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過去:野田優臣

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 この墓に、何度花を供えただろう。そして、何度その花を捨てられただろう。この墓の前で、何度手を合わせただろう。何度話しかけただろう。何度謝っただろう。
 何度……泣いただろうか。

 お前のことだ。どうせ数えてるんだろう、優臣まさおみ……。それくらい、俺はお前を忘れられない。

 ごめんな、全然ダメだ……俺。


* * * * *


「ねぇ~、僕ぅ? お兄さん達にちょっとお金貸してくんねぇ?」

 原付をいつもの駐輪場に預け、俺は着ていたウインドブレーカーをメットインに入れ込んだ。
 学校はバイク通学が禁止。つうか、バイク免許の取得を許可してないだろう。でも18歳になれば車の免許は取ってもいいらしい。その線引きがよく分からない。
 でもとりあえず、学校が許可していないから、バイクを学校から少し離れた駐輪場に預けるようにしている。
 いつもは別の愛車バイクを乗り回しているが登下校に関しては従兄弟の兄貴から貰ったこの原付を使うようにしている。万が一学校に知られても、原付ならちょっとは多めに見てくれるだろう。……甘い考えだろうけど。

「ちょっとだけでいいんだよ~。人助け、してくれるよねぇ~?」

 指定の通学鞄の中から伊達メガネと黒髪のウィッグを取り出す。
 薄暗い古ぼけた駐輪場。受付が一応あるけど、ここに管理人が座っていることはほぼない。不用心なもんだ。その脇に何故か親切にも壁掛け鏡があり、俺は毎日そこで黒髪のウィッグを被る。眼鏡も装着して、無駄にネクタイを締めてみる。
 これは、『変装』だ。俺が、柄沢結翔だとバレないための。
 学校に到着すればウィッグも眼鏡もネクタイも外す。生活指導の先生に追い駆け回されるけど、それももう日常と化している。

「ほ~ら、財布出して。ちょっとだけでいいんだからさ~」

 さっきから、駐輪場の裏で誰かがカツアゲされている。無視しているんだけど、駐輪場の窓が開いているから、丸聞こえだ。耳障りにもほどがある。
 まぁ、俺の知ったことではない。

 ウィッグを馴染ませ、俺は鏡に映る自分が『柄沢結翔』に見えないかどうかを再度確認し、「うん」と一人頷いた。
 よし、学校へ行こう。

 この駐輪場から学校までは徒歩でおよそ十五分。そこそこ遠い。バイクで来ている意味がないくらいには遠い。だけど、自宅から自転車で来るよりは早く到着する。

「嫌です。死んでも財布は出しません」

 駐輪場を出ようとした時、はっきりとした声がそう言った。

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