時間泥棒

虹乃ノラン

文字の大きさ
上 下
46 / 79
第七章

天川の行方不明事件(6)

しおりを挟む
   《アンタレスストリート 天川河川敷》

 黄道区は周りを小さな山々で囲まれており、その山を通ってる天川は、天秤池町から順に、蠍通り町、そして僕やジョージの家がある人馬町、山羊沼町、水瓶町の外側を通り、海へと流れる大きな川だ。きれいな川の水の中には魚も泳いでおり、魚を釣る人や、水遊びをする子供たちもいる。
 堤防を下り河原まで行くと、年中バーベキューも楽しめる。夏休みに入るとコスモ市が毎年恒例で開催している花火大会が、この天秤池町の天川河川敷で打ち上げられ、蠍通り町にあるアンタレスストリートでは、毎年、県内外から花火を見に来るお客さんでごった返し、ものすごい賑わいを見せるんだ。
 天川はすごく大きな川で、場所によっては流れが非常に激しい。とくにこの天秤池町の天川は、山から流れ込んでくる川の水と、水瓶町に向かってゆるやかに下り坂になっている地形のせいで、水難事故が起きやすい場所でもあるんだ。
 お父さんが話していた事故現場から左に曲がり、広く大きめの道を選びながら天川の堤防を目指す。
 やがて見えてくる堤防を上りきった道路の上には、物々しい数のパトカーが止まっていて、大勢の見物人が、堤防の上から捜索の様子を心配そうに見おろしていた。
 僕は近くに自転車をとめると、天秤池町から堤防道路へと続く急な斜面をのぼっていった。堤防を上りきると、目の前には信号機のない横断歩道、そして河川敷へとおりる急な下り坂が続いている。
「河川敷一帯は、現在立ち入り禁止です! ご協力ください!」
 辺りにはお巡りさんが何人も立っていて、声を張り上げていた。テープを張ったり赤いコーンを並べたりして、一般人が河原へ入れないようにしている。
見物人が遠巻きに見守るなか、川ではレスキュー隊員が水中に潜ったり、長い棒のようなもので川底を探っている。
「そこの下り坂を、ブレーキもかけずにおりていったらしいよ」
 見物人の中から、そんな声が聞こえてくる。
「河原の石でバランスを崩して、自転車から放り出されてしまったんだって」
 うわさか本当かわからないけど、男の子が姿を消したのは間違いないし、お父さんが言っていた事故現場からも、ここまではまっすぐ大きな道をたどってくることができた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もう一人の私

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

【完結】つぎの色をさがして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:348

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:1,841

俺と向日葵と図書館と

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:3

ブルーベリーと初夏の風

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

一条春都の料理帖

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,591pt お気に入り:238

死女神キルコの推しごと

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1

処理中です...