快楽に貪欲になった元神殺し

魔理沙

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現れた変化 2

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俺はまたも気絶した形で眠り、鳥の囀りが聞こえてきて起きた。昨日の朝はヴァイスに抱き締められて離してはくれなかったが。今回はヴァイスは先に起きていた。何か飲んでいるようだ。
「ああ、おはよう。」
「……あ、おはよう。」
カーテンは閉めきられている部屋のある食事をするテーブルで、のんびり紅茶を飲んでいた。俺が起きたら
「声が枯れただろ。すぐ呼んで紅茶を持ってきてもらうな。」
「あ、ああ。…………。」
なるほど、あくまでも嫌なのは朝ではなくて朝日そのものなのか。カーテンを閉めきっているうす暗い部屋。僅かに朝日があるだけで、あとはシャンデリアという照明の明かりだけだ。夜とまではいかなくても、暗かったら平気なのか。
着替えようとベッドを下りたら既に着替えられていた。
「ああ、頼むな。ん?紅茶なら直ぐくるそうだ。それまでゆっくりしていいぞ。紅茶のついでに朝食も頼んだが食うか?」
「そうだな。腹も減ってるし食べるかな。」
そういえば、この城の。元々神殺しだったヴァンピールは。食事を楽しむ、食べる量と頻度が多い。それこそほぼ毎食、しかも毎日だ。ヴァンピールは術者の特徴を影響するが。揃いも揃ってこうなるものか?
「…………。」
そもそも神殺しは一度の出撃か惑星や銀河系の調査で星を離れたら長期間の任務遂行をする。地球とは比べ物にならない過酷な環境の惑星や恒星、宇宙空間での生活がほとんどだ。当然だが調査するうえで現地調達して食べられる物は極々限られてくる。
ほとんどはそのまま焼く。もしくはそのまま食う。煮るなんて贅沢な事はそう出来ない。水のある星は少ない。だが現地調達出来たらまだ良い方だ。船に積んでいる栄養補給する装置から生存するうえで最低限の栄養を補給するからな。そんな過酷な環境の中で任務遂行して帰還する。まあ帰れば地球では休養期間中でたんまり食べるが。
こんな見た目も匂いも味も良いものではない。焼くか煮るかそのまま生で食うかのどちらかだ。蒸す、揚げるのもあるがそんなのは贅沢品だ。
だから。毎日3食この城で暮らしてる奴はこんな贅沢な食事を食べている事実に驚いた。最初こそ歓迎されているからだと思ったが。次の日もその次の日も内容の違う手の込んだ飯を出されて使用人に
お前たちはこんな贅沢な食事を毎日食うのかと聞いた。すると使用人は
「え?あ、申し訳ございません。お言葉ではございますが毎食お持ちしているお食事は普通でございます。」
ヴァイスもその言葉には驚いていた。まさかあの料理が贅沢品ではなく何時も食べてる普通の飯だったなんて。そんなヴァイスが今は。
「お、きたな。」
「ん、ああ。…………。」
今日も今日で豪勢なものだ。野菜なんて食べた事は、無かったな。植物は苔しか食べた事は無かった。
「それじゃ食うか。」
「ああ。…………。」
「んん!いい匂いだな。それじゃ早速一口。うん、やっぱり旨いな!」
ドレッシング、だったか。それらも味わってる。野菜もみずみずしいとか他の飯の、グリル?だったか?味付けも焼き具合が最高だとか。言う奴だったか?しかも本当に旨そうに食う。
答えるか分からないが聞くか。
「なあ。」
「ん?どうしたんだ?あんまり食べてないじゃないか。」
「ヴァイス。俺たちはそんなに食べる必要も味わう必要も無かっただろ。」
「…………。そうだな。けど。」
カタリと静かに食器を置くと紅茶を一口飲んで
「死ななくなると、楽しみって1つでも多く欲しくなるんだよ。それにな。この身体になって、気付いたんだ。俺はこんなに旨いもの食べていたのに、何故味わうこともしないで流し込むように食っていたんだってな。俺たち力を得るために食べる楽しさを無くして単なる栄養補給の為だけの手段にしていた。そんなの悲しくないか?」
「……………………。」
そうだったのか。死ななくなれば。ヴァイスは何を楽しみに永遠の長い時を生きればいい。だからこそ楽しみは1つでも多く欲しくなると思うのは至極同然な思考だ。何故神殺しを造った過去の先人たちは。俺たちをこんな風に造ったんだ。元から持っていた食べる楽しさを不要な感情を奪い取ったんだ。
「俺もこの身体になって気付かされたんだ。大丈夫だ。」
「……。お前が言うならそうだな。」
改めて少し冷めた飯を食ったら旨いなと思えた。

