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解放。
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ーーーーー
キララとビリジアンがベッドを揺らしてる頃、侍女の一人から革袋を受け取った万桜は言われた言葉に理解が追い付いてなかった。
殺されると思っていたのに『この金で勝手に暮らせ』と言われたのだ。
「え?え?」
「外までお送りいたします。」
私は急に物置部屋から出された。
手渡された革袋と私を待ってる侍女を交互に見るけど、どうみても私が動くことを待ってる侍女さんに申し訳なく感じてしまい、部屋を出ることにした。
(お世話になりました。)
私は部屋を出るときに一礼をした。
二週間とはいえ、私が寝泊まりをした場所だからお礼を言いたかったのだ。
「ついてきてください。」
私は侍女さんの誘導でお城の外まで案内されていく。
(あの男の人にもお礼を言いたかったけど・・・無理かな。)
定期的に人がくるように手配してくれた男の人。
感謝を伝えたかったけど急に言われた解放で、伝えることができそうになかった。
(あの人のおかげでトイレは不自由しなかった。ほんと助かりました。ありがとう。)
仕方なく心の中でお礼を言ったとき、私はお城の大きい扉をくぐった。
それと同時に侍女さんの足が止まる。
「私はここまでになります。この先、真っ直ぐ歩くと街に着きます。それでは。」
淡々と仕事をこなす侍女さんだ。
私は彼女に向き直り、頭を下げた。
「お世話になりました。お元気で。」
そう笑顔を向け、私は街に向かって歩き出したのだった。
ーーーーー
ーーーーー
「ふぁ・・・街って賑やか・・・。」
お城を出た私はシンプルな石畳を歩いて行き、街に足を踏み入れていた。
露店やお店が立ち並び、たくさんの人が行き来してるのが見える。
「これ・・どこに行ったらいいんだろう・・・。」
どこに向かって足を踏み出せばいいのかわからなかった私は立ちすくんでいた。
その様子を見ていたのか、いろんなお店から客引きの言葉を投げかけられる。
「そこのお嬢さんっ!飲み物はどうだい!?」
「いやいや!飲み物より髪飾りはどうだい!?」
「腹が減ったら何も考えられないぞ!メシはどうだい!?」
いい笑顔で話しかけてきてくれるお店の人に釣られて、私は髪飾りのお店に足を運んだ。
お年を召した女性の店主さんが笑顔で出迎えてくれてる。
「いらっしゃい!」
「えっと・・・すみません、これ・・いくらですか?」
とりあえず近くにあった髪飾りを手に取り、値段を聞いた。
今、私が持ってるお金がどれくらい価値があるのかわからないから調べようと思ったのだ。
「それは200リルだね。こっちだったら120リルだよ?」
「200リル・・・。」
見た目、2000円くらいの物かと思ったことから、1リル=10円という単位なのかもしれない。
問題は私が持ってるこの金色のお金がいくらなのか・・・だ。
「すみません、これしかないんですけど・・・」
そう言って私は革袋から金色のお金を一枚取り出した。
「!?・・金貨!?」
「え、これ、金貨なんですか?」
確かに金色をしてるけど、金貨だと思わなかった私は普通に出してしまっていた。
「ちょ・・!奥においで・・っ!!」
私はお店の人に手を引かれ、奥に連れていかれた。
少し生活感があるような部屋に入れられ、お店の人が部屋の扉を閉める。
「あんたそんなお金、どっから持ってきたんだい!?」
「え?えーと・・・」
「事情があるのかい?まぁ、初めて見る顔だし・・どっかの国の王女さまとか・・・」
「王女!?」
「とにかく!!そんな大金持ってたらいいカモになっちまうよ!!これやるから持って行きな!!」
そう言ってお店の人は斜めがけの少し大きなカバンを私の首にかけた。
