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第十二章「パンとコンテスト」

55.試食リベンジ

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 翌日、ルビィとハルの2人は早めに起きるとパンを焼き始めた。と言っても朝食用のパンでは無い。そう、2人が今作っているのはいつものシンプルなパンもだが、中にジャムや餡を入れたあんパンを作るのだ。


 いつもの業務をこなし、遂にやって来たおやつの時間。「今日のおやつはひと味違う」と言うハルに連れられて台所に来たショコラだったが、そこにあったパンに憂鬱な表情を隠せなかった。
 しかし、そんなことは想定内だとハルとルビィはにこやかに微笑んだ。


 「いや、ひと味違うって言うから来たけどさ、これ変わらないじゃん」
 「と、思うでしょ? ショコラさん」
 「まぁとりあえず、一口」
 「しょーがないな……一口だけだぞ」
 ショコラとしてはこの地獄のような空間からさっさと抜け出したかったが、しかし、この2人がこんなに輝く笑顔ということは何かあると思い、パンの1つに手を伸ばし食べる。
 一口食べたその時、ショコラの顔は綻んだ。


 「なにこれ、おいひい! 中になんか入ってる!」
 「はい。これはクラムベリーを砂糖で煮込んだものを入れております」
 「マジかよ! フルーツを中に入れるとはやるな!」
 「ハル様のアイデアでございます」
 「すごい! ん? じゃあこの隣にあるパンは?」
 「それも先程とはまたちがったパンです」
 「へぇー、ちょっと味見しよ」
 目を輝かせてショコラはジャムパンをペロッと食べ、そしてハル特製のあんパンに手を伸ばした。


 「これも美味しい! 中に何が入ってるの?」
 「カボチャの餡を入れたの」
 「餡? 聞いたこと無いな。でも美味しいのは分かる!」
 「それは何より、ま、カボチャだけで無く栗もあるけど」
 「バリエーション多いな! これなら飽きも来ない!」
 ショコラはルビィ特製のジャムパンとハル特製のあんパンを全種頬張り、笑顔になった。


 すると、その声や匂いにつられたのか、ミスティとルチアもやって来たのだ。ルチアはなぜか縛られていて気絶していたが、大方またミスティに隠れて浮気をしていたのだろう。
 ミスティはルチアのことはあまりに気にせず、そのパンの方に向いた。
 ミスティもルチアもパンに関してはかなり最初の段階でギブアップしており、ショコラよりもかなり険しい顔でそれを見ていた。

 「……えーっとこれは……」
 「ハルとルビィが考えたパンだよ。食べる?」
 「……まぁ一つだけなら」
 そう言って恐る恐るとって食べたが、一口入れた途端、先程のショコラと同じように目を輝かせた。


 「美味しい……! 生まれて初めて食べたわこんなの。私もう死んでるけど。どうしたらこんなの出来るの?」
 「ん……? 何事だ?」
 「あ、ダーリン起きたの? これ食べて?」
 「なんだいきなり……ただのパンじゃ無いか……うわっなにこれ!? 美味しいな!」
 ミスティとルチアの2人にも好評でハルとルビィは照れ笑いで顔が真っ赤になる。


 3人はしばらく美味しいだの上手いだの言いながら、パンを食べていたがここであることにショコラが気づいた。


 「そういや、レシピはまとめてんの?」
 「それならこっちにあるけど」
 「なら問題ないな……でも餡とかジャムとかどう調達するのよ」
 その懸念はもっともだというルビィとハル。しかし、ハルはその事もバッチリ対策していた。
 
 
 「実は、そろそろ果物も作ろうかと思っててね、この前から準備段階に入っていたのよ」
 「ゴンリンやレンオレレンは木からなるからちょっと難しいけどベリー系なら案外楽でね。いざという時は魔力に頼るし」
 「栗も少し栽培するのは難しかったけど何とかなったわ」
 「……材料はこちらで調達するって事?」
 「そう。そして、最初のうちはそのパン屋に材料としてのジャムを売ったりするのよ。後からジャムや餡の作り方を教えて原材料を格安で売るわ」
 「……怖いな」
 ハルにこんな商売の才能があったのかとショコラ達は少し戦慄した。
 自信満々のハルだったが、ルビィは少し不安そうだった。


 「でも、これホントに大丈夫ですかね……?」
 「何言ってんのよ、ルビィ、三大魔女が賛成してるのに何反対する理由がいるの?」
 「そうですよね……」
 ルビィもルビィでハルのその商売人魂に少しビビっていた。


 そして、パンコンテストの日が来たのだ。
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