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第1章 目隠し皇女

第14話 やっとお会いできた(※エステル視点)

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「あぁ……お母様、どうしましょう。私、まだ興奮が収まりませんわ」

 私は杖で足元の感触を確かめつつ、廊下を歩く。

 気分が高揚して普段より足取りは軽いけれど、転ぶ心配はない。
 もう十五年も王宮の中で過ごしているのだもの。

 それに足を引っ掛けるような障害物は廊下に設置しないよう、お父様たちが配慮してくださっている。
 廊下の行き来くらいなら、杖がなくとも困らない。
 それに、今は後ろにお母様もいてくれる。

「ウフフ、シャノアったらはしゃがないの」
 
「だってだって、ずっとお母様たちから聞かされてきた大英雄様にようやくお会いできたのだもの!」

 大きく腕を広げ、舞う様にその場で回る私。
 でも壁に手をぶつけたりしません。
 これくらい余裕です。

「すぐにで感じました、あの方の持つ膨大な魔力……。あんな凄い魔力を持つ人が本当にいらっしゃったなんて……!」

 目が見えない代わり、なのでしょうか。
 私は人一倍”魔力”に敏感です。
 目の前にいる方がどれだけの魔力の持ち主なのか、おおよそは判断できるほどに。

 それだけじゃありません。
 魔力の雰囲気で、その方の人となり・・・・もある程度わかってしまいます。

 暖かな魔力は優しい人。
 冷たい魔力は冷淡な人。
 そんな感じで。

 クーロ様は――先生は、とても強くて、けれど優しくおおらかで、さながら時折吹き荒れる春風のような、そんな魔力の持ち主。
 普段は静かで穏やかなのに、一度強風と化せば何もかも吹き飛ばしてしまう。

 強いが故に、優しいが故に、どこか寂しさを抱えているような。
 まるでお伽噺に登場する伝説の巨人。

 そう――私にとって先生は、お伽噺から飛び出してきた伝説そのもの。
 直接お会いした今でも、このイメージは少しも揺るがない。

「私、わかります。先生こそ……史上最も偉大な魔術師だって」

「そうよ。彼こそ――クーロ・カラムこそ、真の大英雄と呼ぶに相応しい人物なのだもの」

「お母様とお父様は、戦場で何度も先生に救われたのですよね?」

「ええ、もう何度も。彼がいてくれなきゃ私たちは――いえ、この国は滅んでいたかもしれない」

「ねえお母様、私あのお話が聞きたいわ。大きな船の上で戦ったお話!」

 私は歩みを止めてお母様へと振り返る。
 するとお母様も足を止め、

「また? もう何度も話してあげたじゃない」

「でも聞きたいの! 大好きなお話なんですもの!」

 仕方ないわねぇ、とお母様は苦笑し、私の手を引いて歩きながら話し始める。

「『エクレウス皇国』との決戦を目論んだ帝王ドレッド・デネボラは、当時最新兵器だった空中戦艦で皇都に進撃。私たちは皇都の壊滅を食い止めるため、決死隊を編成して突入したの」

「うん、うん」

「戦艦の中の戦いは……それはもう壮絶だった。三つの班に分かれて突入した決死隊の内、二つの班は全滅。けれど……私たちの班だけは、一人も欠けずに生還できたのよ」

「クーロ先生が皆を守ってくれたから、よね?」

「そう。彼はその強大な魔術で皆を守ってくれた。戦艦の中を進む最中、私やグレイは何度も敵兵に襲われて命の危機に瀕したけれど、彼が救ってくれたの」

 お母様は懐かしそうに語る。
 この話をする時の、このお母様の声が大好きだ。

「最終的に私とグレイはドレッド帝王の下まで辿り着き、彼を倒すことができた。でもこれは真実の一片に過ぎない。だってクーロが皆を守ってくれなければ、それは成し得なかったのだもの」

 そう話している内に、お母様は歩みを止める。
 歩数的に、どうやら私の自室の前まで到着したらしい。

「だから……クーロ・カラムこそ真の大英雄と呼ぶに相応しいの。もしクーロがいなければ、この国の歴史は変わっていたわ」

「お母様は、先生のことが大好きなのね」

「ええ……クーロは、命の恩人よ」

「私も先生のことを好きになってもいいかしら?」

「あら、シャノアったらおませさんなのね。でもそうね、クーロにだったら貴女のことを預けてもいいかもしれないわ、ウフフ」

 冗談っぽく笑うお母様。
 むう、相変わらず子供扱いするんだから。
 
「さあ、今日はもうお休みなさい。明日からクーロが授業を始めて、きっと――きっと、貴女のことを導いてくれるはずだから」
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