革でできたカバンで、古いのか少しくたびれてる。
「え!?いや、もらえませんよ!?」
かけられたカバンを外そうとすると、お店の人は私の手をぐっと押さえてきた。
「いいから!金貨の入った革袋を手で持ってたら危ないから!」
「!!」
そう言われて私は初めて危ないものを持ってるという自覚をした。
万札で厚みができた財布を裸で持ってるようなものなのだ。
「あ・・ありがとうございます・・。」
「変なのに絡まれるんじゃないよ?」
そう言ってくれた優しい店主さん。
私は教えて欲しいことがあってこの店主さんの手をぎゅっと握った。
「あの・・!少し教えてください!お金とか、この国のこと・・・!」
私の顔が切実だったのか、店主さんは少し笑いながら私の手を握り返してくれた。
「やっぱり他所の国から来たんだね?いいよ?なんでも聞いてごらん?」
「はいっ・・・!」
私はこの金貨が1枚でどれくらいの価値があるのかを教えてもらった。
この国での通貨の単位は『リル』で、銅貨、銀貨、金貨が存在してる。
貨幣は千単位で変わるようだ。
「つまり、千銅貨・・・千銅貨で1銀貨。千銀貨で1金貨ってことですか。」
「そうそう、計算が早いねぇ。」
単純に計算すると10円が1リルに値する。
つまり1金貨は10000000リルだから・・・
「・・・1000万!?」
私の手にある金貨が1000万の価値と知って、私はゾッとした。
前の世界の露店で、アタッシュケースごと出すようなものなのだ。
(待って・・この革袋には一体何枚あるの!?)
両手にこんもり乗るくらいの量だ。
恐らく100枚以上はある。
(じゅっ・・10億以上のお金がここに・・・・)
急に怖くなった私は血の気が引いていくような感覚に襲われた。
そんな私を見たのか、店主さんが私の手から金貨を一枚取ったのだ。
「これ、両替してやるよ。ちょっと待ってな?」
店の人はすぐ近くにあった棚に手を伸ばし、革袋を取り出した。
たくさんある銀貨と、銅貨を取り出して数えてる。
「いや・・・待ってください!千枚以上になるんですよね!?ちょっと持てない気が・・・」
1金貨で1000銀貨。1銀貨で1000銅貨。
単純に計算しても2000枚くらいに増えてしまうのだ。
「でも店で使えないだろう?露店で買う串焼きとか10リルくらいだよ?」
「まぁそうですけど・・・・両替する場所とかないんですか?」
前の世界でもあった両替システム。
きっとこの世界でもあると思った。
「あるけど・・・預かってはくれないよ?だから増えるだけだからここでしても変わらないけど・・・」
「あ・・そうですか・・・。」
結局増えることに困ってしまう私。
ふと思いついたことがあって、私はまた店主さんの手をぎゅっと握った。
「そうだ・・!今度買いに来るから前払いさせてもらっていいですか!?」
「はい?」
私はこの金貨・・・つまり1000銀貨の一部をこの店に預けるという提案をした。
次に買いに来た時、その預けたお金から支払いをするというシステムを説明する。
すると店主さんは理解してくれたのか、うんうんと頷き始めたのだ。
「うちは構わないけど・・・・」
「『お金として返してくれ』とは言いません。預けた分以上の商品を買うときは、オーバーした分お支払いします。どうでしょうか。」
「つまり・・・預かった金で何しようがこっちの勝手で、あんたが欲しい商品を渡せばいいって話・・・だね?」
「そうです!!」
簡単に言えば投資のようなことだ。
この店に害はない提案だ。
「私は必要なお金が手に入る。店主さんはお店の商品を新たに仕入れることができる。・・・どうですか?」
そう聞くと店主さんは私の手をぎゅっと握り返してくれた。
「よし乗った!!」
「ありがとうございます!!」
店主さんは近くの棚から分厚い紙のようなものを取り出し、鉛筆のような形をした炭を持って何かを書き始めた。
