流星の棲み家で

桜井凪

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一話②

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 間宮に連れられて入った店は焼き鳥がメインの居酒屋で、焼き鳥が美味しいのはもちろんだけどだし巻き卵と揚げ出し豆腐が美味かった。

 「相変わらず少食そうな見た目でよく食うな」

 「うるせぇ、気にしてんだよ」

 そう返しながらトマトのベーコン巻きを齧る。

 「締めにうどん食う」

 「胃袋高校生かよ」

 対する間宮は程よく筋肉のついた体で、大食いそうに見えて少食、というか酒飲みだ。酒があれば飯は要らん、というタイプなくせに痩せもやつれもしないのがいつも少しむかつく。
 俺は酒も好きだがあまり飲みすぎると顔が赤くなり正体不明になるので、いつも三杯くらいでソフトドリンクに切り替える。飯を食うのに、甘い飲み物は受け付けないのでいつもウーロン茶か緑茶。学生時代、間宮に「ダイエットしてんの?」とからかわれたが、腹パンを食らわせた。誰がどう見てもヒョロガリの俺のどこに落とすべき肉があると言うのか。
 
 明太クリームうどんを、一人で平らげてやっと満腹になった。

 「食った食った」

 「さすってるけど、ぺたんこだぞ」

 「うるせぇ。この後、どうすんの?」

 「お前んち、泊まっていい?」

 「最初からそのつもりだろ」

 休日に間宮が飲みに誘う時は、いつも俺の家に泊まっていく。泊まるための口実なのかもしれないと、最近は思っている。
 繁華街を歩いて、駅から電車に乗り10分ちょっと。そこからコンビニに寄る。コンビニの中は別行動して、外で待ち合わせる。
 また、他愛のない話をしながら5分くらい歩くと借りている部屋のあるマンションに到着する。オートロックもない、単身者用の狭い住居だ。外階段を3階まで上がり始めたくらいで、俺たちの会話はなくなる。玄関の鍵を開けている間、視線を背中に感じ続ける。後頭部から背筋をたどり、視線は下に下がっていく。少しだけ心拍数を上げながら、俺はドアを開いた。

 靴を脱ぐのももどかしいけど、男同士のセックスは男女のそれとは違う。事前に準備が必要だ。
 それは間宮もわかっているのに、宅内に入るや否や唇を塞がれた。肉厚な舌が上顎を舐める。俺は、俺を貪る間宮の顔が見たくて、少しだけ目を開けていた。
 眉間に皺を寄せて、俺が欲しくてたまらないのを隠しもしない荒々しい表情にゾクゾクする。気性の激しい大型の獣が、俺にだけ心を開いてくれたかのような充足感。愛玩するかのように、間宮の明るい髪を撫でてやる。185cmの間宮を撫でるのは、一応178cmある俺でもぶら下がるような形になる。あぁ、このまま全部、本当に食べてくれたら良いのに。
 そんなことを思いながらも、頭の中は至って冷静だった。なだめるように、髪を撫でていいた手を滑らせて間宮の大きな背中をさすってやる。親か、飼い主にでもなったような気持ちで。
 荒い息のまま、間宮が唇を離す。

 「準備してくるから、入って飲んでろよ。冷蔵庫にビールあるから」

 「…わかった」

 渋々、といった感じで間宮が俺を放す。そのまま、リビングに消えていくのを見届けてから、俺は風呂に向かった。

 最初の頃、間宮は俺をほぐすところからやりたがった。間宮にされるのは気持ちいいけど、いかんせん家の風呂場が狭すぎる。洗い場なんてないユニットバスだから、お互いに色んなところを壁や浴槽にぶつけて、うっかり盛大に笑って萎えてしまったので、ほぐす時は俺だけが風呂場に行くことになった。

 服を脱ぎ捨てて、浴槽に入る前に自分の裸体を見てしまう。相変わらず、肉も筋肉もついていない細い体。さっきの間宮とのキスで、少しだけ期待に膨らんでいるのがわかる。俺のセックスの歴史はほぼ間宮との歴史だ。間宮の他にたった一人だけセックスをしたことがあるが、それは男じゃない。

 準備をして風呂場を出る。自分の家なので、遠慮することなく全裸で出た。
 間宮はベッドに座って、ビールを飲みながらテレビを見ていた。俺が出てきたことに気づくと「俺も入ってくるわ。風邪ひくからなんか着とけよ」と言って、風呂場に去っていく。
 どうせ脱ぐのに着るかよ。と、毎回思うのだが、間宮は必ず同じことを言う。
 とはいえ、本当に風邪をひいては敵わないので裸のままベッドに入り毛布にくるまった。もそもそ腕だけ出して、間宮の飲みかけのビールを煽る。ビールはほとんど残っていた。これも、いつものことだ。


 

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