろりとした印象が強い。
たしか、このタイプは『草食系』とも呼ばれていて、無害そうな外見が若い女性に受けたとされる機種だ。
いまの流行の主流とは違うため、街で見かけたことはないが、なるほど、草食系とはこういうタイプだったのか、と納得できる線の細さだった。

レインは、壁際のキッチンのようなところに行くと、いくつもの戸棚を開け閉めしながら、ごそごそと何かを用意している。
まるで、二昔前に流行った『キッチンこまねずみ』のようだ、と思った。
『ねずみのお母さん』という見た目とコンセプト重視で作られたアンドロイドが、家事をしてくれるというのが売りであったが、やはりそれもアンドロイド愛護団体の可哀想である、という言葉の前に、廃番に追い込まれた機種だ。
いまでは、動物型のアンドロイドは、愛玩目的以外では発表されないし、家事アンドロイドは無機質な顔のない銀色ボディのものしか製作されていない。
見た目が可愛らしいというだけで、本来の仕事をさせているだけなのに、非難の声が寄せられてしまうからだ。
可愛くなければ、別にどうでもいい、というあたり、愛護団体の適当さが伺えるというものだ。

アンドロイドを、なんとか系という分け方で分類するのなら、俺は『体育会系男子』や『筋肉男子』、『肉食系』と呼ばれるタイプに振り分けられる機種なので、ボディの作り方からしてまったく違う。
レインの身体パーツは、割り振られている筋肉がはじめから少ないタイプのようで、特に腕や脚など末端のパーツは、俺と比べて半分程度しかないように見える。
人間のように、眼鏡をかけたレインの頭は、俺よりも三十センチ以上低いところにあった。
かなり、小さい。
あらゆる面で、自分よりもボディスペックの劣るアンドロイドを見下ろしながら、俺は軽く頭を下げた。

「俺は、《エイト》だ」

「なるほど、なるほど、君はエイトくんなんだね。バッチリ覚えさせてもらったよ。さあさ、エイトくん、遠慮なんかしなくていいから、そこの椅子に座っててよ。久しぶりのおもてなしだからね。いろいろ用意させてもらうよ。ああ、本当に遠慮する必要はないから、君の好きにしててくれてかまわないよ。椅子が嫌なら、そのテーブルの上でも床の上でも、なんなら、そこの天井に張りついててもらってたって、僕は一向にかまわないからね」

「いや、椅子でいいよ。別に嫌ってことはないから」

「そう? いいよ、君の好きにして。まあ、テーブルの上に座られたら、これから準備するおもてなしがのりきらなかったかもしれないから、それはとても助かるかな。床の上も、テーブルの上が見えなくて、きっと困ってしまっただろうしね。天井も、かなり高い方だから、張りつかれてしまうと、やっぱり困ってしまっていたかもしれないね。普通に椅子に座ってくれると、僕としても助かるな。ありがとうね、エイトくん。やっぱりおもてなしは、やりやすい方が気持ち的にも楽だからね」

流れるようにしゃべり続けるレインは、小さなトレーにポットとティーカップをのせ、俺が座っている椅子の横までやってくる。
そして、うやうやしく、どこかの店の店員であるかのように、俺の前にティーカップをサーブすると、自分も向かい側の椅子に座った。
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