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誕生祭
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しおりを挟むモルディア公爵邸、アリエスの私室。
「お似合いです、お嬢様」
「……………はぁ……」
「お嬢様?」
アリエスは気鬱だ。侍女としてロティシュの誕生祭の夜会に給餌するつもりだったアリエス。だが、宰相であり皇帝の従弟マークが夫妻参加になる事で、アリエスも出なければならなくなったのだ。先に15歳になったアリエスもこの日が社交界デビューという事になる。
「行かなきゃ駄目なのね、結局………」
「旦那様からも奥様からもお話あったではありませんか」
目の前にはイリーサから押し付けられた鬘もある。その鬘を被り、誕生祭に参加しろ、と言われてしまったのだ。オッドアイの瞳に合わせた薄い緑の質素なドレスにしたアリエス。全て白銀の髪であれば似合うドレスだと思うが、黒髪が邪魔をする。
「鬘被るわ……」
「お嬢様………はい」
少しでも鬘で誤魔化して、モルディア公爵令嬢として見劣り等しない。白銀の鬘を被るアリエス。結ぶ事はせず、制御の為の【宝珠】のネックレスを掛ける。土と闇属性のアリエスは茶に近い黄色の宝石か琥珀か黒色の宝石を見に纏わなければ制御出来ない。
「ネックレスは合いませんよ、この姿では…………」
「でも………私には【宝珠】はこれしかないもの……」
「着けなくても、別のネックレスにしましょう、お嬢様………お嬢様の宝石ならば、合いますし」
「……………駄目よ!制御が絶対に必要になるもの!」
アリエスは神力が暴走する事を不安に思っている。その暴走は、アリエスの日頃の失敗に関係していた。何も無い所で躓いたり、お茶を溢したりという些細な失敗だが、アリエスは完璧にしたいのだ。『中途半端』と言われ続け、仕事は『完璧』にしたいからだった。
頑ななアリエスの心情は、侍女達も分かっているから、もう何も言えなくなってしまった。
「用意出来た?」
「………お母様……」
「…………【宝珠】は………合わないわよ?いいの?」
「………暴走するよりかは………」
「………それなら、コレ着けたら?」
エリスも用意が終わり、アリエスの部屋に入ると、黄色い石の指輪を渡す。
「小さい石だし、神力も制御するには心許ないけれど………無いよりかはマシじゃない?首元は自分の宝石を着けなさい」
「…………分かりました」
「……………楽しみなさい………楽しめないと思うけど……」
「お母様………行かなきゃ駄目ですか?」
「陛下と妃殿下から、アリエスも連れて来なさい、と言われているのよ………分かるでしょう?公爵令嬢として、と言われてるんでしょう?」
「……………っ……はい……」
「さ、行きましょう………お父様も待っているわ」
馬車に3人乗り込み、城へ向かう。
「イリーサ様から鬘を頂いたんだって?」
「あ、はい」
「………そうか………全体が白銀になると変わるものだな」
「………そうですね……」
「似合ってるぞ、アリエス」
「ありがとうございます」
気に入っているマークからすれば、寂しく感じるアリエスの髪は、暗い馬車の中でも輝いていた。
「到着しました」
「降りよう」
マークが一番に降り、エリス、アリエスと続く。モルディア公爵家が馬車から降り城の大広間へ行く間も、アリエスに注目されていた。黒髪部分が無いアリエスの変化に驚く貴族達。だが、時折令嬢達からは失笑が起きているのに気付くものの、知らない振りをする、マークやエリス。それを見習い、アリエスも気付かない振りをする。
「アレ何?」
「馬鹿にされるから鬘でも被ったのかしら」
「余計に馬鹿にされるのにね………クスクス……」
「気にするなよ、アリエス………神力の無い娘達の戯言だと思っておけ」
「お、お父様!それは………」
「………い、行きましょう」
「え、えぇ……」
公爵以下の令嬢で白銀の令嬢は少ない。神力の恩恵を受ける為には、皇族や公爵の血筋と結婚し子供を設けるしか無いのだ。約100年以上前のモルディア皇族の血筋は、皇族と公爵内での血縁に頼っていた様で、封印が解けて15年の内に数人は神力を持つ子が産まれ重宝されているのだ。
大広間に入ると、既に大勢の貴族達が集まり、それぞれ談笑していた。
.•*¨*•.¸¸♬.•*¨*•.¸¸♬
皇族である皇帝ルカス、皇妃マシュリー、皇太子ロティシュが入場する曲が流れ始めると、アリエスの後ろから、声が掛かった。
「アリエス」
「イリーサ様………あ、ザナンザ様………ご挨拶申し上げます……」
「綺麗じゃない、アリエス」
「………あ、ありがとうございます、ザナンザ様」
「でしょう?ザナンザお兄様………わたくしからのプレゼントよ、少し前にアリエス誕生日だったから」
「え!?………俺忘れてた!!ごめん、誕生日だったんだ、アリエス」
ザナンザはアリエスの誕生日を知らなかったのか、慌てふためく姿を見てアリエスもこの日初めて笑う。
「ザナンザ様、お気になさらずに……今日はロティ様のお誕生日ですから、お兄様を祝って下さいませ」
ざわっ。
白銀の鬘の偽りの姿のアリエスは、目を引いた。結婚を決める年頃の白銀の令嬢は少なく、アリエスが黒髪と白銀の2色と知っていても尚、心を奪われる独身の貴族達。笑った顔が美しく、ふらふらとアリエスに近付いて行く。
だが、ルカスの挨拶が始まり言葉を発すると、独身貴族達は止まり、ルカスの言葉を聞いた。すると、マークとエリスはアリエスの背後に回り、ザナンザも独身貴族へ威嚇始める。
「お、お父様………?」
「陛下の挨拶は聞きなさい」
「は、はい」
その光景を壇上から見るロティシュ。乾杯があると、ロティシュが選んだ女性とダンスをする事になっている。アリエスの場所を確認し、威嚇するザナンザに注視しつつ、ロティシュはそわそわとしていた。
「…………乾杯!!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
グラスを取り、口を潤すロティシュは直ぐ様グラスを置く。しかし、ファーストダンスを狙い令嬢達がロティシュに押し寄せる。
「悪いが、踊りたい令嬢が居る」
令嬢達を一掃し、アリエスの元へロティシュはやって来た。
「アリエス………ファーストダンスは君と踊りたい…………私と踊って頂けますか?」
「…………え?………え?」
「アリエス………断れないわよ」
ロティシュに恥を掛けてはいかず、アリエスはロティシュの手を取った。
「………ロティ様………私で宜しければ……」
差し出されたロティシュの手にアリエスの手が添えられる。すると、ロティシュの顔の緊張感は解れ、ロティシュはアリエスに微笑んだ。
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