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第二章
大切な想い出(8)
しおりを挟む私が足を踏み入れようとした瞬間、私の後ろからついてきていたケルビムが言った。
「はたして追い出すことができるのでしょうか? 今のかかし様に」
決心をつけた私は出鼻をくじかれた気がして振り返って言った。
「はぁ!? あなたなに言ってるのよ?」
「わたくしは思ったことを言っただけでございます。そうでしょう? ブリキ様?」
ケルビムの人を馬鹿にしたような態度が許せなかった。
「なんでもよいけどあなたも力を貸しなさいよ! 悪いのは私で、アケルは関係ないでしょ!?」
「いやぁ、今のままでは逆立ちしても勝てませんよ、ライオン様?」
そのときだった。私たちが言い争いをしているのに気がついた化け物が、私に向かって突進してきたのだった。
化け物の目は血走ったかのように真っ赤で、その口は大きく裂けている。
その歯と爪は鋭く、体毛は不気味なほどに青白い。その姿は例えるなら大きな猪のようにも見えた。
「キャッ!?」
飛び掛かってきた化け物をかわそうと体をのけ反らせると、ケルビムが私の体を引き寄せ、抱きかかえたまま走り出した。
化け物も咄嗟に体勢を立て直し、飛び掛かってくる。
ケルビムは私を抱えたまま階段を飛び降り食堂へと逃げ込んだ。
化け物も真っすぐ視線を逸らさずに私たちをターゲットとして捕捉し、真っすぐに突進してくる。スピードは遥かに向こうの方が早く、今にも追いつかれてしまいそうだ。
完全に私たちを間合いに捕らえた化け物は、今度こそ完璧に私たちを捕らえるべく飛び掛かった。
その瞬間ケルビムは左横へと一気に進路を変えた。
飛び掛かった空中で進路を変えることができずに化け物は厨房の中へ転がっていった。
その隙をついてケルビムが扉を閉めた。
怒り狂った化け物が扉の内側から体当たりするたび、厨房入口の扉は軋んだ。
私とケルビムは急いで切り株の椅子を扉の前に並べ抵抗した。
「これで大丈夫かしら?」
私がケルビムに訊く。
「えぇ、これなら少しくらいならここに留めて置くことができるでしょう」
「じゃあ今の内にアケルを探しに行きましょう!」
「そう致しましょう。アケル様」
ケルビムが階段へ向かって歩き出した。
「ちょっと待って、あなた今、私のことアケルと呼ばなかった?」
私は確かにケルビムが私のことをアケル様と呼んだのを聞き逃さなかった。
ケルビムは立ち止まるとゆっくり振り返って言った。
「まぁまぁ、名前などどうでもよいじゃないですか」
「よくないに決まってるじゃない! あなた少し変よ?」
ケルビムは私の言葉を無視して、スタスタと歩き出し階段を上る。
名前がなんでもいいわけないじゃない!
私は心の中でつぶやきながらケルビムの後を追った。
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