「えーと・・・1金貨だろう?とりあえず増えちまうけど銀貨と銅貨を渡して・・・あ、あんた名前は?」
「あ・・・万桜です。」
「マオね。ここに書いておくから。服も少しならあるから好きなの持って行きな。これはサービスだよ。」
「あ・・ありがとうございます・・・。」
計算してる店主さんを横目に見ながら、私は服があるところに行って二着ほど頂いた。
貰った大きめのカバンに詰めていく。
「それだけでいいのかい?」
「はい。ちょっと遠くに行きたいので荷物は少ないほうがいいと思って・・・。」
「遠く?どの辺り?」
「その辺はまだ決めてないんですけど・・・あまり人が多くなくて、治安が悪くなくて、食材を買えるところとか・・・どこかないですかね?」
言いながら無理難題かと思い始めた私。
でも仕事もないから一人の時間をゆっくり過ごすのがいいかと思ってそう言う場所が思いついたのだ。
「そうだねぇ・・・。隣の国との境目くらいにある町ならそんな感じだったかねぇ。」
「あるんですか!?」
店主さんはボロボロになった地図を取り出して私に見せてくれた。
「今がここ、ケルス王国城下町だ。ここからこう進んで山を越えて川を越えてまた山をいくつか超えたら・・・あ、この境目にあるケルセンって町だよ。昔、仕入れに行ったことがあるんだ。」
「へぇー・・・。」
「町の人たちはみんな優しかったし、マオのことも受け入れてくれると思うよ。宿もあるし。」
そう聞いて私はその町ケルセンに向かうことに決めた。
遠いなら今川先生と関わることもなさそうだし、お互いに干渉せずに生きていけそうだ。
なんなら国を跨いだって構わない。
「どうやって行くんですか?そのケルセンって町まで。」
「歩きか乗り合いの馬車だね。馬車なら銀貨の単位の方が使いやすいだろうから少し多めに入れておくよ。」
「ありがとうございます!」
「乗り換えないといけないから、『ケルセンの町まで行きたい』っていえば御者が教えてくれるよ。」
店主さんは他にも荷物として必要なものを教えてくれ、私はそれらを頭の中に叩き込んでいった。
崩してもらったお金を受け取り、計算してくれた紙をチェックして私は鞄をかけなおす。
「いろいろしてもらってありがとうございます。この街に戻ってきたときは必ず来ます。」
「あぁ。気をつけてな。マオに似合う髪飾り、いっぱい仕入れとくよ。」
「ふふっ。じゃあ・・・!」
私は手を振りながらお店を出た。
教えてもらったものを準備するため、露店を回っていく。
「えっと・・今日のご飯は軽く食べておいて、明日用にパンと水と果物を少し・・・」
乗り合い馬車は夜行バスみたいに休憩とかはあまりないそうだ。
だから食料や水は先に用意して乗り込み、都度都度自分で補給しないといけない。
「あんまり食べ過ぎたり飲みすぎたりしたらトイレ行きたくなるから、少しずつにしないと。」
そう思いながらも、不測の事態に備えて水は二つ買った。
竹のような水筒に入れられた水だったから衛生面も少し不安だけど、これがここの普通みたいだから仕方ない。
果物に関してはリンゴとオレンジを手に入れることができた。
これをカバンに入れて私は乗り合い馬車の所に向かうことにした。
「あの・・すみません。『ケルセン』に行きたいんですけど、どの馬車に乗ったらいいんですか?」
乗り合い馬車乗り場はたくさんの馬車があった。
まるで夜行バスの乗り場みたいだ。
「ケルセンかい?ならあの一番奥の馬車でアンヤーまで行きな。そこで次の馬車を聞いたらいい。」
「あ・・はい。ちなみにアンヤーまではどれくらい時間かかりますか?」
「そうだな、明日には着くんじゃないか?何もなければ。・・・金は御者に払ってくれよ?」
「わかりました。」
太陽の高さから、今の時間はお昼くらい。
明日のいつ着くのかわからないけど、夜は馬車で寝ることになりそうだ。
(席とか買わなくていいのかな?)
