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四話③
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思わず目の前のデスクに打ちつけるほど頭を下げた。社会人として、やっちまったなと心の底から思う反面、どこか安堵している自分もいた。
瑞稀が吉名先輩だと判明した今日というこの日に、落ち着いて一緒に酒を飲めるはずもなかったからだ。
打ち上げの存在をすっかり忘れていたおかげで、罪悪感なく逃げ帰れたことだけは今日のハッピーニュースだった。
『まぁ、もう時間も遅いし良いけどさ』
おそらくは打ち上げの後で、俺の家に来ようとしていたのだろう間宮が、きっと俺にしか気づかれない程度で拗ねた声色を出す。
その声を聞き、少しだけ下腹が疼く感覚になる。けれど俺が答えたのは「うん、悪かったな」という一言だけだった。
「終わったら来いよ」と言ってやることも出来るのに、そうしなかった。
『あ。最後。瑞稀さんが少しだけ話したいって』
ぎくりと心臓が鈍く跳ねた。疼いたままのこの身体で、先輩の声を聞くことに抵抗があるのだ。
しかし、そんなことスマホの向こうの2人にわかるはずもない。無意識に背筋を伸ばして、先輩の声を待った。
先輩が話し出すまでに、少しのタイムラグがあり、そのタイムラグの間に向こうから聞こえてきていたざわめきが小さくなった。
場所を変えたのだろう。ざわめきの代わりに風の音が聞こえる。
『…さっきぶり』
「ぅす」
どう答えて良いか分からなくて、思春期の男子高校生みたいな返答をしてしまう。
『…えっと、驚かせてごめんね。…会えて嬉しかった』
「あ、いえ。こちらこそ…」
謝らなきゃいけないのは、逃げ帰った俺の方だ。状況的にも立場的にも。でも言葉が全然うまく出てこない。
『今度、改めて会おうよ。飲みにでも行こう』
「えっと…」
『色々変わっててびっくりしたでしょ」
「いや、それはもう。はい」
ふはは、という小さな笑いが聞こえた。たったそれだけのことで、身体から力が抜けていくのがわかる。リラックスしたわけじゃない。ただ、骨抜きになっただけだ。
『電話番号教えて。すぐにメッセージ送るから』
そんな骨抜き状態の時にそんなことを言われたら、抵抗する術なんてなかった。
言われるがままに電話番号を口にしてから、『わかった、じゃあね』という言葉によって通話が切れるまで、ほとんど夢うつつのような心地だった。
スマホを持つ手を膝に下ろして、数秒だけぼんやりとした。
ぼんやりとしながら身体の真ん中が、下着の中で熱く怒張しているのが目に入る。
あぁ、恥ずかしい。と、頭の奥の方で思った。
先輩はただ、久しぶりに後輩と再会したことを喜んでいるだけなのに。
ただ、声を聞いただけなのに。
俺は、カメラマンになっていないのに。
しばらくそのまま、触らないでいた。先輩を汚してしまうような気がして、触れなかった。
しかし一度熱を持ったそれは、下着に小さな染みを作るほど切羽詰まっていく。焦らせば焦らすほど、後ろもずくずくと疼き出した。
瑞稀が吉名先輩だと判明した今日というこの日に、落ち着いて一緒に酒を飲めるはずもなかったからだ。
打ち上げの存在をすっかり忘れていたおかげで、罪悪感なく逃げ帰れたことだけは今日のハッピーニュースだった。
『まぁ、もう時間も遅いし良いけどさ』
おそらくは打ち上げの後で、俺の家に来ようとしていたのだろう間宮が、きっと俺にしか気づかれない程度で拗ねた声色を出す。
その声を聞き、少しだけ下腹が疼く感覚になる。けれど俺が答えたのは「うん、悪かったな」という一言だけだった。
「終わったら来いよ」と言ってやることも出来るのに、そうしなかった。
『あ。最後。瑞稀さんが少しだけ話したいって』
ぎくりと心臓が鈍く跳ねた。疼いたままのこの身体で、先輩の声を聞くことに抵抗があるのだ。
しかし、そんなことスマホの向こうの2人にわかるはずもない。無意識に背筋を伸ばして、先輩の声を待った。
先輩が話し出すまでに、少しのタイムラグがあり、そのタイムラグの間に向こうから聞こえてきていたざわめきが小さくなった。
場所を変えたのだろう。ざわめきの代わりに風の音が聞こえる。
『…さっきぶり』
「ぅす」
どう答えて良いか分からなくて、思春期の男子高校生みたいな返答をしてしまう。
『…えっと、驚かせてごめんね。…会えて嬉しかった』
「あ、いえ。こちらこそ…」
謝らなきゃいけないのは、逃げ帰った俺の方だ。状況的にも立場的にも。でも言葉が全然うまく出てこない。
『今度、改めて会おうよ。飲みにでも行こう』
「えっと…」
『色々変わっててびっくりしたでしょ」
「いや、それはもう。はい」
ふはは、という小さな笑いが聞こえた。たったそれだけのことで、身体から力が抜けていくのがわかる。リラックスしたわけじゃない。ただ、骨抜きになっただけだ。
『電話番号教えて。すぐにメッセージ送るから』
そんな骨抜き状態の時にそんなことを言われたら、抵抗する術なんてなかった。
言われるがままに電話番号を口にしてから、『わかった、じゃあね』という言葉によって通話が切れるまで、ほとんど夢うつつのような心地だった。
スマホを持つ手を膝に下ろして、数秒だけぼんやりとした。
ぼんやりとしながら身体の真ん中が、下着の中で熱く怒張しているのが目に入る。
あぁ、恥ずかしい。と、頭の奥の方で思った。
先輩はただ、久しぶりに後輩と再会したことを喜んでいるだけなのに。
ただ、声を聞いただけなのに。
俺は、カメラマンになっていないのに。
しばらくそのまま、触らないでいた。先輩を汚してしまうような気がして、触れなかった。
しかし一度熱を持ったそれは、下着に小さな染みを作るほど切羽詰まっていく。焦らせば焦らすほど、後ろもずくずくと疼き出した。
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