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マオの過去。

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目を開けたマオはじっと俺たちを見ていた。

熱が高いからか、状況を理解できてないみたいにぼーっとしてる。


「ぅ・・?ぁ・・?」


俺たちに何かを言いたいのか、口を開こうとするマオだけど上手く呂律が回らないみたいだ。

そんなマオを見てアザレアがぐぃっと顔を近づけた。


「マーオ?お熱高いからもうちょっと寝ていようね?」


まるで『女』のように高い声を出して話し始めたアザレア。

長い髪を耳に引っ掛け、首を少し傾けて・・・『女』そのものになり切ってる。


(出た・・・アザレアの性転術・・・)


見た目がまるで『女』のようなアザレアは、地声は思いっきり男だ。

でもその容姿を利用して仕事をするときもあり、声を変える術を身につけた。

にこっと微笑んで高い声を出せば・・・女になれるのだ。


「ぁなた・・は・・・?」

「自己紹介はあとで。ほら、先にお熱を下げようね。」


アザレアの言葉にマオはゆっくり目を閉じていった。

アザレアは額に乗せてある布をひっくり返し、布団の上からとんとんと優しく叩いてる。


「くそ、もうちょっと視たかったのに。」


すぐに『男』に戻ったアザレア。

俺は『同じ景色』が視えていたのか確認するために二人に問う。


「なぁ、『何が』視えた?」


そう聞くとアザレアとトープは同じ内容を話し始めた。

それは俺が視たのと同じような感じだったけど、俺は最後、意識を弾き飛ばされる直前に視えたものがあったのだ。


(なんか・・木?みたいなのが視えたような・・・)


一本だけの枝のような木。

それを幼いマオが大切そうに撫でてるのが視えたような気がしていたのだ。


(気のせい?)


アザレアの力で眠ってる相手の深い意識まで視ることはできるけど、『視る相手』によって視えるものが違う。

眠ってる者にとって相手が近しい関係や、気を許してる相手だったら別の景色が視えるときがあるのだ。


(まぁ一瞬だったからアザレアとトープは見損ねたのかもな。でも・・・『チオ』って聞こえたような気がする・・。)


最後の最後に視えた景色だったから視えなかったのかもしれない。

そう思っていた時、近くにあった椅子にアザレアが腰かけた。

長い髪の毛を手で払って背中側に全部垂らしてる。


「さて、お前ら、キララとマオの違い・・知りたくねーか?」


ニヤッと笑ったアザレアだったけど、視線をマオに向けた瞬間少しだけ悲しそうな顔をした。

どうやらアザレアの言う『キララとマオの違い』は結構ありそうだ。


「知りたいっていうか・・キララの仕事の様子はどうなんだ?マローは『完璧!』みたいなこと言ってたみたいだが・・・。」


そう言ってトープを見ると、トープは首を縦に振っていた。

なんでもキララは砂漠化していたところに緑を生やしたと、マローが自慢げに話していたことを俺は後で聞いたのだ。


「あぁ、あれな。しばらくは何も変化が無かったらしいんだが・・・マローが第二王子たちと合流した後に緑が生えてきたらしい。」


まだ城の近くにいたアザレアは、キララの仕事内容を外堀から調査していったらしい。


「まー・・結構長い時間町に滞在してたらしいんだけどさ、一向に改善されねーから町民の不満が・・・な。」

「あー・・。」


期待に胸を膨らませていた町民たちは、いつまでも改善されない状況に不満を持ち、宿まで詰め寄った。

それに尻を叩かれるような形になったのか、キララは砂漠化した土地に行き、そこで緑を生やしたのだとか。


「ただ問題があってな。」

「問題?」

「あぁ。改善された場所が『キララが滞在した町全域』ではなく『キララが赴いた砂漠化した土地』だけだったんだよ。」

「は?」


俺たちが聞いてる話では『聖女』はその土地に留まるだけでいいという話だ。

大きく考えたら聖女がこの国にいるだけでいつかは国全体が良くなるということになるけど・・・


「オレが出発するときは砂漠化されてたところはまだ緑があった。枯れる気配もなかったけど・・他が変化ないってのはおかしいだろ?」

「・・・。」

「そしてこの町・・ケルセンに着くまでのところは緑が増えてるじゃねーか。むき出しになってた山肌とか苔生えてるし、木も増えてた、水も増えてる。これはどういうことだ?お前たちの考えは合ってたのか?」


アザレアの問いに、『そうだ』と答えたいところだけど俺は迷っていた。

ここで『そうだ』と言えばマオは城に戻らないといけなくなる。

マオがいなくなるということは子供たちの勉強を診れなくなるというわけで・・・


(マオの意識の中でも視たけど・・子供たちに勉強を教えてるマオ、すっげぇ楽しそうだった。)


きっと子供たちと関わるのが好きなんだろう。

その好きなことを奪うことになるかもしれないことに申し訳なく思っていたのだ。

右も左もわからないような世界に突然呼び出され、元の世界には戻れないと言われて辛い思いをしたはずだから。


「・・・合ってるとは思うけど・・もうちょっと待ってくれ。マオにしっかり伝えないと子供たちも混乱するだろうし。」

「子供たち?」

「あぁ。マオが計算を教えてる。」


俺はマオがケルセンで何をしてるのかをアザレアに話した。

さっき視た光景のようなことをここでもしてることを。

するとアザレアは顎に手を添えて何か考え始めたのだ。


「ふーん?キララとは真逆だなぁ。」

「真逆?」

「あぁ。キララの意識の中は『男』か『金』しかなかった。いろんな男をとっかえひっかえして物を買わせてた。マオと対峙するような光景も視えたけど、キララの中じゃなんとも思って無さそうだった。」

「へぇー・・・」

「あと、キララは今、第二王子たちと夜を共にしてる。お互いに利害が一致したんだろうな。」


その言葉を聞いて俺は思わず大声をあげてしまった。


「はぁ!?夜!?」

「おま・・マオが寝てんだから静かにしろよ。・・・取り巻きの奴らも一緒だ。キララの望みを叶えつつ、聖女として町に浸透させて実権を握る気だろう。」

「本当かよ・・・。」

「嘘なんかいってどうすんだって話な。俺はとりあえず戻るわ・・あ、一応マオを城に連れて来い。ライラックがマオと話をしたがってる。」

「お前も第一王子を呼び捨てにするなよ・・・」


アザレアは立ち上がるとそのまま部屋を出て行った。

残された俺とトープはこの後どうしたらいいのか迷ってる。


「とりあえず熱が下がるまで様子見るか。」

「そうだね、じゃあ俺は食料を手に入れて来るよ。カーマインはマオを見てて。」

「あぁ。」


トープは部屋から出て行った。

俺はマオの額に乗せてある布を取り、桶の水に浸した。

それをぎゅっと絞り、またマオの額に乗せる。


「・・・『マオにしっかり伝えないと』と言ったけど・・言えるわけないよな。ここで楽しそうに暮らしてるのを見て来たんだから。」


勝手な都合で召喚して、勝手な都合で城の物置部屋に閉じ込めた。

そして勝手な都合で追い出しておいて、やっぱりお前が聖女だったからよろしくーなんて言えるわけなかった。

町の人たちと楽しそうに話をして、子供たちに勉強を教えて・・・もうここでの生活が定着しつつあるのにぶち壊すなんてことできないのだ。


「はぁー・・・俺たちの都合で呼んで・・ほんとごめん。」


そう謝りながら俺とトープはマオの額に乗せてる布を一晩中交換しながら過ごしたのだった。












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