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第二章
大切な想い出(14)
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再びものすごい物音と同時にレテリーが三階へと上ってくるのがわかった。
「ねぇ、ケルビム? あなた私に、今は太刀打ちできないって言ったわよね?」
三階に上がったレテリーは動き回って腹が減ったのか、壁の本棚から落ちた本を貪り始めている。時間がない! 私は直感で感じ取った。
だってここは現在の記憶の図書館、ここの本を食べられるってことは、ここに来てからの記憶も失ってしまうってことだから。
「答えなさい! ケルビム!」
ここに来てからの記憶が少しずつ消えていく。
レテリーは駆け出し私たちのいる客室に入ってくる。その目は真っ赤に燃え上がり、真っすぐに私を睨みつける。
「確かに言いました。今のわたくしではあの化け物には太刀打ちできないと」
アケルはベッドの私の後ろで私にしがみついている。
レテリーの鋭い牙の生えた口元には、いましがた食い散らかした私の記憶の本の破れたページが挟まっている。青白い体毛を逆立て、鋭い爪と牙を剥き出し、おまえの望んだことを叶えてやるといった風に威嚇し雄叫びをあげた。
ケルビムがなにを言っていたのか覚えてない。
でもなにか言ってたんだ。
レテリーが私目掛けて飛び掛かってくる。
一瞬早く私はアケルを抱えベッドを転がりレテリーの攻撃を交わしていた。
ベッドから部屋の脇にある本棚へ転がるレテリー。本棚に体をぶつけた衝撃でまた本が落ちてくる。
落ちてきた本を再び食い散らかしながら怒りの目で私を睨む。
「やめろ! おねえちゃんの思い出を食べるな!」
黒髪の少女が私の後ろから泣きながら叫んでいた。
昔にもこんなことがあったような気がする。もっと小さいなにかが、怯えながら私の後ろでこの少女と同じように……。化け物が私を丸呑みするかのごとく、大きく裂けた口を開き私目掛けて飛び掛かってきた。
冗談じゃない……。
なんでもかんでも人の思い出を節操なく喰らい尽くしていく。
冗談じゃない!
たとえ私が望んだことだとしてもなんの権利があって私の財産を奪うのか?
冗談じゃない!
「私の思い出返しなさいよ!」
「御名答!」
ケルビムがスーツの内側からまるでフランス貴族が使っていたかのようなアンティークな銃を取り出すと、化け物の眉間に向けて一発撃ち込んだ。
撃ち込まれた弾丸が化け物の眉間に着弾し、弾は化け物の頭の中に捩込まれていく。
化け物が苦しそうに雄叫びをあげると青白い体から白く靄が発生し始めた。
青白い化け物はその姿が段々と薄く、透き通っていく。
苦しそうに悶える化け物、その真っ赤な瞳だけは表情を変えずジッと私の瞳を見据えていた。
化け物の瞳が私の瞳に語りかけてきたかのように感じた。
まるで、今回は失敗に終わったが、おまえが再びすべてを忘れたいと望むとき、再び我はお待ちの前に姿を現すであろうとでも言っているかのようだった。
「ねぇ、ケルビム? あなた私に、今は太刀打ちできないって言ったわよね?」
三階に上がったレテリーは動き回って腹が減ったのか、壁の本棚から落ちた本を貪り始めている。時間がない! 私は直感で感じ取った。
だってここは現在の記憶の図書館、ここの本を食べられるってことは、ここに来てからの記憶も失ってしまうってことだから。
「答えなさい! ケルビム!」
ここに来てからの記憶が少しずつ消えていく。
レテリーは駆け出し私たちのいる客室に入ってくる。その目は真っ赤に燃え上がり、真っすぐに私を睨みつける。
「確かに言いました。今のわたくしではあの化け物には太刀打ちできないと」
アケルはベッドの私の後ろで私にしがみついている。
レテリーの鋭い牙の生えた口元には、いましがた食い散らかした私の記憶の本の破れたページが挟まっている。青白い体毛を逆立て、鋭い爪と牙を剥き出し、おまえの望んだことを叶えてやるといった風に威嚇し雄叫びをあげた。
ケルビムがなにを言っていたのか覚えてない。
でもなにか言ってたんだ。
レテリーが私目掛けて飛び掛かってくる。
一瞬早く私はアケルを抱えベッドを転がりレテリーの攻撃を交わしていた。
ベッドから部屋の脇にある本棚へ転がるレテリー。本棚に体をぶつけた衝撃でまた本が落ちてくる。
落ちてきた本を再び食い散らかしながら怒りの目で私を睨む。
「やめろ! おねえちゃんの思い出を食べるな!」
黒髪の少女が私の後ろから泣きながら叫んでいた。
昔にもこんなことがあったような気がする。もっと小さいなにかが、怯えながら私の後ろでこの少女と同じように……。化け物が私を丸呑みするかのごとく、大きく裂けた口を開き私目掛けて飛び掛かってきた。
冗談じゃない……。
なんでもかんでも人の思い出を節操なく喰らい尽くしていく。
冗談じゃない!
たとえ私が望んだことだとしてもなんの権利があって私の財産を奪うのか?
冗談じゃない!
「私の思い出返しなさいよ!」
「御名答!」
ケルビムがスーツの内側からまるでフランス貴族が使っていたかのようなアンティークな銃を取り出すと、化け物の眉間に向けて一発撃ち込んだ。
撃ち込まれた弾丸が化け物の眉間に着弾し、弾は化け物の頭の中に捩込まれていく。
化け物が苦しそうに雄叫びをあげると青白い体から白く靄が発生し始めた。
青白い化け物はその姿が段々と薄く、透き通っていく。
苦しそうに悶える化け物、その真っ赤な瞳だけは表情を変えずジッと私の瞳を見据えていた。
化け物の瞳が私の瞳に語りかけてきたかのように感じた。
まるで、今回は失敗に終わったが、おまえが再びすべてを忘れたいと望むとき、再び我はお待ちの前に姿を現すであろうとでも言っているかのようだった。
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