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第35話

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足が治ったルーカスはセリーヌの経営する精霊のレストランで働き始めた。ウェイターとしてテキパキと仕事をこなして丁寧な接客を心がけるルーカスは、特に女性客は彼の甘いマスクに思わず見惚みとれてしまい、たちまち人気者になった。

それから店は順調に進んでいた。その日セリーヌは朝に定期購読している新聞を何気なく眺めていると意識が固まってしまう。信じられないといった表情で呆然とした理由は、自分が生まれ育った国のヴァレンティノ王国が事実上崩壊したと書いてあったのだ。

「え……!?」

セリーヌは記事に目を走らせる。何でもとんでもない災難が起きたらしい。城の上空に突然巨大な竜が現れて王都を攻撃してきた。最初竜は浮遊していただけだったが、何か気分を害したのか?竜は城を壊し始め、高出力な火炎ブレスを何発も浴びせて周囲一帯が焼け野原になった。観光の中心地として栄えた美しい街並みは無残に破壊しつくされた。

さ晴らしを終えて竜が去って行くとさらに魔物の大軍勢に攻め込まれたという。これでは国が崩壊するのも仕方がないと書かれていた。だがどうしても納得できないという意見もある。ヴァレンティノ王国は長年に渡って聖女の結界で守られていたなのに一体何が起こったと言うのか?と疑問視する声もあった。

「これ私と仲良しのドラゴンさんじゃないの?」

セリーヌは口をついて出る。記事にはいくつか写真があり変わり果てた国を見てセリーヌは切なくてつらくて、いたたまれない気持ちが押し寄せてくる。だがその写真の中に国を滅ぼした竜が載っていた。どのような経緯で撮影されたのか分からないが、国で平和に暮らしていた人が逃げ惑いながらカメラのレンズを向けたのだろう。竜が暴れている姿がはっきりうつっている。

セリーヌは竜の写真を見て確信したような顔になる。幼い頃に竜に気に入られたセリーヌは能力を与えられて人間では到達できないほどの力を手に入れた。セリーヌにとって最も親しい友人という存在である。

実は今までに何度か会った事もあった。竜はセリーヌの事が気になり国に来るときは、人間の姿に化けているが街から離れて二人きりで会った時は本来の姿に戻った。その竜にそっくりだったことを思い出して、洞察力に優れたセリーヌはとたんにはっと顔色をかえた。

(ドラゴンさんに何も言わずに国を出たから心配してるよね?)

自分の家族は大丈夫だろうか?婚約者だったフレッド王子に幼馴染のアランは無事に生きているのか?色々な考えを巡らせました。濡れぎぬを着せられて追放されても彼らの事を本気で心配した。特にセリーヌはかけがえのない大切な親友である竜に、何も知らせずに国から消えたことが気がかりでならなく思えてくるのだった。
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