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運・偶然。

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ーーーーー



万桜がくるみボタンを作った翌日の昼、城の中庭にあるベンチに座っていた男がいた。

トイレに行きたかった万桜に気がついた男だ。


「カーマイン!お前、こんなとこで何してんだよ。」


その男に声をかけたのは同じ制服を着た『トープ』という男だった。


「トープ。」

「カーマイン、お前、聖女の護衛に立候補しなかっただろ?なんでだ?」


実は朝、カーマインたち護衛騎士は聖女の護衛選抜に出席していた。

基本立候補制だったのだけど、カーマインは手を挙げなかったのだ。


「なんでって・・・・」


カーマインはため息を漏らしながらじっと前を見ていた。


「はぁー・・・トープ、お前も見ただろ?あの我が儘っぷり。」

「見たけど・・・それが原因か?」

「まぁ・・・。聖女って干ばつの土地に立つだけで状態が改善されるって言われてるけどさ、本人があんな我が儘で大丈夫なのかと不安に思ってさ。」


カーマインが見たのはキララがドレスを選んでるところだった。

『選抜』だというのに騎士たちに目もくれず、鏡とにらめっこしてるキララの姿。

『この色は嫌だ。』『丈が好みじゃない。』『もっと自分に似合うドレスは無いのか。』と仕立て屋を困らせてるところで選抜が行われていて、辞退という形を取って部屋から出てきたのだった。


