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第三章
遠慮(9)
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T字路の突き当たりを右に曲がると、目の前にアケルがいた。
「ついてこないでって言ったでしょ⁉」
一瞬見えたアケルの横顔が泣いているように見えた。
「アケル! 待って」
アケルの後を追う。アケルは私を振り返りながら迷路を進んでいった。曲がり角を曲がったアケルの少し先にホロウが待ち構えている。
「だめ、アケル! 止まって!」
アケルは止まる気配を見せずにこちらを気にしたままホロウへと向かっていた。
「アケルー!」
アケルが前を向いたときにはすでに遅く、不気味に広がった真っ黒な泥状のホロウは、まるで両手を開きなにも知らずに飛び込んだ獲物を容赦なく飲み込んでいった。
光に群がる虫たち、例え光に届いても、その熱によって翅は焼かれ、体も焦がされていく。
中身を持たない虚ろなる者は、本来の自分の中身とは異なる者に群がり取り込んだ後、粉々になり消えていく……。
アケルが消えてしまう!
私の存在を否定したから?
アケルが消えてしまう!
ケルビムと同じように……。
そんなことは絶対にさせない!
私は無我夢中でアケルを取り込んだホロウに突進していた。
真っ黒な泥状の塊は中身がないのと同じように、感触もなにもない。アケルに纏わりつくホロウを掻き分けながらアケルを探す。アケルの侵食されかけた手をつかんだとき、それは起こった。
私の目の前が真っ暗闇に包まれた。
視界は消え去り、自分が立っているのか座っているのかもわからなかった。
ここは凍えるほど寒く、そして焼けただれるほどに熱い。
私はなにかに渇きを覚える。
なにかはわからない、でもとにかく渇いていたんだ。
渇きを潤したいのにどうすれば渇きを潤せるのかわからない。
ただ真っ暗闇が広がり、凍えるほど寒く、焼けただれるほどに熱い。
そして私はまた渇きを覚え、それらを潤すために真っ暗闇の視界のない中を進んでいるのか、止まっているのかもわからずに蠢いているんだ。
凍えるほど寒く、焼けただれるほど熱いこの場所で……。
私はすでに私ではなく、私のことを欲するただの容器に過ぎない。
とにかく私は渇いているんだ。
私は自分の渇きを潤すためにもなにかをしなくては……。
前を向いているのか……
後ろを向いているのか……
とにかく渇いているのか……
凍えるほど熱いのか……
真っ暗闇の中なのか……
私にピッタリのピースはどこに落としたのか……。
私の意識ははっきりしてるのか朦朧としてるのか、とにかく私の目の前に一粒種の光が現れた。
私はその眩しい光に吸い寄せられるように光のもとに行き、その光を貪った。
「ついてこないでって言ったでしょ⁉」
一瞬見えたアケルの横顔が泣いているように見えた。
「アケル! 待って」
アケルの後を追う。アケルは私を振り返りながら迷路を進んでいった。曲がり角を曲がったアケルの少し先にホロウが待ち構えている。
「だめ、アケル! 止まって!」
アケルは止まる気配を見せずにこちらを気にしたままホロウへと向かっていた。
「アケルー!」
アケルが前を向いたときにはすでに遅く、不気味に広がった真っ黒な泥状のホロウは、まるで両手を開きなにも知らずに飛び込んだ獲物を容赦なく飲み込んでいった。
光に群がる虫たち、例え光に届いても、その熱によって翅は焼かれ、体も焦がされていく。
中身を持たない虚ろなる者は、本来の自分の中身とは異なる者に群がり取り込んだ後、粉々になり消えていく……。
アケルが消えてしまう!
私の存在を否定したから?
アケルが消えてしまう!
ケルビムと同じように……。
そんなことは絶対にさせない!
私は無我夢中でアケルを取り込んだホロウに突進していた。
真っ黒な泥状の塊は中身がないのと同じように、感触もなにもない。アケルに纏わりつくホロウを掻き分けながらアケルを探す。アケルの侵食されかけた手をつかんだとき、それは起こった。
私の目の前が真っ暗闇に包まれた。
視界は消え去り、自分が立っているのか座っているのかもわからなかった。
ここは凍えるほど寒く、そして焼けただれるほどに熱い。
私はなにかに渇きを覚える。
なにかはわからない、でもとにかく渇いていたんだ。
渇きを潤したいのにどうすれば渇きを潤せるのかわからない。
ただ真っ暗闇が広がり、凍えるほど寒く、焼けただれるほどに熱い。
そして私はまた渇きを覚え、それらを潤すために真っ暗闇の視界のない中を進んでいるのか、止まっているのかもわからずに蠢いているんだ。
凍えるほど寒く、焼けただれるほど熱いこの場所で……。
私はすでに私ではなく、私のことを欲するただの容器に過ぎない。
とにかく私は渇いているんだ。
私は自分の渇きを潤すためにもなにかをしなくては……。
前を向いているのか……
後ろを向いているのか……
とにかく渇いているのか……
凍えるほど熱いのか……
真っ暗闇の中なのか……
私にピッタリのピースはどこに落としたのか……。
私の意識ははっきりしてるのか朦朧としてるのか、とにかく私の目の前に一粒種の光が現れた。
私はその眩しい光に吸い寄せられるように光のもとに行き、その光を貪った。
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