馬車の仕組みが分からない私は、とりあえず教えてもらった馬車に向かった。
そしてアンヤー行きの馬車を無事に見つけることができたけど、私の想像とは違った馬車がそこにあったのだ。
キララとビリジアンがベッドを揺らしてる頃、侍女の一人から革袋を受け取った万桜は言われた言葉に理解が追い付いてなかった。
殺されると思っていたのに『この金で勝手に暮らせ』と言われたのだ。
「え?え?」
「外までお送りいたします。」
私は急に物置部屋から出された。
手渡された革袋と私を待ってる侍女を交互に見るけど、どうみても私が動くことを待ってる侍女さんに申し訳なく感じてしまい、部屋を出ることにした。
(お世話になりました。)
私は部屋を出るときに一礼をした。
二週間とはいえ、私が寝泊まりをした場所だからお礼を言いたかったのだ。
「ついてきてください。」
私は侍女さんの誘導でお城の外まで案内されていく。
(あの男の人にもお礼を言いたかったけど・・・無理かな。)
定期的に人がくるように手配してくれた男の人。
感謝を伝えたかったけど急に言われた解放で、伝えることができそうになかった。
(あの人のおかげでトイレは不自由しなかった。ほんと助かりました。ありがとう。)
仕方なく心の中でお礼を言ったとき、私はお城の大きい扉をくぐった。
それと同時に侍女さんの足が止まる。
「私はここまでになります。この先、真っ直ぐ歩くと街に着きます。それでは。」
淡々と仕事をこなす侍女さんだ。
私は彼女に向き直り、頭を下げた。
「お世話になりました。お元気で。」
そう笑顔を向け、私は街に向かって歩き出したのだった。
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「ふぁ・・・街って賑やか・・・。」
お城を出た私はシンプルな石畳を歩いて行き、街に足を踏み入れていた。
露店やお店が立ち並び、たくさんの人が行き来してるのが見える。
「これ・・どこに行ったらいいんだろう・・・。」
どこに向かって足を踏み出せばいいのかわからなかった私は立ちすくんでいた。
その様子を見ていたのか、いろんなお店から客引きの言葉を投げかけられる。
「そこのお嬢さんっ!飲み物はどうだい!?」
「いやいや!飲み物より髪飾りはどうだい!?」
「腹が減ったら何も考えられないぞ!メシはどうだい!?」
いい笑顔で話しかけてきてくれるお店の人に釣られて、私は髪飾りのお店に足を運んだ。
お年を召した女性の店主さんが笑顔で出迎えてくれてる。
「いらっしゃい!」
「えっと・・・すみません、これ・・いくらですか?」
とりあえず近くにあった髪飾りを手に取り、値段を聞いた。
今、私が持ってるお金がどれくらい価値があるのかわからないから調べようと思ったのだ。
「それは200リルだね。こっちだったら120リルだよ?」
「200リル・・・。」
見た目、2000円くらいの物かと思ったことから、1リル=10円という単位なのかもしれない。
問題は私が持ってるこの金色のお金がいくらなのか・・・だ。
「すみません、これしかないんですけど・・・」
そう言って私は革袋から金色のお金を一枚取り出した。
「!?・・金貨!?」
「え、これ、金貨なんですか?」
確かに金色をしてるけど、金貨だと思わなかった私は普通に出してしまっていた。
「ちょ・・!奥においで・・っ!!」
私はお店の人に手を引かれ、奥に連れていかれた。
少し生活感があるような部屋に入れられ、お店の人が部屋の扉を閉める。
「あんたそんなお金、どっから持ってきたんだい!?」
「え?えーと・・・」
「事情があるのかい?まぁ、初めて見る顔だし・・どっかの国の王女さまとか・・・」
「王女!?」
「とにかく!!そんな大金持ってたらいいカモになっちまうよ!!これやるから持って行きな!!」
そう言ってお店の人は斜めがけの少し大きなカバンを私の首にかけた。
革でできたカバンで、古いのか少しくたびれてる。
「え!?いや、もらえませんよ!?」
