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番外編~100年に一度の恋へ
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目が覚めると、アリスちゃんがアーロンとザイオンを優しい瞳で見つめているのが目に入る。ふたりはぐっすり眠っているようだ。いくら産後とは言え、まだ11歳の義妹に任せっきりで眠りこけているなんて…途端に恥ずかしさに見舞われる…情けない。
「アリスちゃん、ありがとう。ごめんね、眠っちゃって」
「ソフィア様、大丈夫ですよ。ふたりともお利口さんに寝ていましたから。…可愛らしい…」
アリスちゃんが、優しい手つきでふたりのお腹をポンポンする。
「レインとリオンの時も思いましたが、赤ちゃんとはすごい存在ですね。そこにただいるだけで、周囲を幸せにしてしまうのですから」
そう静かに呟くと、アリスちゃんは「ソフィア様」と私をじっと見つめた。
「実はソフィア様に、その、…ご相談が、あって」
そう言ったアリスちゃんの頬がほんのりと赤く染まっていく。非常に可愛い…アリスちゃんはエヴァンス家のこどもの例に洩れず、それはそれは麗しの美少女だ。大人になればきっと王妃様同様の美女に育つに違いない。そんな可愛い超絶美少女が頬を赤く染めているのだから、私のようなおばさんの胸などギュンギュン撃ち抜かれてしまうに決まっている。まだ幼いのに…罪作りね、アリスちゃん…変な男に捕まらないでね…。
なんて感傷に浸っていたら、
「実は、その…あの、ソフィア様、ええと、その、」
いつもハキハキかつ冷静沈着なアリスちゃんが(まだ11歳なのに、私なんかよりよっぽど大人なのである)言い淀む姿に違和感を覚える。
「アリスちゃん、どうしたの?まさか、具合悪い?ご、ごめんね、私が呑気に眠りこけていたせいで…っ」
「ち、ちがいます、違うんです、ソフィア様…っ。あ、の、…先日、ユリアーナ・ジルコニア様に来ていただいたではありませんか、」
…うん?
「…ユリアーナさんが、どうかしたの?」
アリスちゃんはさらに顔を赤く染めると、そっと目を伏せた。可愛い…。
「ユ、ユリアーナ様の、だ、だんな、さまの、」
…え。まさか。
「まさかアリスちゃん、フェルナンドさんを好きになっちゃったの!?」
フェルナンドさんは確か20歳…ギリギリない年齢差ではないが、しかし残念ながら既婚者だ…!いくらアリスちゃんの望みでも、それは応援してあげられない、ごめん…!
葛藤する私をよそに、アリスちゃんは
「ち、ちがいます、あの、あの、フェルナンド様の、弟さんが、そこに、同席されていたんですが、」
「…弟さん?」
私は残念ながら会っていない。悪魔と共に会ったのは、ユリアーナさんの旦那さんのフェルナンドさんだけだ。あの時たしかアネットさんが、
「…こちらに来てるって言ってたね、そういえば。イアンさん、だっけ?アリスちゃんは会ったの?」
アリスちゃんは真っ赤な顔のままコクリと頷くと、
「…イアン様は、フェルナンド様がお兄様に挨拶に行くからユリアーナ様に付き添うと仰って、同じ部屋にいらしたんです。座ってくださいと伝えたのですが、『座っていたら守れないから』と、頑なにお座りにならなくて…私、最初は、もう夢中でユリアーナ様とお話していたから気づかなかったのですが、一息ついてお茶をいただこうとしたときに、その、…イアン様が私をじっと見ているのに気がついて、」
「…そのイアンさんて、いくつなの?」
「15歳だと仰っていました」
…15歳。まあ、アリスちゃんとそんなに年が離れてるわけではないからロリコンとは言いきれないが、この美貌にやられてしまったのだろうか。お気の毒に。
「アリスちゃん、可愛いから見たくなる気持ちはわかる…」
「い、か、かわいく、ない、です、」
モジモジするアリスちゃんなんてほんと珍しい。顔を赤くしたまま、アリスちゃんはまた俯いてしまった。
「…ソフィア様の出産が無事に終わってから、ご相談にのっていただこうと、思って…実は、あの、その、…イアン様に、こ、こんや、こ、…あぅ」
「アリスちゃん!?」
真っ赤な顔がさらに真っ赤になり危なっかしい様子になる。ベッドから降りて慌てて支えると、アリスちゃんがふらりと傾いた。
「大丈夫!?アリスちゃん、やっぱり具合が悪いんじゃ…!」
私の腕の中でフルフルと横に首を振り、こちらを見上げた瞳は潤んでいた。…かっ、かわいい…っ!!
