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しおりを挟むレイシェスがクラリスと共に入浴を済ませ案内された部屋へと入ると、エレズ達も使用人姿に着替えさせられていて、リンデンとロイズが待っていた。
「…………短い髪だが、見事な銀髪だな」
「何故、染め粉迄落とされなければならないんですか?」
「単純に、ルビリア公国の公族特有の銀髪が見たかったからだ………まぁ、座れ」
「……………」
レイシェスはクラリスの手に自分の手を添え、エスコートして貰いリンデンの前のソファに腰掛けた。
「…………なぁ、ロイズ」
「はい」
「これの何処を如何見て、魔女だとホラを吹いたんだろうな、あの親父は」
「さぁ?…………歴史あるルビリア公国の公女の品の良さを羨んででしょうか?品位の欠片もありませんからね、我が国の愚王は」
「……………」
自分の父である国王であり、君主である男を愚弄するリンデンとその部下のロイズ。
その言葉が、レイシェスの後に立つエレズ達も呆気に取られていた。
「そうだ…………レイシェス」
「…………な、何ですか……」
「母上の事………お悔やみ申し上げる」
「っ!」
1国の王太子が、レイシェスに頭を下げた。そんな事をされるとは、レイシェスもエレズ達も思ってはいない。怒りが込み上がって来る。
「そ、そんな事聞きたいが為に、我々を此処に連れて来たというのか!戦迄仕掛けておいて!何万、何百万、何千万の生命を奪っていって、その程度で許されるものか!」
「…………エレズ………」
「落ち着け、エレズ!」
「……………全くだ……同意する」
「なっ………」
如何して、奪っていった男が、同意する等と言えるのか。
「俺は…………あの親父に大切な人を人質を取られている……俺だけではない、このロイズもな」
「人質が何だと言うんだ!」
「……………生命を天秤に掛けた時……従わなければ人質を殺すと言われたら………其方達は如何する」
「…………それで戦を始めたと言うのか!ルビリアを滅ぼして迄!」
「…………ムラガはそういう男だ」
「ふざけんな!お前達の国の事を巻き込むなよ!どんな気持ちで、俺達は仲間を………家族を奪われて行ったか…………」
エレズだけではない、ユランやミハエルも、クラリスも泣き崩れている。
「お母様は………」
「……………そのまま、暫く放置される……触れれば、ムラガから処罰だ」
「っ!…………ゔっ………ぅぅぅ……」
「俺は、ムラガの失脚を望んでいる」
「「「「「…………え……?」」」」」
父親の失脚を望む息子が居るというのに驚くレイシェス達。
確かに、失脚を望まれる様な事をして来た父親なのだろうが、王太子の立場であれば転がり込む地位に居る筈だ。決して若い年齢ではないムラガの死を待つぐらい何だというのか。
「王太子………聞きたいのだが、何故それを俺達に話す?確かに俺達はムラガを倒したい。利害一致はしているようだが、自国の王を失脚して自身も危険な事だと思わないのか?それに父親であるのだろう?」
「あんな男を父親だと思った事も無い。俺が王太子であるのは、元々この地の先住民族の末裔だからだ………ムラガは自分の事を正当化し、末裔だった母を奪ったあげく、俺を産ませた。その母は未だムラガの側室で居るが、もう相手にもされないただの飾り…………側室が33人、子供は56人。王太子の代わり等幾らでも居て、俺はいつも死に直面している」
「第7王子と聞いたけど………」
「……………第1から第6はもうこの世に居ない。理由は様々だが、ムラガの怒りから来るものばかり………たまたま俺が出来が良いから生かされているだけで、弟妹も見なくなった奴も居る」
「「「「「…………」」」」」
ルビリア公国では考えられない暴君のムラガに絶句する。
「民衆はムラガの恐怖政治が分かってはいない。ルビリア公国の公妃を魔女に仕立て上げ、大義名分を果たした、とムラガは言うが戦にも出なかったしな…………あの男は、国境の街で女を食い荒らし、公妃を連れて来い、と命令しただけ………それを他に洩らそうものなら首が飛ぶ」
「な、何て事………」
「蛮族王という例えは間違っちゃいない………頭はキレるが、政治には疎い男だ。近隣国で戦をし領土を広げるだけ広げ、政は全て俺や他の臣下達…………早くくたばれと思っている臣下は多い」
「内乱を起こそうとは思わなかったのか!」
「……………何度も計画は立てていた……だが、所詮烏合の衆………一致団結等しなかったし、その前にムラガの手で………」
悔しそうに顰めた顔のリンデンに、誰もリンデンに対しては怒りや恨みをぶつける者は居なかった。
嘘かもしれない。そう思う一方で、ロイズもまた悔しそうに顰めた顔で、リンデンの言葉を噛み締めていて、レイシェスは何も言葉を出せないでいた。
「人質と言ったが………人質というのは、王太子の母親なのか?」
「……………そうだ……ロイズは姉を人質に取られている……反発しない様にな」
「幸せではない、と言う事か?」
「……………レイシェスの母上の末路を見ただろう………女への扱い等、人の扱いではない………協力してくれるのなら、城に潜入させてやる………其方達も見てみるがいい」
「協力って何をさせる気なんだ?」
「……………それは………」
リンデンは言い辛いのか、レイシェスの顔を見て、口を閉ざしてしまった。
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