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見苦しい義姉
しおりを挟むラメイラとトーマスの結婚式と夜会が終わり数日後、アラムと宰相はボルゾイに帰国した。
レングストンとボルゾイ両国にあった王同士の密約を、正式な物にする為に、アラムとアラムの母である正妃の策略で、第三王女アニースではなく、第二王女ヘルンに書き換えられ、ヘルンはそれをカサにレングストンに留まっている。
それにより、王城内では我が物顔でヘルンはボルゾイの侍従を扱うように、レングストンの侍従も自分の思うように扱っている、と噂が立った。
アニースの居る皇女宮でアニースに仕える侍女達が、侍女仲間に聞いたらしく王城に行くのが怖いのだという。
その都度、アニースは謝っていた。
「すまない………本当にボルゾイの恥だ……妃候補だという立場であっても、ただの候補で妃扱いとでもいうヘルンは本当にボルゾイの恥晒しだ。」
強くいなければならない、と心に誓っているアニースでも、恥晒しのヘルンによって肩身が狭くなり、誰にも謝ってしまう。
アニースは決して悪くないのに、だ。
「アニース様!謝らないで下さい!!」
「そうですよ!!アニース様は悪くないんですから!」
侍女達の訴えさえも謝罪したくなる程、アニース自身の居心地が悪くなる。
気分転換で、妃候補者の勉強がアニースにとって唯一心が休まる程だった。
「時間は少し早いが、勉強しに行ってくるよ。アリシアもラメイラが居なくて寂しそうだしな。」
「そうですね、アリシア様と行ってらっしゃいませ。」
アニースはアリシアを誘いに階下を使うアリシアの部屋をノックする。
侍女が扉を中から開けてくれた為、アニースは部屋に入る。
「アリシア、迎えに来た。行くのだろう?」
「はい!今お誘いに行こうとしていたんですよ。」
「それは良かった、すれ違いにならずに。」
数人の衛兵を引き連れアリシアと王城に入る。
ヘルンがレングストンから来てから、ウィンストン公爵に移動は衛兵を付けるように、と言われている。
以前から、ナターシャやリュカリオンには移動に衛兵を付けていたが、ラメイラやアリシア、アニースには特に狙われる訳ではなかった為、警備兵だけで事足りたのだが、揉め事回避の意味で、との事らしい。
そんな環境で、アリシアは落ち着いて過ごせているのかが心配になったアニース。
「アリシア………過ごしにくくなってはいないか?」
「お姉様………?」
「ほら、アリシアは自由にしていたろう?」
「そうかも……レングストンでは割とふらふらしてましたわね。アードラではとっても窮屈だったから、それに戻ってしまった感じです。」
「すまないな………ヘルンのせいだ。」
「………わたくし、ナターシャお姉様やラメイラお姉様、アニースお姉様に害を為す者は許しません。大好きですから!それに、皇子殿下方の幸せを奪う行為も!」
「…………アリシアは優しいな。」
愁いに満ちた悲しい顔ばかりするアニース。
ここ数日のアニースの表情だった。
「大丈夫ですよ、お姉様!ウィンストン公爵がなんとかしてくれる筈です!」
「………だと嬉しいな。」
図書館に来ると、まだこの日の講師のリュカリオンはまだ来ていなかった。
「珍しい………いつも時間より早く来られる方なのに。」
天気もこの日はよく、窓を開けようとしたアニースは、気になるモノを見た。
「……………アリシア……今日は無くなるかも……。」
「え?」
「………窓の外。」
「…………あっ!」
窓の外で、リュカリオンとセシルがヘルンに捕まっているのだ。
リュカリオンの前に立ちはだかるように、セシルは立ってはいるものの、ヘルンの侍女達に囲まれている。
「……………。」
アリシアは考え込むと、何か閃いたように、窓を開けた。
「殿下!!リュカ殿下!!上から失礼します!!先程トーマス殿下が探されてましたよ。緊急らしいです!」
「…………アリシア……そうか、ありがとう伝えてくれて。直ぐに行く。」
アリシアは普段名前呼びはリュカリオンにはしない。
親しげなのをヘルンに見せる為にわざと言ったようだった。
そして、トーマスは今は王城に居ない。
探しているのはおかしい。
ヘルンがトーマスに興味が無いのは分かっていたので、トーマスが何処に居るのか知らない筈。
逃げる口実をアリシアは作っただけの事。
その気遣いに気が付いたリュカリオンは口を開く。
「ヘルン姫、申し訳ないが仕事がある。あなたに時間は割けない、失礼する。」
「いいではありませんか、お話をさせて下さいませ。」
ヘルンは腕を伸ばし、リュカリオンの腕を掴もうとするが、セシルに阻まれた。
「殿下に触るな!」
「!!」
「不敬罪に処しても良いのだぞ!」
「私はボルゾイの王女!臣下風情が言うな!」
「…………ヘルン姫、私と話がしたいなら、私の右腕の腹心の部下の扱いを覚えた方がいい。私は、私が信頼している者を邪険にする者は如何なる者でも許さん。勿論、弟皇子達や私の妃や、弟トーマスの妃、妃候補のアリシアとアニースもだ!」
「き、妃候補………ですって!アニースが!私はボルゾイから正式に妃候補として来たのですよ!」
「私はそなたに興味がない。我が妃は既に居る。」
「道を開けよ!」
セシルも強い口調でヘルンの侍女達を凄む。
威圧的態度で怯む侍女達は道を空けた。
しかし、ヘルンは怯まない。
「お待ち下さい!リュカリオン様!!」
「……………名前呼びをするな。」
冷たい低い声でリュカリオンはヘルンを睨む。
図書館の上からリュカリオンを見ても背筋が凍ったアニースとアリシア。
ヘルンも青ざめていた。
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