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不穏なランチタイム

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2013年5月18日
心地よい日差しが気持ちいい五月晴れの日。
本日は海岸沿いでのロケ撮影を行っていた。

「未來君っ、お昼一緒に食べよ?私凄くいい場所見つけたんだ」

お弁当を手に持った百花は、そう言って綺麗な笑顔を未来に向けた。
 
「あ、う~んと…、ごめん百花ちゃん。僕斗亜君と約束しちゃったから。ね?斗亜君っ」

眉根を下げ、気まずそうな笑顔でそう百花に言いながら、彼女にバレないように隣にいる斗亜の袖口を、くいくいと引っ張り未来は助けを求めた。
二日連続百花のくだらない話に付き合わされるのは、心底うんざりだった。
そんな未来からの無言のサインを受け、斗亜は小さなため息をこっそりとついた。
避けたくなる未来の気持ちはよく分かるが、しかし避けるだけでは効果は薄い。
はっきり言わなければ意味がないのに、未来のことなかれ主義に少しばかり不満を感じるが

「ごめんね。今日は僕に譲ってくれる?」

縋るように自分を見上げて懇願してくる未来を、斗亜に無下にする事など出来なかった。
 
「っそっか…」

柔らかい笑顔で断りの文句を斗亜から言われ、百花は二人にバレないように下唇を軽く噛んだ。
いつも一緒にいる癖に、昨日のように譲ってくれたらいいのに、そうしてくれなそうな斗亜に腹が立った。
しかしそんなに簡単には引き下がらないんだからと、百花は掌を強く握りこんだ。

「っうっ、折角いい場所見つけたのにな…うっ…」

肩をあからさまに落とし、そしてポロリと涙を流しながら百花は敢えて視線を未来から外した。
その方が対面する未来から涙が見えやすい事を百花は知っているからだ。

「!?えっ?ちょっ、百花ちゃん?!」

突然涙を流す百花に、未来は瞳を丸くして驚いた。
何で彼女が泣いているのか、未来にはさっぱり分からないが、隣の斗亜には百花が嘘泣きしている事は容易に分かり、その卑怯さをみっともないととても不愉快に感じていた。
が、斗亜をも欺けていると疑わない百花は、そのまま演技を続けた。
 
「ごめんっ。私、未來君をどうしても連れてきたかったからっ…っぅ…」

手で顔を覆って、百花はわざとらしく肩を震わせた。
そんな彼女に未来はおろおろするばかり。
何故彼女が涙したかの理由は分かった。
しかしそんな事で普通泣くか?と、全くもって未来には理解出来なかった。
が、しかし
 
「解った解ったっ。行くよ。いや、連れてって?」

このまま泣き続けられては敵わない。
未来は彼女を宥めるために、努めて優しい笑顔を浮かべながらそう言った。



2023年1月2日
ホテルから車で20分そこそこの場所にある海岸沿いの小さな公園。
生憎の曇り空。おまけに強風で寒さが倍増している為か、人気のない公園を未来はゆっくりと歩いていた。
モッズコートのポケットに両手を入れ、容赦なく吹き付ける風に未来は身を縮こませながら、園内の端、小高い位置にある東屋に入った。
海を見渡せられるよう作られた東屋は、確かに晴れた気候の良い日ならさぞ気持ちのよい事だろう。
が、真冬の風が吹き荒れる今日の様な日は一瞬で体温を奪われてしまう。
未来は寒さに耐えながらベンチに腰を下ろした。
そしてふと口元から零れるのは苦笑い。
この場所で起きた出来事は、今まで思い出しもしなかったけど、この場所を教えてくれたあの子は今、どこで何をしているだろうかと、未来は荒波をたてる海を眺めながら思った。



2013年5月18日
海が見渡せる海岸沿いにある小さな公園。
時折ふく風がさらさらと髪をなびかせ、少し強い日差しの元でも快適だと感じる。

「ね?凄く気持ちいい場所じゃない?ランチするのにぴったりの」

嬉しそうに百花はそう言い、満足した笑顔を未来に向けた。

「あ~、うん、そうだね…」

確かに百花の言う通り素敵な場所だと未来も思う。
がしかし、仕事中な今、どんな場所で食べようが一緒ではないかと思ってしまうが、百花が泣き止んだのに水を差し、また刺激して泣かせてはならないと大人しく同調した。
 
「でしょ?未來君も絶対気に入ってくれると思ったんだっ」

るんるんと弾む声色を出す百花だが、内心では何とか一緒に休憩を過ごせそうな事に安堵し、そして大きな懸念に眉を潜めた。
 
「未來、お弁当どっち食べたい?唐揚げ弁当とロースカツ弁当」
「ん~、どっちにしよう。悩むな~」
「ならシェアする?僕はどっちでもいいし」
「うん、そうしよっか」

テキパキとお弁当を広げお茶を入れ、甲斐甲斐しく未来の世話を焼く斗亜に、百花はなんて邪魔なんだと歯がゆく思った。
斗亜も一緒ならいいよ、と、そう言った未来に仕方なく了承した百花だったが、まさか本当に斗亜が着いてくるとは思わなかった。
てっきり昨日みたいに気を使って辞退してくれるものと思っていたのが期待はずれ。
このままでは斗亜に時間を奪われてしまう。
何とか二人きりにならないとと、百花は手にしたソース入れを静かに傾けた。

「あっ、やだっ」

百花のスカートにソースの染みが広がっていく。
 
「え?あっ、大丈夫?タオルある?」

狼狽える百花に未来も焦った声をかけた。
 
「あるけどもうべたべた。どうしようっ。衣装がっ。染みになっちゃうっ」

今にも再び泣き出しそうな百花に、未来はやはりおろおろと右往左往するしかなかった。
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