「時間良いか。」
「なによ。治療なの?それともモルモットにでもなってくれるの?」
頭脳と腕はいいが、性格は過激で利益重視な科学者。とは聞いてたが。本当にそうだな。
「検査を頼みたい。」
「ふーん……?調べてほしい、ね。」
良いわよとアッサリと調べてくれた。これには驚いたが願ったりというものだ。いくつか問診されて。
「どうも子宮があるみたいでな。」
「で、あるのかを調べてほしいわけなの?」
「そうだ。全身を頼みたい。」
「良いわよ。けど、タダでは無いわ。定期的に見せてくれるなら良いわ。」
「分かった。それで頼む。」
それで脳を含む全身を検査した。特に下腹部を重点的に。全身の検査も一時間もすれば終わり、あとは解析だけになる。
「はい、お待たせ。で、早速結果を言うわね。」
「ああ。」
「子宮だけど、あるのはあるわ。」
話を聞けば子宮そのものはありはするが、やはり妊娠するのに必要な排卵の機能は未完成だと言う。しかし。
「だけどこの子宮。定着させた本人の子供しか産めないように都合よくできてるわね。それに性交が2回目だからかしら。しかも子宮まで繋がってる腸内は女で言うところの膣みたいになってるわ。あなた賢いからもう分かってるでしょ。」
身体が変わってきていて、もう戻れないことに。
「確実に、ヴァイスの番として近付いてるということか。」
「そうね。それから……。」
子宮口はカウパー液で6倍、精液で12倍感度は上がり。膣のように変えられた腸内も4倍、精液も8倍は感度が上がるらしい。
「しかも胎内に入れられて中に出されたら、あなたはその快感と多幸感を記憶として覚えて忘れる事は不可能。それだけじゃない。これまで1度だけだったんでしょ?近いうちに1度だけでは足りなくなるわ。そう脳波としても出てるしね。簡単に言えば麻薬中毒のような状態になるわ。」
「…………。そう、か。」
分かってはいたが、明確になると堪えるものもあるな。だがこの科学者はこうも続けた。
「けど中毒状態になるのはあなただけとも言えないのよね。」
「…………。なに?」
「ヴァンピールって私からしたら面白いデータを見せてくれるモルモットなのよね。本当なら淫紋を着ける術者は着けた相手を心身共に自分に都合のいいように作り替える。好き勝手に出来るのよ。なのに、それに反して性交の回数を重ねていく毎に着けた相手に依存する。着けた相手がいないと狂うのよ。逃げ出そうとするなら手段なんて選ばないし。躾直すのよね。離れるなんて思うことすらしないように。理由は簡単。あなたがいないと自分が壊れるのを本能的に分かってるから。多分彼もとっくに一度だけの性交なんかじゃ満足なんてしてない筈よ?」
「……………………。」
一度だけの性交なんかじゃ満足なんてしてない。もしもそれが本当なら。何故これまでヴァイスは俺を抱く時は一度だけで済ませていた?……。
「もしかして。すまない、これで失礼する。」
「ええ。ああ。定期的な検査、忘れないでね?」
分かってるとだけ答えて部屋に戻る。もしも彼女の話が本当なら。これまでヴァイスは我慢していた事は明確だ。我慢していた理由が、あるとしたら。
俺の身体の事を考えて労っていた。本当は自分の欲のままに俺を抱きたかった筈なのに。なのに、どうして。あいつはまだ。
「ヴァイス。」
「ああ、お帰り。調べてほしいことがあったんだろ。何か分かったのか?」
「ああ。色々分かったよ。お前の事も分かったよ。お前ふざけるな。」
「何のことだ。一体どうしたんだ。」
「お前、まだ我慢していたんだろ?俺の身体の事を考えて。なのに一度だけで済ませてたんだろ。違うか。」
そう言って睨み付けて胸ぐらを掴む。本当にふざけてる。受け入れると言った俺を何だと思ってるんだ。自分が一度だけで済ませてた、我慢していたと言われて納得したのか
「……。お前、何か勘違いしてるぞ。」
「どういう事だ。」
「俺は我慢なんてしていない。カルディア、俺はな。」
耳元に顔を近付けて吐息交じりで囁きかける。お前みたいな気質の奴はじっくりと時間かけて支配したいんだよ。
「っ。」
「カルディアの言うとおり、何回でも抱いて俺の事しか見ない番にしてやりたいさ。その気になれば、ほんの数日で俺の妻という名目のヴァンピールにだってしてやれる。けど何でしなかったのか分からないか?簡単に手に入るのは楽しくない。時間をかけて何枚もある固い理性の壁をゆっくり壊して、俺だけを求めるように変えていく。それが楽しいからしているんだ。言っただろう?」
死ななくなると楽しみは1つでも多く欲しくなるって。
「………………。」
そうか、俺はとんだ思い違いをしていた。我慢していたのではなくて楽しんでいた。何故1度だけしかしないんだと思った。敢えて1度だけしかしない事でゆっくり変えていく。
神殺しは全員あるシステムがある。脳内に洗脳防御システムだ。高度な知能を持つ生命体によって洗脳される事の無いように。だからこそこれまで宇宙に存在する全ての知能を持つ生命体による洗脳を防ぐことが出来た。だからこそまだ俺は淫紋を着けられていても理性を保つ事が出来る。だが
高い技術を用いて作られた防御システムとて万能ではない。
データに無い生命体、そして洗脳方法である淫紋には完全に防ぐことは不可能だ。
ましてや、神殺しから作られたヴァンピールならなおのこと不可能だ。どう防ぐことが出来る。
「カルディア……。」
「っ。その、すまなかった。いきなりお前の話も聞かないで責めて。」
「気にしてない、事実だしな。なあ」
欲しがっているんじゃないのか?とまたも耳元で囁かれて、身体を震わせるが。
「そ、んな事は……。」
ウソだ。もう頭の中は到底言えないような妄想でいっぱいだ。同時に俺の中で警報が鳴る。
欲しいなんて、思ってはいけないと。
だが、そんなのもう遅すぎる。俺の身体が求めてる以上どうやって我慢すればいい。形だけの抵抗しか出来ない俺にどうやって抗えばいい。
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