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第三章
遠慮(10)
しおりを挟むなにか暖かいものを感じる。
わたしは小さな塊だった。
わたしは気がつくとなにもない世界へ放り出されていた。
なにもないこの世界に怯える小さなわたしは自分の身を隠す場所がほしかった。
けれども、探しても探しても、わたしの身を隠すのに好都合な場所はなく、わたしはその場所に留まったまま泣いていた。
そこへ、なにか得体の知れない大きな塊がやってきて、わたしを品定めするかのように眺めている。
その大きな塊はわたしの元を去ると再びやって来て、わたしの空腹を満たしてくれた。
私は再び真っ暗闇の中へ放り出された。
あの暖かい光が忘れられない。
あれこそが私の渇きを潤すものに違いない……。
すると私の目の前にまた一粒種の光が現れる。
私は堪らず光の元へと行き、その暖かな光を貪った。
小さなわたしは大きな塊とともにいた。
ここは穏やかでわたしを脅かすものなどなにひとつなかった。
しかしわたしは警戒を怠らなかった。
わたしに対してわたしの望むこの環境を、なんの見返りもなしに提供してくるこの大きな塊をわたしは信用していなかったから。
大きな塊はわたしをいつでも注意深く観察しているようだった。
この日、この大きな塊のいる小さな空間はとても寒かった。
大きな塊がわたしを持ち上げると、ものすごく狭い袋の中にわたしを押し込めた。
わたしは牙を剥きその大きな塊に食らいついたんだ。
見た目よりも脆い塊はわたしに怯えながらも再び狭い袋へとわたしを押し込んでいく。
さらに抵抗しようと思ったが、塊はわたしを固定し身動きが取れない状態にされた。
なんとか反撃のチャンスを狙いたいが、この狭い袋の中は暖かく、そして心地好いのに気づいた。
その居心地のよさに気がついたとき、わたしは初めて安心し、そして満たされ眠った。
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