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かくれんぼの意味。

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それから数日後、私は仕事に復帰することになった。

お医者さんにお腹を診てもらい、『もう大丈夫』と許可をもらったから。



春斗「今日は?復帰直後だし・・・早上がりか?」



朝、私を職場まで送ってくれてる春斗さんが運転しながら聞いてきた。



かえで「そんなわけないじゃんっ。ちゃんと17時までですー。」

春斗「おっけ。終わったら連絡しろ?またあいつが来たら困るし。」

かえで「・・・うん。」




何の為に私のところに来たのかわからないけど、もう来ないとも言い切れない。

少し不安になりながらも、車は仕事場に到着した。



春斗「無理すんなよ?」

かえで「へへ。行ってきまーす。」

春斗「おぅ。行ってらっしゃい。」



車から降りて、お店の裏口から入る。

いつも通り着替えを済ませてフロアに行くと、店長が心配そうな顔を顔をしながら私を抱きしめてくれた。



かえで「?」

店長「もうっ・・心配したんだから・・・。」




店長には・・・慶さんも事情を話してくれたみたいで全部伝えてある。





かえで「・・・すみません。仕事もご迷惑かけて・・。」

店長「いいのよ!さ、仕事しましょ!」



いつも通りの仕事、接客、発注・・・


しばらく休んでたから体はなまってたけど、それでも着々と仕事をこなしていった。


ピークの時間が過ぎて・・・暇な時間になり・・またピークの時間を迎え・・・私は仕事をあがる時間になった。




かえで「店長、私、仕事あがる前にこのゴミ捨ててきますねー?」

店長「あ、お願いー。」

かえで「はーい。」




置いてあるゴミを持ち、私は裏口から外に出た。

少し歩いたところにある大きなごみ箱。

コーヒー屋の近くにある会社も同じゴミ箱を使ってて、まとめて捨てることになってる。

燃えないゴミ。

紙ばっかりのゴミ。

リサイクルのゴミ。


いろいろ分けて捨てることになってるけど、うちは『生ごみ』。


ちゃんと『生ごみ』表記のある巨大なゴミ箱にゴミを入れた。



かえで「よいしょっと・・・ふー・・。」




歩いてきた道を手ぶらで歩きながら戻る。

コーヒー屋に通じてる道を曲がろうとしたとき・・・私は翔太の姿を見つけた。



かえで(・・・翔太!?)



私は咄嗟に足を戻し、角に隠れた。



そーっと翔太を覗く。



翔太「ゴミ捨てに行ったって言ってたな・・・どこいった・・・!?」

かえで(私を探してる・・・!)




通路に置いてあるものを蹴飛ばしながら、翔太は私がいるほうに歩いてくる。

ここにいると・・・見つかってしまう・・!


かえで(か・・隠れないと・・・!)



私は辺りを見回した。

バケツ・・ホウキ・・・段ボール・・・いろんなものが通路に置かれてる。

でも・・・どれも『隠れれる』ものじゃない。



かえで(どこかないの!?)



見回してるうちに見つけたのは『ゴミ箱』。

巨大だから・・・大人が入るくらいなんともない。



かえで(!!・・・不燃物は・・重いでしょ?生ごみは危ないし・・・あっ・・紙ゴミなら・・・!)



私はゴミ箱に駆け寄り、紙ごみの蓋を開けた。

中はシュレッダーにかけられた紙たちがビニール袋にまとめられて捨てられていた。



かえで(いける・・・!)



ゴミ箱によじ登り、中に入る。

袋をかき分けて下に沈むように入った。

身体の上に袋を重ねて見えないようにする。



かえで(これなら見つからない・・・?)



どきどきしながら翔太がいなくなるのを待った。






ーーーーーーーーーーーーーーー






春斗「お嬢!・・・お嬢っ!?」

かえで(・・・春斗さん?)




どれくらいの時間が過ぎたのかわからなかったけど、私を呼ぶ声が聞こえた。

翔太じゃないことは確かだったから・・・私はゴミ箱から立ち上がった。





がさっ・・・!





春斗「!!・・・・お嬢っ!」

かえで「春斗さんー・・・。」




ゴミ箱から出てきた私に駆け寄る春斗さん。

両手で私を抱えて、ゴミ箱から出してくれた。




春斗「何があった!?」




服についたゴミを手で払いながら、私は翔太と会ったことを伝えようとした。



かえで「さっき翔太が・・・・・んむ!?」

春斗「!?」





急に塞がれた私の口。

体もぐっと掴まれ、動けない。

春斗さんが驚いた顔を一瞬したけど、すぐに怒った顔に変わった。

その目線の先を見ようと、私は顔を上に向けた。



かえで(・・・翔太!)




