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第一章
美しい変化(9)
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「できたぁ!」
アケルが仁王立ちで得意気にお面を両手で掲げる。
出来上がったそのお面は、口で説明するには難しい……、サイケデリックを通り越して芸術家がなにかを爆発させた感じの出来映えだった。
「ん!」
そう言って仮面の男に仕上がったばかりの、脳内マジックマッシュルーム畑のお面を差し出す。
「素晴らしい! さすがアケル様! わたくしのような者のために貴女の芸術の技を使って頂き、わたくし感謝の言葉もございません!」
仮面の男は新たなお面を嬉しそうに受け取ると、後ろを向いてごそごそと仮面を取り替え、再びこちらに向き直る。
「いかがでしょうか?」
「よし!」
アケルは一言許可を出すと、人差し指を立ててお尻を振っている。なんだかそんなやり取りを見ていたら、おかしくて噴き出しそうになる。
笑いを堪えていると、さも不思議そうにアケルが訊いた。
「どうしたの? おねえちゃん」
「いかがなされましたか? 千里様……」
支配人も仮面の奥からきょとんとした視線を向けてくる……。ふたりがあまりに似たような反応で並んでいるので、ついに抑えきれなくなると、私につられたのかアケルと仮面の男までもが体を揺らして笑い出した。
なんだろう、こんなに笑ったのはすごく久しぶりだ。私は優しい懐かしさに包まれていた。
「ああ! おかしかった。思いっきり笑ったらおなかが空いてきたわ」
「わたしも!」
「おぉ? では、食堂に降りてなにか料理でもご用意致しましょう」
仮面の男がそう言った次の瞬間、ものすごい地鳴りがホテルを包んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「なっ……なに!?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
轟音とともに、足元がぐらりぐらりと揺れている。地鳴りの大きさとは裏腹に、ホテル自体の揺れはなぜか小さい。
周囲からかすかに軋むような音が鳴り始め、その出所を探って辺りを見渡してると、突然、植物の蔦が室内に縦横無尽に伸び始め、壁を覆いつくすように這っていった。
「これは……どういうこと?」
「ご心配は要りません。当ホテル『エデン』が変化しているだけにございます」
部屋の壁を貫き蔦が這う。いつの間にか色とりどりの鳥たちが部屋の中に生える枝に留まっている。
揺れが完全に治まったとき、室内の光景は人工物と自然とが見事に融合したまったく新しいものとなっていた。
「ねぇ、なにこれ⁉ やっぱり変よ。だってこんなことありえないじゃない」
「いいえ、まったく変ではございません。なにせ此処はホテルエデンなのですから」
「すごいね! きれいだね! っね! ね!」
辺りに起きた変化にアケルは目を輝かせると、興奮して駆け寄ってくる。天井を眺めながら、私の服の端をつかんで両足で何度もジャンプしながら「きれいだね!」と繰り返した。
アケルが仁王立ちで得意気にお面を両手で掲げる。
出来上がったそのお面は、口で説明するには難しい……、サイケデリックを通り越して芸術家がなにかを爆発させた感じの出来映えだった。
「ん!」
そう言って仮面の男に仕上がったばかりの、脳内マジックマッシュルーム畑のお面を差し出す。
「素晴らしい! さすがアケル様! わたくしのような者のために貴女の芸術の技を使って頂き、わたくし感謝の言葉もございません!」
仮面の男は新たなお面を嬉しそうに受け取ると、後ろを向いてごそごそと仮面を取り替え、再びこちらに向き直る。
「いかがでしょうか?」
「よし!」
アケルは一言許可を出すと、人差し指を立ててお尻を振っている。なんだかそんなやり取りを見ていたら、おかしくて噴き出しそうになる。
笑いを堪えていると、さも不思議そうにアケルが訊いた。
「どうしたの? おねえちゃん」
「いかがなされましたか? 千里様……」
支配人も仮面の奥からきょとんとした視線を向けてくる……。ふたりがあまりに似たような反応で並んでいるので、ついに抑えきれなくなると、私につられたのかアケルと仮面の男までもが体を揺らして笑い出した。
なんだろう、こんなに笑ったのはすごく久しぶりだ。私は優しい懐かしさに包まれていた。
「ああ! おかしかった。思いっきり笑ったらおなかが空いてきたわ」
「わたしも!」
「おぉ? では、食堂に降りてなにか料理でもご用意致しましょう」
仮面の男がそう言った次の瞬間、ものすごい地鳴りがホテルを包んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「なっ……なに!?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
轟音とともに、足元がぐらりぐらりと揺れている。地鳴りの大きさとは裏腹に、ホテル自体の揺れはなぜか小さい。
周囲からかすかに軋むような音が鳴り始め、その出所を探って辺りを見渡してると、突然、植物の蔦が室内に縦横無尽に伸び始め、壁を覆いつくすように這っていった。
「これは……どういうこと?」
「ご心配は要りません。当ホテル『エデン』が変化しているだけにございます」
部屋の壁を貫き蔦が這う。いつの間にか色とりどりの鳥たちが部屋の中に生える枝に留まっている。
揺れが完全に治まったとき、室内の光景は人工物と自然とが見事に融合したまったく新しいものとなっていた。
「ねぇ、なにこれ⁉ やっぱり変よ。だってこんなことありえないじゃない」
「いいえ、まったく変ではございません。なにせ此処はホテルエデンなのですから」
「すごいね! きれいだね! っね! ね!」
辺りに起きた変化にアケルは目を輝かせると、興奮して駆け寄ってくる。天井を眺めながら、私の服の端をつかんで両足で何度もジャンプしながら「きれいだね!」と繰り返した。
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