「そ、の、あの、イ、イアン、様に、こ、こ、こん、こんやく、してくれと、言われて、」
…え?
「…初対面なのに?」
「よく、わからないんですが、…私を、知っていたそうで、…ずっと、見ていたと、」
ずっと見ていた、というワードに頭が痛くなる。紛れもない、ストーカーだ。…そもそも、
「イアンさんて、なんでうちの国にきたの?」
「…不本意ですけれど、あの詐欺師王太子もどきからギデオンお兄様に変わって、我が国は大きく発展しています。あんなにおかしいのに、王太子としての能力は別格です、それは認めざるを得ません、…甚だ不本意ですけれど」
…悪魔よ。
「…それで、セルーラン国でも何か取り入れられるものはないかと、…ジルコニア侯爵家は影の一族だそうで、フェルナンド様は嫡男で国内を見ていらっしゃるため次男のイアン様がいらしたのだそうです」
「…でもさ、ギデオンさんは、『アネットさんから報告があった』ってイアンさんのことを言ってたよ。てことは、王宮には来てないんでしょ?どこでアリスちゃんを見たんだろ?」
「アネットさんに訓練を受けているレインとリオンに差し入れをするため離宮に行ったとき、イアン様もそこにいらしたんだそうです」
…アリスちゃんはチンピラが格別に大事にしている。上の男3人はもう既婚者だし、なんなら勝手にしやがれ、国のためにキリキリ働け、みたいなところがあるけど、11歳のアリスちゃん、8歳になったオリヴィアちゃんには影も付けてるし、王宮からは出さない。なんなら双子王子みたいに「嫁にはやらん」とバカ発言をしているくらいだ。その監視の目を掻い潜って、…アリスちゃんを見てた、とは。
イアン・ジルコニアさんは、とてつもない能力の持ち主のようだ。そして、紛れもない、…ストーカーだ。
「アリスちゃん、ありがとう。ごめんね、眠っちゃって」
「ソフィア様、大丈夫ですよ。ふたりともお利口さんに寝ていましたから。…可愛らしい…」
アリスちゃんが、優しい手つきでふたりのお腹をポンポンする。
「レインとリオンの時も思いましたが、赤ちゃんとはすごい存在ですね。そこにただいるだけで、周囲を幸せにしてしまうのですから」
そう静かに呟くと、アリスちゃんは「ソフィア様」と私をじっと見つめた。
「実はソフィア様に、その、…ご相談が、あって」
そう言ったアリスちゃんの頬がほんのりと赤く染まっていく。非常に可愛い…アリスちゃんはエヴァンス家のこどもの例に洩れず、それはそれは麗しの美少女だ。大人になればきっと王妃様同様の美女に育つに違いない。そんな可愛い超絶美少女が頬を赤く染めているのだから、私のようなおばさんの胸などギュンギュン撃ち抜かれてしまうに決まっている。まだ幼いのに…罪作りね、アリスちゃん…変な男に捕まらないでね…。
なんて感傷に浸っていたら、
「実は、その…あの、ソフィア様、ええと、その、」
いつもハキハキかつ冷静沈着なアリスちゃんが(まだ11歳なのに、私なんかよりよっぽど大人なのである)言い淀む姿に違和感を覚える。
「アリスちゃん、どうしたの?まさか、具合悪い?ご、ごめんね、私が呑気に眠りこけていたせいで…っ」
「ち、ちがいます、違うんです、ソフィア様…っ。あ、の、…先日、ユリアーナ・ジルコニア様に来ていただいたではありませんか、」
…うん?
