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エピローグ
①
しおりを挟む約1年後。
ロマーリオ治世が平静を取り戻すには、ロマーリオの力だけでは落ち着く事はなかった。前王であるロマーリオの父が逝去した事で、前王が狙っていた近隣諸国が逆に国を脅かしてくる様になっていたのである。
それには、大魔道士ユージーンの存在も大きく、再び姿を現した事で、また脅かされるのでは、という危機感から始まった。
「……全く……落ち着かせて欲しいもんだ」
「本当ですよ、陛下は好意的に取引をしようとしているのに」
「それ程、ユージーンの開発した魔道具が欲しいんだろうよ……サムエル、後は任せた」
「…………何方へ?陛下」
執務室の席を立ち、そそくさと部屋を出て行こうとするロマーリオ。
「コーウェンに会いに」
「………は?午前の休憩にも会いに行きましたよね!」
「今は午後だ」
国政にもやっと慣れ、ロマーリオの妃であるフィーナも王妃らしく居ようと心掛けている。
「クワッ!」
「鳥、フィーナとコーウェンは何処に居る?」
「クワァ……」
「…………その鳴き方だと、庭か?」
「クワッ!」
フィーナは、薬師を続けたいと言い、魔法陣で城から出ようとしたのを騎士や侍女達に見つかり、王妃らしくと言われ、『薬草を摘みに行けないなら、薬草を城で作らせて』と反抗し、城の庭一体全て薬草に変えてしまった。おかげで城で働く者達の怪我や病気は、フィーナが治してしまうので、意外と役立っている。
「なかなかいい土だから、良かったわ……平原で生息する薬草しか取れないのは不満だけど………」
「フィーナ様、ローズヒップはこれぐらいの収穫で良いですか?」
「いい色ね……後でこれでお茶にしましょ」
「クワッ!」
「鳥、ナツメ食べる?」
「クワッ!」
「フィーナ」
「あら、ロマーリオ……休憩………じゃなさそうね………サムエルが追い掛けて来てるわよ?」
「ちっ!もう来たか……コーウェンに会いに来たのに……」
「サムエルが追い掛けて来た、というのはまだ仕事中ね?」
「ぐっ………」
「国王ならサボらないの!」
「あ!」
フィーナは我が子コーウェンと夫ロマーリオの間に魔法壁を作る。『仕事が終わる迄触らせない』手段に出たのだ。ロマーリオはフィーナが思っていた以上に子煩悩で、一度息子に触れると、なかなか離さなくなり、仕事を放置してしまう。
「仕事終わったらね……サムエルも困るし、大臣達臣下も困るわ……今日終わらせる仕事はしっかり片付けてきて」
「ありがとうございます!王妃!さ、陛下行きますよ!」
「クソッ!離せ!サムエル!………絶対に早く終わらせてやるから、直ぐに魔法壁解除しろよ!フィーナ!コーウェンを閉じ込めるな!」
「はいはい………貴方が仕事に戻れば解除するわよ」
「クワァ………」
ただ1枚の壁にして、閉じ込めてはいないのに、勘違いして仕事に戻るロマーリオがおかしくて、フィーナは侍女達と笑いを堪えていた。鳥は呆れている。
「今の聞いてたでしょユージーン?」
『たまたまな……後でフィーネと城に行くから、と連絡しようと思ってお前の方に鳥を行かせたら、面白い会話が聞こえた』
「毎日こんなんよ?コーウェンが産まれてから」
『良い傾向じゃないか……国王は家族思いだという、国民には喜ばしい事だと伝わる……前が酷い王だったからな』
「………まだ言ってる……本当に嫌いだったのね、ユージーン……」
『恨みはもう無いが、死しても許さない相手だ………新しく調合した薬を持って行く。部屋で待っていろ』
「分かったわ」
侍女達にも聞こえていたので、移動準備をしてくれていた。
「貴女達は仕事が早くて助かるわ」
「まぁ、王妃様ってば………クスクス……」
「本当の事じゃない……嘘は言わないわ」
「ふふふ……」
「陛下の子煩悩振り拝察するのは楽しいですよ」
「えぇ………私も……行きましょ、コーウェン………叔母さんと大叔父さんが来るからね」
コーウェンを乳母車から抱き上げ、部屋と戻るフィーナ。摘んだばかりのローズヒップのお茶の準備をしていると、魔法陣が部屋に出現する。
「お姉ちゃん」
「フィーネ、ユージーン」
フィーネはユージーンの世話になりながら、呪縛からの回復の為の治療中だ。魔法陣を使って来るのは、城内である事を極力気が付かせない為だった。城内での事は、フィーネに前国王からの呪縛を思い出させない為でもある。だから、フィーネが城に来る時は侍女達の姿も見せさせない。
「今日は何してたの?フィーネ」
「今日は、叔父さんと薬草摘みにウォルマの森に行ったよ」
「いいなぁ……私も行ければいいのに」
フィーナが外出する時はいろいろと面倒なのだ。近隣諸国からの干渉もチラつく中で、王妃が警護の薄い城の外に居ては、何かあった時に対処が遅くなる、という問題がある。
「お前は駄目だろ……警備の心配がある」
「悪質な魔獣ぐらい出ても倒せるわよ?」
「魔獣だけではない……そうだろう?」
「………ロマーリオもユージーンも心配し過ぎよ」
「…………うん……いい香りだ」
「綺麗な色だね、お姉ちゃん」
「フィーネの淹れたお茶も、お姉ちゃん好きだから、2杯目は頼もうかな」
「うん!」
フィーネの知能は未だ幼いままだが、1年前からすれば落ち着いていて、きっかけさえなければ思い出す事はない様子。
フィーネの産んだ子や他の妾の子達は一旦孤児院に預けてはいるが、育てられる環境であれば、元妾が育てている。勿論、前王の責任でもある為、ロマーリオとフィーナが支援をしてはいるが、フィーネの子はフィーネが育てるには難しいだろう。
フィーナは、フィーネが許すなら引き取るつもりではいるがまだ話せないでいた。
「フィーナ」
「何?ユージーン」
「先日、孤児院に行って来て会わせて来た」
「大丈夫だった?フィーネ」
「自分の子だとは思ってないな……だがあやしてはいた」
「まだ、難しいな……フィーネに言うの」
「…………可愛いよ、私の赤ちゃん」
「………フィーネ?」
お菓子を頬張りながら、もそもそと飛ばして喋るフィーネ。クッキーのカスが膝上に迄落ちていく。
「でも、私お世話出来ないの……何かね?イライラして叩いている自分が頭の中にあるの………お父さんとお母さんはそんな事しないでしょ?」
「………うん、しなかったよ」
「だから、時々しか会えないと思うんだ……お姉ちゃんが私の子のお母さんなら良かったのにね」
「………フィーネがそれでもいいなら、お姉ちゃんがお世話するよ?」
「うん!いいよ」
まだ記憶が混在している中で本心か分からないフィーナだったが、後日孤児院から城へフィーネの子を連れ戻す事になったのは、言うまでもない。
フィーネの子は女の子、名前は無かったので、フィーネの馴染みのある名をフィーナは付けた『フィオナ』と。
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