かけられたカバンを外そうとすると、お店の人は私の手をぐっと押さえてきた。
「いいから!金貨の入った革袋を手で持ってたら危ないから!」
「!!」
そう言われて私は初めて危ないものを持ってるという自覚をした。
万札で厚みができた財布を裸で持ってるようなものなのだ。
「あ・・ありがとうございます・・。」
「変なのに絡まれるんじゃないよ?」
そう言ってくれた優しい店主さん。
私は教えて欲しいことがあってこの店主さんの手をぎゅっと握った。
「あの・・!少し教えてください!お金とか、この国のこと・・・!」
私の顔が切実だったのか、店主さんは少し笑いながら私の手を握り返してくれた。
「やっぱり他所の国から来たんだね?いいよ?なんでも聞いてごらん?」
「はいっ・・・!」
私はこの金貨が1枚でどれくらいの価値があるのかを教えてもらった。
この国での通貨の単位は『リル』で、銅貨、銀貨、金貨が存在してる。
貨幣は千単位で変わるようだ。
「つまり、千銅貨・・・千銅貨で1銀貨。千銀貨で1金貨ってことですか。」
「そうそう、計算が早いねぇ。」
単純に計算すると10円が1リルに値する。
つまり1金貨は10000000リルだから・・・
「・・・1000万!?」
私の手にある金貨が1000万の価値と知って、私はゾッとした。
前の世界の露店で、アタッシュケースごと出すようなものなのだ。
(待って・・この革袋には一体何枚あるの!?)
両手にこんもり乗るくらいの量だ。
恐らく100枚以上はある。
(じゅっ・・10億以上のお金がここに・・・・)
急に怖くなった私は血の気が引いていくような感覚に襲われた。
そんな私を見たのか、店主さんが私の手から金貨を一枚取ったのだ。
「これ、両替してやるよ。ちょっと待ってな?」
店の人はすぐ近くにあった棚に手を伸ばし、革袋を取り出した。
たくさんある銀貨と、銅貨を取り出して数えてる。
「いや・・・待ってください!千枚以上になるんですよね!?ちょっと持てない気が・・・」
1金貨で1000銀貨。1銀貨で1000銅貨。
単純に計算しても2000枚くらいに増えてしまうのだ。
「でも店で使えないだろう?露店で買う串焼きとか10リルくらいだよ?」
「まぁそうですけど・・・・両替する場所とかないんですか?」
前の世界でもあった両替システム。
きっとこの世界でもあると思った。
「あるけど・・・預かってはくれないよ?だから増えるだけだからここでしても変わらないけど・・・」
「あ・・そうですか・・・。」
結局増えることに困ってしまう私。
ふと思いついたことがあって、私はまた店主さんの手をぎゅっと握った。
「そうだ・・!今度買いに来るから前払いさせてもらっていいですか!?」
「はい?」
私はこの金貨・・・つまり1000銀貨の一部をこの店に預けるという提案をした。
次に買いに来た時、その預けたお金から支払いをするというシステムを説明する。
すると店主さんは理解してくれたのか、うんうんと頷き始めたのだ。
「うちは構わないけど・・・・」
「『お金として返してくれ』とは言いません。預けた分以上の商品を買うときは、オーバーした分お支払いします。どうでしょうか。」
「つまり・・・預かった金で何しようがこっちの勝手で、あんたが欲しい商品を渡せばいいって話・・・だね?」
「そうです!!」
簡単に言えば投資のようなことだ。
この店に害はない提案だ。
「私は必要なお金が手に入る。店主さんはお店の商品を新たに仕入れることができる。・・・どうですか?」
そう聞くと店主さんは私の手をぎゅっと握り返してくれた。
「よし乗った!!」
「ありがとうございます!!」
店主さんは近くの棚から分厚い紙のようなものを取り出し、鉛筆のような形をした炭を持って何かを書き始めた。
「えーと・・・1金貨だろう?とりあえず増えちまうけど銀貨と銅貨を渡して・・・あ、あんた名前は?」
「あ・・・万桜です。」
「マオね。ここに書いておくから。服も少しならあるから好きなの持って行きな。これはサービスだよ。」