「…ユリアーナさんが、どうかしたの?」
アリスちゃんはさらに顔を赤く染めると、そっと目を伏せた。可愛い…。
「ユ、ユリアーナ様の、だ、だんな、さまの、」
…え。まさか。
「まさかアリスちゃん、フェルナンドさんを好きになっちゃったの!?」
フェルナンドさんは確か20歳…ギリギリない年齢差ではないが、しかし残念ながら既婚者だ…!いくらアリスちゃんの望みでも、それは応援してあげられない、ごめん…!
葛藤する私をよそに、アリスちゃんは
「ち、ちがいます、あの、あの、フェルナンド様の、弟さんが、そこに、同席されていたんですが、」
「…弟さん?」
私は残念ながら会っていない。悪魔と共に会ったのは、ユリアーナさんの旦那さんのフェルナンドさんだけだ。あの時たしかアネットさんが、
「…こちらに来てるって言ってたね、そういえば。イアンさん、だっけ?アリスちゃんは会ったの?」
アリスちゃんは真っ赤な顔のままコクリと頷くと、
「…イアン様は、フェルナンド様がお兄様に挨拶に行くからユリアーナ様に付き添うと仰って、同じ部屋にいらしたんです。座ってくださいと伝えたのですが、『座っていたら守れないから』と、頑なにお座りにならなくて…私、最初は、もう夢中でユリアーナ様とお話していたから気づかなかったのですが、一息ついてお茶をいただこうとしたときに、その、…イアン様が私をじっと見ているのに気がついて、」
「…そのイアンさんて、いくつなの?」
「15歳だと仰っていました」
…15歳。まあ、アリスちゃんとそんなに年が離れてるわけではないからロリコンとは言いきれないが、この美貌にやられてしまったのだろうか。お気の毒に。
「アリスちゃん、可愛いから見たくなる気持ちはわかる…」
「い、か、かわいく、ない、です、」
モジモジするアリスちゃんなんてほんと珍しい。顔を赤くしたまま、アリスちゃんはまた俯いてしまった。
「…ソフィア様の出産が無事に終わってから、ご相談にのっていただこうと、思って…実は、あの、その、…イアン様に、こ、こんや、こ、…あぅ」
「アリスちゃん!?」
真っ赤な顔がさらに真っ赤になり危なっかしい様子になる。ベッドから降りて慌てて支えると、アリスちゃんがふらりと傾いた。
「大丈夫!?アリスちゃん、やっぱり具合が悪いんじゃ…!」
私の腕の中でフルフルと横に首を振り、こちらを見上げた瞳は潤んでいた。…かっ、かわいい…っ!!
「そ、の、あの、イ、イアン、様に、こ、こ、こん、こんやく、してくれと、言われて、」
…え?
「…初対面なのに?」
「よく、わからないんですが、…私を、知っていたそうで、…ずっと、見ていたと、」
ずっと見ていた、というワードに頭が痛くなる。紛れもない、ストーカーだ。…そもそも、
「イアンさんて、なんでうちの国にきたの?」
「…不本意ですけれど、あの詐欺師王太子もどきからギデオンお兄様に変わって、我が国は大きく発展しています。あんなにおかしいのに、王太子としての能力は別格です、それは認めざるを得ません、…甚だ不本意ですけれど」
…悪魔よ。
「…それで、セルーラン国でも何か取り入れられるものはないかと、…ジルコニア侯爵家は影の一族だそうで、フェルナンド様は嫡男で国内を見ていらっしゃるため次男のイアン様がいらしたのだそうです」
「…でもさ、ギデオンさんは、『アネットさんから報告があった』ってイアンさんのことを言ってたよ。てことは、王宮には来てないんでしょ?どこでアリスちゃんを見たんだろ?」
「アネットさんに訓練を受けているレインとリオンに差し入れをするため離宮に行ったとき、イアン様もそこにいらしたんだそうです」
…アリスちゃんはチンピラが格別に大事にしている。上の男3人はもう既婚者だし、なんなら勝手にしやがれ、国のためにキリキリ働け、みたいなところがあるけど、11歳のアリスちゃん、8歳になったオリヴィアちゃんには影も付けてるし、王宮からは出さない。なんなら双子王子みたいに「嫁にはやらん」とバカ発言をしているくらいだ。その監視の目を掻い潜って、…アリスちゃんを見てた、とは。
イアン・ジルコニアさんは、とてつもない能力の持ち主のようだ。そして、紛れもない、…ストーカーだ。
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