「噂によるとだいぶ宝石もねだってるらしいけど?」


トープがそう言うと、カーマインはさらに深いため息を漏らした。


「はぁー・・・。で?結局誰があの聖女の下に就くって?」

「えーと、『コルク』『アンバー』『レグホーン』って言ってたかな。」

「!!・・・全員王子のとりまきじゃねーか。」

「まぁ、それだけ王子は聖女に賭けてるんじゃないか?正式には『第二王子』だからな。」


この国、『ケルス王国』は第二王子が実権を握ろうと画策していた。

継承権第一位の第一王子は病弱で、公の場に姿を現さないことが殆どだったからだ。

第二王子に王権を握らせようと、とりまきたちは聖女の護衛に立候補したようだった。


「どうなるんだか。」


そう呟いたとき、大きなシーツを持った侍女がカーマインの近くを通った。

腰元にある大きなボタンが他の侍女とは違ってるのがカーマインの目に留まった。


「・・・そこの侍女、ちょっと待て。」

「?」


呼ばれた侍女は足を止めた。

カーメインはベンチから立ち上がり、その腰元のボタンに注目してる。


「これ、どうした?他の者と違うよな?」

「え?・・・あ、マオがくれたんです。昨日外れかけてたボタンをあげたらこれを作ってくれて・・・さっきつけてもらったんです。」

「『マオ』?」

「はい。えーと・・・物置部屋にいる女の子・・・」


その説明を受けたカーマインは、あの『鍵をかけてくれ』と言った巻き込まれ召喚者だと気がついた。


「・・・わかった。引き止めて悪かったな、仕事に戻ってくれ。」

「?・・・はーい。」


シーツを持った侍女は他の侍女たちと合流し、手に持っていたシーツを干し始めた。

その様子を見てると、トープが侍女たちを見ながら口を開いた。


「あの処分待ちの巻き込まれ召喚者?お前、知ってるのか?」

「あぁ。」


カーマインは先日、マオが閉じ込められてる物置部屋であった出来事をトープに話した。

名前を聞いたりはしなかったけど、言われたことを従順に守っていたことが印象的だったことを。


「へぇー。でもお前の『力』で聞けば何を考えてるのか分かったんじゃないか?逃げようとしてるのかもしれないし?」

「・・・。」


トープがそんな話をしたとき、さっきの侍女がシーツを広げてるのが目に入った。

他の侍女たちはもう干し終わってるようで世間話をしてる。

一生懸命腕を伸ばしてシーツを干そうとしてるとき、近くにいた庭師の姿がカーマインの目に入った。

柄杓で水を巻きながら歩いてきてるけど、地面を見ながら撒いてるからか、庭師の視界には侍女たちが映ってないようだ。


「あ・・!」


庭師は柄杓に水を入れた後、バシャっ・・・!と、振りまいた。

その振りまいた先は侍女たちがシーツを干した場所で、もう干し終わってる侍女たちは水をかぶることに・・・。


「きゃぁっ・・・!?」

「わぁっ・・!?」


その場にいた全員が水をかぶることになってしまったのだけど、ただ一人、シーツを干そうと広げていた侍女だけはシーツが犠牲になって濡れることがなかったのだ。


「え?え?・・なんでみんな濡れてるの?」


水をかけた庭師は侍女たちに謝り倒していく。

そんな様子をトープと一緒に見ていた。


「へぇー、あの侍女、運がよかったなぁ。」

「そうだな。」


『運がよかった侍女』とこの時は思っていたけど、この後もこの侍女は運がいいと思うことが続いていった。

料理人に頼まれた買い物をしに行ったこの侍女は、誰が買い物に行っても売り切れになってる食材を買って来れたり、支給されたスープの最後の一杯をもらったときに沈殿していた具を全部入れてもらったりと些細な幸運がずっとまとわりついていたのだ。

その様子を側で見ていた侍女たちが羨ましがってるのをカーマインは見ていた。


「偶然って続くんだな。」


そんなことを思っていた。

そして聖女が召喚されてから二週間の時間が流れたある日、事態は動くことになる。




ーーーーー



「キララ、この干ばつ状態を改善してくれ。」


第二王子である『ビリジアン』がキララを連れて城の近くにあった干ばつ場所に行ったのだ。

そこでキララがじっと見つめてると、カラカラに乾燥していた土が少し湿り気を帯び始めた。

ビリジアンが手で触って確認すると、確かに状態がほんの少し良くなってるように見えたのだ。


「たったこれだけの時間で改善されるのか・・・。すごいなキララは。」

「えへ。」


この改善で自分が聖女だということに自信がついたキララはビリジアンに猫なで声で迫った。


「ねぇー、王子さま?私、イケメンが欲しいなぁ?」

「『いけめん』?」

「王子さまみたいに見目がいい男の人、部屋に欲しいなぁ・・・?」


その言葉を聞いて、キララが何を欲してるのかを察したビリジアンは、キララの顎をすくった。


「私がいれば十分だろう?キララの望みは全て叶えてやるから、しっかり聖女としての務めをしておくれよ?」

「ふふっ・・・はぁい。」

「キララみたいなきれいな女性が聖女でよかったよ。」


聖女の力を使えば王権は握りやすくなる。

民の意見を聞き、この干ばつをどうにかできたらビリジアンを王に押す意見が強くなるのだ。


(そうなれば兄なんて誰も見向きしないぞ。)


そう考えたビリジアンだったけど、ふと巻き込まれ召喚者のことが頭をよぎった。

どう処分するか神官たちが意見を仰いできていたことを忘れていたのだ。


(・・・適当に金を渡して追い出すか。)


ずっと城で囲うわけにもいかず、前の世界に帰すこともできない。

そうなると適当に生きてもらうのが一番城にとって害がないと考えたのだ。


(よし。)


ビリジアンは城に戻ったあと、キララを自分の部屋に行かせた。

侍女たちに革袋を用意させ、その中に金貨を詰めていく。


「これを物置部屋にいる女に渡せ。そして城から追い出せ。いいな?」


そう伝えて自分の部屋に戻っていった。

部屋のベッドには服を脱いで下着姿になったキララが腰かけてる。


「はは。キララは見た目に加えてプロポーションもいいのか。」


たわわに実った胸に、きゅっと締まった腰。

艶めかしい雰囲気に、王子のモノは大きくなっていく。


「ふふ。いっぱい楽しみましょ?王子さま?」

「そうだな。」


ベッドに腰かけてるキララに口づけを落とし、二人はベッドを激しく揺らしていったのだった。








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