「あ・・ありがとうございます・・・。」
計算してる店主さんを横目に見ながら、私は服があるところに行って二着ほど頂いた。
貰った大きめのカバンに詰めていく。
「それだけでいいのかい?」
「はい。ちょっと遠くに行きたいので荷物は少ないほうがいいと思って・・・。」
「遠く?どの辺り?」
「その辺はまだ決めてないんですけど・・・あまり人が多くなくて、治安が悪くなくて、食材を買えるところとか・・・どこかないですかね?」
言いながら無理難題かと思い始めた私。
でも仕事もないから一人の時間をゆっくり過ごすのがいいかと思ってそう言う場所が思いついたのだ。
「そうだねぇ・・・。隣の国との境目くらいにある町ならそんな感じだったかねぇ。」
「あるんですか!?」
店主さんはボロボロになった地図を取り出して私に見せてくれた。
「今がここ、ケルス王国城下町だ。ここからこう進んで山を越えて川を越えてまた山をいくつか超えたら・・・あ、この境目にあるケルセンって町だよ。昔、仕入れに行ったことがあるんだ。」
「へぇー・・・。」
「町の人たちはみんな優しかったし、マオのことも受け入れてくれると思うよ。宿もあるし。」
そう聞いて私はその町ケルセンに向かうことに決めた。
遠いなら今川先生と関わることもなさそうだし、お互いに干渉せずに生きていけそうだ。
なんなら国を跨いだって構わない。
「どうやって行くんですか?そのケルセンって町まで。」
「歩きか乗り合いの馬車だね。馬車なら銀貨の単位の方が使いやすいだろうから少し多めに入れておくよ。」
「ありがとうございます!」
「乗り換えないといけないから、『ケルセンの町まで行きたい』っていえば御者が教えてくれるよ。」
店主さんは他にも荷物として必要なものを教えてくれ、私はそれらを頭の中に叩き込んでいった。
崩してもらったお金を受け取り、計算してくれた紙をチェックして私は鞄をかけなおす。
「いろいろしてもらってありがとうございます。この街に戻ってきたときは必ず来ます。」
「あぁ。気をつけてな。マオに似合う髪飾り、いっぱい仕入れとくよ。」
「ふふっ。じゃあ・・・!」
私は手を振りながらお店を出た。
教えてもらったものを準備するため、露店を回っていく。
「えっと・・今日のご飯は軽く食べておいて、明日用にパンと水と果物を少し・・・」
乗り合い馬車は夜行バスみたいに休憩とかはあまりないそうだ。
だから食料や水は先に用意して乗り込み、都度都度自分で補給しないといけない。
「あんまり食べ過ぎたり飲みすぎたりしたらトイレ行きたくなるから、少しずつにしないと。」
そう思いながらも、不測の事態に備えて水は二つ買った。
竹のような水筒に入れられた水だったから衛生面も少し不安だけど、これがここの普通みたいだから仕方ない。
果物に関してはリンゴとオレンジを手に入れることができた。
これをカバンに入れて私は乗り合い馬車の所に向かうことにした。
「あの・・すみません。『ケルセン』に行きたいんですけど、どの馬車に乗ったらいいんですか?」
乗り合い馬車乗り場はたくさんの馬車があった。
まるで夜行バスの乗り場みたいだ。
「ケルセンかい?ならあの一番奥の馬車でアンヤーまで行きな。そこで次の馬車を聞いたらいい。」
「あ・・はい。ちなみにアンヤーまではどれくらい時間かかりますか?」
「そうだな、明日には着くんじゃないか?何もなければ。・・・金は御者に払ってくれよ?」
「わかりました。」
太陽の高さから、今の時間はお昼くらい。
明日のいつ着くのかわからないけど、夜は馬車で寝ることになりそうだ。
(席とか買わなくていいのかな?)
馬車の仕組みが分からない私は、とりあえず教えてもらった馬車に向かった。
そしてアンヤー行きの馬車を無事に見つけることができたけど、私の想像とは違った馬車がそこにあったのだ。
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