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第1章 目隠し皇女

第4話 皇王グレイ

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「キミと会うのはかれこれ十六年ぶりか。本当に懐かしいよ」

 グレイはコートを脱いでソファに腰掛け、懐かし気に俺の顔を見る。
 彼の背後にはフードを被った護衛らしき人物が一人。

 現皇王の護衛がたった一人とは……どうやら完全にお忍び来訪らしい。
 まあグレイの剣の腕前があれば、護衛なんぞ不要ではあるだろうけど。

「あのなぁ、来るなら手紙の一枚でも寄越してくれよ。お陰で歓迎の用意もできやしない」

「構わないさ。今回は完全にオフレコだからね」

「俺は構うんだが? もし皇王に万が一があったりすれば、大臣共からドヤされるのはこっちなんだぞ」

「僕にその万が一・・・が、本当に起こるとでも?」

「……思わんけど。言ってみただけだ」

 グレイの実力は嫌と言うほどよく知っている。
 俺みたく護身として剣術を身につけてる奴とは違い、彼はその道を極めた正真正銘の剣士。

 魔術に頼らずとも、剣術だけで一騎当千の強さを誇る。
 戦時中はマティアスと並んで、常に斬り込み役を買って出ていたほど。

 で、華麗に暴れるだけ暴れて必ず笑顔で生還するという。
 並大抵の兵士や野盗では、例え徒党を組んでも彼を倒すことはできまい。

 そういう意味では不安はないが、そうじゃないんだ。
 だって皇王様だぞ?
 この国のトップだぞ?
 そうとは知らない領民が無礼を働いたりすれば、それだけで首が飛ぶって。
 もう勘弁してほしい。

「突然で悪かったとは思っているよ。だからどうか邪険にしないでくれ」

「ハァ……そういう豪放磊落ごうほうらいらくなところは変わってないな」

「キミこそ。あの頃のクーロ・カラムのままだ」

「俺はすっかり変わったよ。今じゃ平穏無事な毎日を貪る、怠惰な中年辺境領主様さ」

「それはだろう? キミが怠惰に過ごしているから、ハーフェンは今日まで平穏無事でいられたんだ」

「……!」

「僕にはわかっているさ。クーロがハーフェンの領主に名乗り出たのには、ちゃんと理由があるとね」

 グレイは僅かに身を乗り出し、両手の指を組む。

「……十六年前の大戦の後、皇帝を失った『デネボラ連合帝国』は内部から分裂。内戦状態に陥り、中でも紛争が過激化したのはハーフェンのすぐ傍の地域だ。ここは帝国領との国境に位置する場所だからね」

「……」

「当時、紛争の飛び火が国を跨ぐ危険性は十分にあった。だからキミは抑止力として自らここに来たんだ」

 そう言って、相変わらず微笑を浮かべたまま――

「救国の大英雄の一人にして、天才魔術師にして、稀代の魔術発明家――”【全属性使いオールエレメンター】のクーロ・カラム”としてね」
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