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婚約騒動

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 更衣室に駆け込み、手術予定が無かった為、ジャケットから白衣に着替え、外科医局に急いだ玲良。ミーティングが始まる直前で、ホッと胸を撫で下ろした所だった。

「あぁ、纐纈先生……復帰ですね」
「す、すいませんギリギリに出勤で……」
「まぁ、そうなるだろうな、とは思ってましたから……」

 後藤から、含み笑いで声を掛けられ、注目を集めた玲良。

「ところで、纐纈先生………ご報告があるかと思うのだが?」
「………ほ、報告……ですか?………私から………あったかな……」

 思わず、口に左手を添えて考えていると、看護師が騒ぐ。

「纐纈先生!!それって婚約指輪!!」
「「「「え!!」」」」
「…………あ……」

 後藤を見ると、だよ、という圧が掛かる。

「婚約した、とは纐纈先生の彼から聞いたんだが、君からは無いのかな?」
「あ、あの………す、すいませんでした……えっと……この度……産婦人科医の富樫と婚約を………」
「「「「「「え!!」」」」」」

 え~~~!!

 と、外科医局中大声が木霊する。何事かと病院内を散策する患者や、往診担当の医師や看護師が覗いていく。

「おめでとう、纐纈先生」
「あ、ありがとうございます………」
「纐纈先生!話聞かせて下さい!!富樫先生とどういうきっかけで付き合ったんですか!?」
「いつの間に?」
「こらこら!!ミーティング中ですよ!!」

 年配既婚看護師から怒られる未婚看護師達。ミーティングが終わっても、暇さえあれば玲良に看護師達は情報収集だ。

「ご、ごめんなさい………今日診察室だから……」

 逃げてきたものの、診察室担当の看護師達からも質問攻めになっている。

「私、富樫先生狙ってたんですよ~!」
「私も~!!」
「患者様入るから、静かにね」

 総合病院でもある病院は、診察患者は多い。受付時間を過ぎた所で、受付時間内に来られた患者は受けなければならない為、全部の患者の診察が終わるのは、12時は有に超える。

「………ふぅ……今の方で終了ですかね?」
「はい………お疲れ様でした」
「山科先生の穴が空いて外科の診察は大変でしたけど、纐纈先生が復帰されて、少し楽になりました~」
「纐纈先生、すいませんでした……ストーカー扱いしてしまって」
「山科先生がストーカーだったんですねぇ」
「…………もう、済んだ事ですから……病院内は何ら変わらない。患者様には関係ないので、山科先生の話は止めましょ?」
「でも、裁判がある、て聞きましたよ?」
「…………それは、私個人の話だから……証言で後藤教授にお願いする事にはなるぐらいですね………さ、片付けて昼食休憩して下さいね」
「「「はい」」」

 診察室から出て、玲良も遅めの昼食を取りに行く。その行く通りには、産婦人科の診察室がある。

「…………穂高の名は無い、か……病棟かな?」
「あ、玲ちゃん」
「………遠山先生、お疲れ様です」
「今から昼?」
「はい、先生は済まされました?」
「俺も今から………一緒に行って構わない?」
「はい」

 食堂に入ると、食券をIDで買い、遠山と空いた席に座る玲良。

「大変だったねぇ」
「………まぁ……気を付けてましたけど、駄目でした……」
「富樫も落ち込んでたからなぁ」
「…………でしょうね……」

 味噌汁の椀を取り、啜る玲良。その椀を持つ左手に、遠山は箸を刺す。

「富樫に押し切られた?」
「………え?」
「………指輪」
「……………はは……ははは……まぁ……でも、私が穂高が居ないと駄目だから……結婚願望が無かった筈なんですけど、一緒に居るにはそれもかな……て……」
「アイツ、いい男だからなぁ………顔は俺も負けてないのに、男気あるからねぇ……同性でも異性からも好かれる」
「…………遠山先生にはあげませんよ?」
「………ブッ!………言うねぇ、玲ちゃん」

 食事をしていると、この隙にとばかり、独身医師や独身看護師が玲良に詰め寄る。

「纐纈先生!婚約した、て本当ですか!!」
「相手、て何で富樫先生なんですか!!」
「今からでも遅くありません!纐纈先生!婚約破棄して、俺と付き合って下さい!」
「……………え~っと……ごちそうさまでした」

 玲良はササッと食べ終わり、逃げようとする。

「はいはい、玲ちゃんに集らない集らない…………集るなら、富樫に集る!!」
「遠山先生!!何で、纐纈先生を『玲ちゃん』なんて呼ぶんですか!!ファンクラブ会員は『玲良様』なんですから!」
「俺はいいんだよ!!ファンクラブ会長だからな!」
「……………は?」
「………あ…………富樫には内緒ね」

 患者達が玲良のファンクラブを作っているのは知っているが、その先導者は遠山だったらしい事を知る玲良。密かに、男性医師や看護師達も入っている、とは噂では聞いていた。
 玲良は呆れて何も言えず、苦笑いで早々と食事を終わらせるのだった。
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