私の口を塞いだのは翔太だった。

とっくに探すのを諦めたと思ってたのに、私が出て来るのを待ってたようだ。




翔太「来い、かえで。・・・お前は動くなよ?かえでを殺すぞ?」

かえで「!!」

春斗「!!」



『殺す』と言われて春斗さんも動けないでいた。

私は塞がれてた口が解放され、代わりに両腕を背中側で固定された。



かえで(これって・・・。)



この組まされ方は記憶にあった。

慶さんが・・・毎日私にしてきたことだったから。



かえで(まさか・・・慶さん、この為に私にしてたの・・?)



その真意を確かめるためにも、私はこの状況を脱出しないといけない。



かえで(翔太は『痛い』って言ったくらいじゃ離さないよね・・・。)



慶さんは、私にケガをさせたくないから『痛い』って言ったら放してくれるのはわかってた。

でも翔太には通じない。


なにかいい言葉がないか考える。




翔太「さっさと歩け!」

かえで「!!・・・ねぇ・・翔太・・?」

翔太「あぁ!?なんだよ!」

かえで「私、さっきお給料もらったの。28万。ポケットに入ってるんだけど・・。」

翔太「え?」




お金に気が取られた翔太。

組まされてた手が少し緩んだ隙に、私は翔太から抜け出した。




翔太「あっ・・!!」

春斗「!!」




春斗さんは、この隙を待ってたのか、私の手をぐぃっと引いて、背中に私を隠してくれた。




翔太「くそっ・・!!」



私が逃げたことで翔太は諦めたのか、そのまま逃げるように走り出した。

春斗さんは追いかけずに・・・クルっと体を私に向けた。

両肩をがしっと掴まれる。



春斗「ケガないか!?」

かえで「う・・うん・・・。」

春斗「ほんとか!?」

かえで「うん、大丈夫だよ?」



『大丈夫』と言ってるのに、春斗さんは私の腕や足を隈なくチェックした。



春斗「帰ったら若に診てもらえ。必要なら医者も・・・。」

かえで「大丈夫だってば。それより・・・私がここにいるってなんでわかったの?」




まだ仕事中だった私。

帰る時間が迫ってたとはいえ、春斗さんが探しにきたことが不思議だった。




春斗「今、18時だぞ?終わるの17時だって言ってたじゃないか。」

かえで「・・・18時!?」

春斗「17時回っても連絡来ないから店に聞きに行ったんだよ。そしたら『ゴミ捨てに行ったまま帰らない』って言われて探しに来た。」

かえで「あ・・なるほど・・・。」





春斗さんは私の手を握って歩き始めた。




春斗「店に戻るんだろ?裏口で待ってる。」

かえで「うん。ありがと。」




回りを警戒しながら歩く春斗さん。

私はそれを見ながら裏口まで連れて行ってもらい、お店の中に入った。




春斗「ここで待ってる。」

かえで「うん。」




店に入った私は、店長の元へ行き、さっきのことを話した。

店長は私の身を案じて当面の休みを提案してくれた。

でもそれは申し訳なくて・・・




かえで「勝手で申し訳ないんですけど、今日で辞めたいと思います。お店に迷惑がかかる日も来ると思うので・・・。」

店長「・・・じゃあ・・・戻ってきたくなったらいつでも戻ってきていいから。それまで今のメンバーでお店しとくし・・。」

かえで「それは・・・うれしいお話ですけど・・・」

店長「水瀬さんのせいじゃないしね・・・。ほんとに戻ってきていいからね?」

かえで「・・・ありがとうございます。お世話になりました。」






私は荷物を持って裏口から出た。

出たところで春斗さんが待ってくれていた。




春斗「終わったか?」

かえで「・・うん。辞めてきた。」




私の言葉に春斗さんは目を大きくして驚いた。



春斗「は!?辞めたって・・・え!?」

かえで「迷惑かけれないしね。・・・また新しい仕事場探すよ。」

春斗「・・・まぁ、お嬢が決めたんなら・・それが『最善』なんだろ。・・・ほら、帰るぞ。」

かえで「・・・うん。」





春斗さんは私の手を引き歩き始めた。

もう『来ない』って決めたコーヒー屋さんを眺めながら・・・私は家に帰った。



























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