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第二章
大切な想い出(1)
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長い長いトンネルの先に一筋の明かりが見えた。ケルビムが両開きの扉を押し開ける。
目の前に飛び込んできた風景は東館とさほど代わり映えのしない景色だった。
とても大きな大広間の大食堂、東館と違うのは、総木造建ての建物なのか、東館のように至るところから植物が生えていたり、蔦が巻きついたりなどの、人工物と自然との融和を感じさせないものだった。
しかし、大広間の食堂の脇には鉢植えの大きな観葉樹などが並べられ、木の温もりの感じられる静かな落ち着いた雰囲気を醸し出している。
天井からは大型の木製シャンデリアが吊り下げられ、キラキラとした感じは木製のため見られないが、その独特な明るさがこの食堂全体をアンティークな雰囲気にまとめあげていた。
「分館はどこも一階部分は食堂なの?」
「いいえ、たまたまでございます。しかし御覧ください、この木製シャンデリアなどは見事な出来栄えでございましょう!」
空間に見事にマッチした造形と装飾は、素人ながらに素晴らしいとわかる。
「シャンデリアってキラキラしないの?」
アケルはシャンデリアの落ち着いた明るさの光を取り込み万華鏡を覗いている。
「そうね、シャンデリアって名前の響きがすでにキラキラしてるからキラキラしてないのは残念よね」
「おふたりとも、今日はもうお休みになられては?」
そう言われてはっとした。このホテルエデンに来てからというもの、時計をひとつも見た覚えがなかったからだ。
「ねぇケルビム、今何時なの?」
ケルビムはスーツの内ポケットからおもむろに懐中時計を取り出し時間を確認する。
「おや? もう午前二時になりますね」
「もうそんな時間? アケル、急いで寝るわよ。夜ふかしはお肌の天敵なんだから!」
「うん!」
そう言うとアケルは万華鏡を両脇に携え私のもとに駆けてきた。
「それではお部屋にご案内致しましょう」
ケルビムは食堂を出て、東館でいうエレベーターホールへと向かう。私もアケルと手を繋ぎケルビムの後を追った。
エレベーターホールまで来ると東館のようにエレベーターがないことに気がついた。ケルビムもいない。
「ケルビムー?」
ケルビムを呼ぶと、ホール奥からニュッとケルビムが顔を出して私たちを招いた。
「こちらでございますよ、お二方」
ホールの奥、ケルビムが顔を出したところまで歩いて行くと、古びた木造の階段が上の階まで続いていた。
「わぁ、北館にはエレベーターがついてないのね」
ケルビムは腰をかがめ、アケルに背中に乗ってとジェスチャーする。
「こんな趣きのある建造物に機械的なエレベーターなど野暮と言うものでございます」
アケルは喜びながら私の手を離し、万華鏡を私に預けると、「おんぶー!」と叫びながら駆け足でケルビムに飛び乗った。
「あっ!」
案の定、勢いよく飛び乗ったアケルの衝撃にバランスを崩したケルビムはアケルをおぶった体勢のまま倒れこみ、顔面を階段に強打するような鈍い音がした。
アケルがケルビムの背中から覗き込んでいる。
しばらく動かないケルビムにアケルは不思議そうに訊く。
ケルビムはスッと立ち上がると、「では、お部屋へご案内致します」と階段を上っていった。
……ホテルマンの鏡ね。
目の前に飛び込んできた風景は東館とさほど代わり映えのしない景色だった。
とても大きな大広間の大食堂、東館と違うのは、総木造建ての建物なのか、東館のように至るところから植物が生えていたり、蔦が巻きついたりなどの、人工物と自然との融和を感じさせないものだった。
しかし、大広間の食堂の脇には鉢植えの大きな観葉樹などが並べられ、木の温もりの感じられる静かな落ち着いた雰囲気を醸し出している。
天井からは大型の木製シャンデリアが吊り下げられ、キラキラとした感じは木製のため見られないが、その独特な明るさがこの食堂全体をアンティークな雰囲気にまとめあげていた。
「分館はどこも一階部分は食堂なの?」
「いいえ、たまたまでございます。しかし御覧ください、この木製シャンデリアなどは見事な出来栄えでございましょう!」
空間に見事にマッチした造形と装飾は、素人ながらに素晴らしいとわかる。
「シャンデリアってキラキラしないの?」
アケルはシャンデリアの落ち着いた明るさの光を取り込み万華鏡を覗いている。
「そうね、シャンデリアって名前の響きがすでにキラキラしてるからキラキラしてないのは残念よね」
「おふたりとも、今日はもうお休みになられては?」
そう言われてはっとした。このホテルエデンに来てからというもの、時計をひとつも見た覚えがなかったからだ。
「ねぇケルビム、今何時なの?」
ケルビムはスーツの内ポケットからおもむろに懐中時計を取り出し時間を確認する。
「おや? もう午前二時になりますね」
「もうそんな時間? アケル、急いで寝るわよ。夜ふかしはお肌の天敵なんだから!」
「うん!」
そう言うとアケルは万華鏡を両脇に携え私のもとに駆けてきた。
「それではお部屋にご案内致しましょう」
ケルビムは食堂を出て、東館でいうエレベーターホールへと向かう。私もアケルと手を繋ぎケルビムの後を追った。
エレベーターホールまで来ると東館のようにエレベーターがないことに気がついた。ケルビムもいない。
「ケルビムー?」
ケルビムを呼ぶと、ホール奥からニュッとケルビムが顔を出して私たちを招いた。
「こちらでございますよ、お二方」
ホールの奥、ケルビムが顔を出したところまで歩いて行くと、古びた木造の階段が上の階まで続いていた。
「わぁ、北館にはエレベーターがついてないのね」
ケルビムは腰をかがめ、アケルに背中に乗ってとジェスチャーする。
「こんな趣きのある建造物に機械的なエレベーターなど野暮と言うものでございます」
アケルは喜びながら私の手を離し、万華鏡を私に預けると、「おんぶー!」と叫びながら駆け足でケルビムに飛び乗った。
「あっ!」
案の定、勢いよく飛び乗ったアケルの衝撃にバランスを崩したケルビムはアケルをおぶった体勢のまま倒れこみ、顔面を階段に強打するような鈍い音がした。
アケルがケルビムの背中から覗き込んでいる。
しばらく動かないケルビムにアケルは不思議そうに訊く。
ケルビムはスッと立ち上がると、「では、お部屋へご案内致します」と階段を上っていった。
……ホテルマンの鏡ね。
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