29 / 71
第二章
大切な想い出(7)
しおりを挟む
私はベッドに横たわり、後味の悪さを感じているが、自分自身に言い訳もしていた。
アケルは私を思って言ってくれてることなんだけど、当の私はこの記憶や思い出からの解放を望んでいるし、なによりケルビムでも太刀打ちできないんだから、私たちがどう足掻いたって勝てっこないんだと自分に言い聞かせる。
下の階からは相変わらず本棚を倒し暴れまくっている音が聞こえてきていた。
私はベッドに横たわったまま、胸の前で手を組み、そのうち起こるであろう記憶と思い出の喪失を待っていた。
瞼を閉じると思い起こる楓の記憶……。
あの日、初めて楓と出会った、あの……場所……。
最初はもっと違う名前を考えてたのに、結局楓という名前になったこと。
初めてお風呂に入れたことや、初めて布団の中に入ってきたことや、初めて一緒に経験した夏の暑い日、冬の冷え込み、初めて一緒に見た虹に、一緒に怯えた強い風の日、初めて……家出したとき…………。
猫は帰ってくるんだっけ?
私は猫を飼ったことがあったんだっけ?
そもそも私は、猫が好きだったっけ?
突然ものすごい大きな揺れが建物を揺らした。
壁の本棚からは大量の本が地面に落ちた。その激しい揺れは次第に収まっていった。
「あぁ! びっくりした。いったいなんだったのかしら?」
部屋のドアをノックする音とともにケルビムが入ってきた。
「気分はいかがですか? よろしければ気分転換にハーブティーでもお淹れしましょうか?」
「ありがとう。私も食堂に下りるわ。ところでさっきの揺れ、すごかったわね?」
「そうですねぇ、下でレテリーが暴れているせいでしょうかねぇ?」
なにか白々しいケルビムの態度が気になったけれど、私は敢えてなにも言わずにケルビムと一緒に食堂まで降りていった。
大広間の食堂の席に着き、ケルビムが厨房から淹れ立てのハーブティーを持ってくる。
そのハーブの匂いは私の鼻から脳を刺激し、すごくリラックスした気分へと導いてくれた。
頭の中のモヤモヤがスッと晴れた気分がした。
今まで、なにかにこだわり過ぎて頭の中がガチガチになっていたのが、一気に悩みが解消され、気持ちがとても楽になった気分だ。なにをそんなにこだわって悩んでいたのかも今では思い出せないくらいに。
きっとそれくらい今まで神経を尖らせていたのね。
席に座ったまま両手を持ち上げ、背中を伸ばした。とても気持ちがよかった。
ふと辺りを見渡すと食堂にアケルの姿がないのに気がついた。
「ねぇ、アケルは泣き疲れて三階で寝ちゃってるの?」
「いいえ。アケル様はレテリーをわたしが追い出すんだと、二階へ行きましたよ」
一瞬、自分の鼓動が止まったかのような時間の長さを感じた。
「え? アケルがどこへ行ったって?」
「ですから、アケル様はひとりでレテリーを追い出すために二階へ行ったと申し上げました」
胸の鼓動が早く強く脈打ち始める。なにが痛いのかわからないけれど、とにかくなにかが痛い。
「あなた馬鹿なの⁉ どうしてひとりで行かせたの⁉」
私が席を立ち上がるとケルビムはシレッと答えた。
「千里様はどうせすべて忘れたいと願っておられるご様子でしたのでよいのかと?」
ケルビムの言葉に一瞬カチンとくるが、彼の言った言葉はすべて図星だった。
私には彼を責める資格がない。
私は急いで階段まで走っていき二階へと駆け上っていった。
二階の扉は閉ざされたままだ。
ゆっくり近づいて、扉に触れると扉は簡単に開いた。
アケルは私を思って言ってくれてることなんだけど、当の私はこの記憶や思い出からの解放を望んでいるし、なによりケルビムでも太刀打ちできないんだから、私たちがどう足掻いたって勝てっこないんだと自分に言い聞かせる。
下の階からは相変わらず本棚を倒し暴れまくっている音が聞こえてきていた。
私はベッドに横たわったまま、胸の前で手を組み、そのうち起こるであろう記憶と思い出の喪失を待っていた。
瞼を閉じると思い起こる楓の記憶……。
あの日、初めて楓と出会った、あの……場所……。
最初はもっと違う名前を考えてたのに、結局楓という名前になったこと。
初めてお風呂に入れたことや、初めて布団の中に入ってきたことや、初めて一緒に経験した夏の暑い日、冬の冷え込み、初めて一緒に見た虹に、一緒に怯えた強い風の日、初めて……家出したとき…………。
猫は帰ってくるんだっけ?
私は猫を飼ったことがあったんだっけ?
そもそも私は、猫が好きだったっけ?
突然ものすごい大きな揺れが建物を揺らした。
壁の本棚からは大量の本が地面に落ちた。その激しい揺れは次第に収まっていった。
「あぁ! びっくりした。いったいなんだったのかしら?」
部屋のドアをノックする音とともにケルビムが入ってきた。
「気分はいかがですか? よろしければ気分転換にハーブティーでもお淹れしましょうか?」
「ありがとう。私も食堂に下りるわ。ところでさっきの揺れ、すごかったわね?」
「そうですねぇ、下でレテリーが暴れているせいでしょうかねぇ?」
なにか白々しいケルビムの態度が気になったけれど、私は敢えてなにも言わずにケルビムと一緒に食堂まで降りていった。
大広間の食堂の席に着き、ケルビムが厨房から淹れ立てのハーブティーを持ってくる。
そのハーブの匂いは私の鼻から脳を刺激し、すごくリラックスした気分へと導いてくれた。
頭の中のモヤモヤがスッと晴れた気分がした。
今まで、なにかにこだわり過ぎて頭の中がガチガチになっていたのが、一気に悩みが解消され、気持ちがとても楽になった気分だ。なにをそんなにこだわって悩んでいたのかも今では思い出せないくらいに。
きっとそれくらい今まで神経を尖らせていたのね。
席に座ったまま両手を持ち上げ、背中を伸ばした。とても気持ちがよかった。
ふと辺りを見渡すと食堂にアケルの姿がないのに気がついた。
「ねぇ、アケルは泣き疲れて三階で寝ちゃってるの?」
「いいえ。アケル様はレテリーをわたしが追い出すんだと、二階へ行きましたよ」
一瞬、自分の鼓動が止まったかのような時間の長さを感じた。
「え? アケルがどこへ行ったって?」
「ですから、アケル様はひとりでレテリーを追い出すために二階へ行ったと申し上げました」
胸の鼓動が早く強く脈打ち始める。なにが痛いのかわからないけれど、とにかくなにかが痛い。
「あなた馬鹿なの⁉ どうしてひとりで行かせたの⁉」
私が席を立ち上がるとケルビムはシレッと答えた。
「千里様はどうせすべて忘れたいと願っておられるご様子でしたのでよいのかと?」
ケルビムの言葉に一瞬カチンとくるが、彼の言った言葉はすべて図星だった。
私には彼を責める資格がない。
私は急いで階段まで走っていき二階へと駆け上っていった。
二階の扉は閉ざされたままだ。
ゆっくり近づいて、扉に触れると扉は簡単に開いた。
応援ありがとうございます!
50
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる