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朝。

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プルルルルッ・・・・プルルルルッ・・・・





かえで「んぁ・・・?」




耳慣れない音に目が覚めた私は、自分の状況を一瞬で思い出した。



かえで「はっ・・!電話・・!」



がばっと布団から起き上がり、ふらつきながら壁にかかっている内線電話を取った。




がちゃっ・・・!




かえで「はっ・・はいっ・・!」

慶「?・・・神楽だけど・・もしかして・・起こした?」

かえで「神楽さんっ・・・起きてました・・よ・・?」

慶「ははっ。すぐに朝食持って行くから。・・・あ、服、気に入るのあった?」

かえで「あ・・・いえ・・・。」

慶「?・・・他の用意させようか?」

かえで「!?いっ・・いえっ・・大丈夫ですっ・・・!」

慶「そう?じゃああとで。」ピッ・・・





切られた受話器を置いて、私は布団を上げた。

箸に寄せ、使ったカバーは外して別で置く。

顔を洗いに行き、身なりを整える。




かえで「・・・昨日、私帰らなかったけど・・・翔太はどうしたんだろ・・。」



鏡を見ながら手櫛で髪の毛をといていく。



かえで「きっと家にいるよね・・・やっぱ帰るしかないのかな・・。」




『アパートを出た』と言っていた翔太。

帰るところがないから・・・きっと私のアパートにいる。

出て行ってもらいたいけど・・・一筋縄ではいかなさそうだ。




かえで「なら私が出て行く?でも一回帰らないとアパートの契約書とか通帳もあるし・・・。」




ぶつぶつ言いながら髪の毛をといていると、呼び鈴がなった。




ピンポーン・・・ガラガラガラ・・・





慶「水瀬さんー?入って大丈夫ー?」



神楽さんの声が聞こえる。



かえで「はいっ・・・。」




私は急いで部屋に戻った。






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かえで「すごい・・・。」




神楽さんが持ってきてくれた朝食。

いつの間にか机が出されていて、所狭しとお皿が並んでいた。

サンドイッチ、フルーツ、パン、スープにサラダ・・・

あまりにも豪勢な朝食に、私の口が開いたまま塞がらなかった。




慶「アレルギーとかはない?嫌いなものは?」

かえで「ないですけど・・・。」

慶「よかった。好きなの食べて?」



泊まらせてもらった上にこんなたくさん用意されて、申し訳なくなる。

でも、これは服と違って食べ物だ。

食べないと・・・廃棄されてしまう。




かえで「・・・いただきます。」



座ってサンドイッチを一つ手に取った。

一口食べると、美味しさが口の中に広がる。



かえで「おいしいっ。」

慶「よかった。・・・ところで、服は気に入らなかった?」




隅に寄せて置いた服たちを見始めた神楽さん。


かえで「・・・どれも高級ブランドで・・・着れません。すみません。」

慶「似合うと思うよ?」

かえで「いやっ・・似合う似合わないの問題じゃなくて・・・。」

慶「これなんかいいと思うけど?」



取り出したのは緑のフレアな感じのスカートに、黒のハートネックニット。

私の好きなコーデだ。




慶「これ、着ておいで?」

かえで「!?・・・いやっ・・ちょっと・・・。」

慶「ほら早くー。」




服を渡され、私は隣の部屋に追いやられた。




かえで(着替えたほうが・・・いいんだよね・・・?)



こんな高級な服を身に纏うとか、正直どきどきする。

いつも安い服しか買わないし・・・



かえで(今、着てるのも全身で5000円くらい・・・それに比べてこれは・・・。)



ざっと見るだけで20万はいってそうだ。




かえで(わーっ!ちゃんとクリーニングして返しますぅっ!)




私は服を汚さないように・・・傷つけないようにしながらそーっと着替えた。






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かえで「あの・・・。」

慶「着替えた?」




ふすまを開けた私は、着た服を神楽さんに見せた。

腰元を手で押さえながら。




慶「?・・・どうかした?」

かえで「や・・・あの・・・」

慶「うん?」

かえで「・・・ぶかぶかで・・・止まらないんです・・。」



着た服はサイズが大きく、腰でぎりぎり止まってる状態だった。

もし落ちたら恥ずかしいから手で押さえてたのだ。




慶「おっと・・・ちょっとそのまま待ってて?」

かえで「?・・・はい。」




神楽さんはケータイを取り出してどこかに電話をかけ始めた。



慶「あ、俺だけど、ちょっと離れに来てくれ。サイズが大きかったらしいんだ。頼む。」ピッ・・・

かえで「?」




電話を切って数十秒すると、部屋の中に女の人が数人入ってきた。




「失礼します。」

「失礼します。」

「失礼します。」


かえで「え?」

慶「10分くらいで頼む。」

「承知しました。」

かえで「え?え?・・・わっ・・」





部屋に入ってきた女の人に手を引かれ、私は着替えをした部屋に戻った。

ふすまを閉められ、服をめくりあげられる。




「失礼します。」

かえで「え!?」

「ウエスト、お詰めしますねー。」




針と糸を持ってる。

きゅっきゅっと余ってる生地を摘まみ上げ、縫っていき始めた。




かえで「すごい・・・。」



あまりにも早いスピードで手縫いされていくのを、ただぼーっと見ることしかできなかった。




「できました。どうでしょうか。」




めくりあげられていた服が下ろされ、姿鏡が登場してきた。

縫い詰めたとは思えないほどの出来栄えだ。



かえで「だ・・大丈夫です・・・。」

「こちらへどうぞ。・・・失礼いたします。」



ふすまを開けられ、私は神楽さんのいる部屋に通された。



慶「うん。かわいいよ?」

かえで「~~~っ。」




ニコニコ笑いながらさらっと言った神楽さん。

『かわいい』なんて言葉、言われて喜ばない女性はいないけど、私は大変なことに気がついた。





かえで「この服っ・・縫っちゃったら返せないじゃないですか・・・!」




今日着たらクリーニングして返すつもりだったこの服。

がっつり縫ってしまってる・・・。




慶「あぁ、プレゼントするよ。」

かえで「え!?」

慶「ここの服とか全部水瀬さんにプレゼントしたかったんだけど・・・サイズが合わないな。」

かえで「!?・・・受け取れません・・!」




泊めてもらって、ご飯までもらって・・・こんな高級な服を受け取れるわけがない。

そもそも贈られる理由もない。




慶「そう?俺は受け取って欲しいけど・・・サイズも合わないことだし諦めるよ。」





そう言って神楽さんは自分の腕時計を確認した。





慶「そろそろ出ようか。」

かえで「はい・・・。」

慶「朝食・・・詰めようか?食べながら行く?」

かえで「いっ・・いえっ・・・大丈夫ですっ・・・。」





神楽さんの後ろをついて行き、玄関に行く。

玄関に着いたときに私は履くものが何もないことを思い出した。




かえで「あっ・・・。」

慶「うん?どうかした?」

かえで「靴・・・なかった・・・。」




そう言うと、神楽さんは玄関を指差した。




慶「サイズが分からないから・・・結構な数になったんだけど・・・。」

かえで「え?」




床を見ると同じデザインの靴が5足ずつ並んでる。

シューズ、パンプス、ブーツ・・・

どれもまた有名なところの靴だ。




かえで「!?」

慶「サイズは?」

かえで「に・・22・・。」

慶「22か。ちっさいな・・・。どれがいい?ブーツもいいけど・・・。」

かえで「しゅ・・シューズがいいですっ・・。」

慶「わかった。座って?」





玄関脇にあった椅子を指差され、私は腰かけた。

神楽さんは各靴の中に入れられていたソックスを取り出して、私の足に履かせていく。




かえで「あのっ・・自分でっ・・・」

慶「もう終わるよ?」



シューズも履かせてくれ、手を差し出した神楽さん。

あまりにも自然で・・・私は思わず手を取ってしまった。




慶「こちらにどうぞ?」

かえで「す・・すみません・・・。」




玄関戸をくぐり、外に出ると・・・驚きの光景が広がっていた。

どこかの緑地公園かと思うほどの緑。

花も・・・所狭しと植えられ、咲き誇ってる。

小さめな池もあって・・・

ゆったりした幅の石畳の道がずーっと向こうまで続いてるのが見えた。




かえで「すごい・・・。」




立ちすくんで見ほけていると、私の隣で神楽さんが笑いだした。




慶「・・・ははっ。」

かえで「?」

慶「昨日から『すごい』ばっかり言ってる。・・・ははっ。」

かえで「だって・・・ほんとにすごいですもん。神楽さんって何者なんですか?」




そう聞くと、神楽さんは笑いながら歩き始めた。

その後ろをついて、石畳の上を歩いていく。




慶「・・・今度教えてあげる。それよりほら、急がないと。」

かえで「は・・はいっ。」




石畳を歩き続けていくと、大きな門が見えてきた。

木で出来た・・・立派な門だ。

閉じられていて外は見えない。



かえで(そういえば・・・)



あたりをキョロキョロと見回す。

敷地自体が高い塀に囲われてる。

見えるのは・・・空くらいだった。



かえで(ここ・・・どこなんだろう。)




辺りを見回しながらついた門。

近くにいた人が開け始める。




ギギー・・・




木の軋む音が大きく聞こえる。

開けてもらった門をくぐると、目の前に現れたのは一本道。

それも下り坂だ。

両サイドやその回りは背の高い木がたくさんあった。

その状況から考えて、ここは・・・



かえで「山の・・・上?」

慶「そ。よくわかったね。」

かえで「実家がこんな感じだったんで・・・。」

慶「へぇー・・・どうぞ?」



門を出たところにある車のドアを開けた彼。

手招きされ、私は車にお邪魔した。







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