聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放！」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。

第62話

「――ふざけるな！」

その攻撃的な声で店の中が急にざわざわと騒がしくなった。今はお昼頃ということもあり、精霊のレストランは空席がないほど客が一杯になって客たちは美味しい料理を堪能していた。

その時に店中に響き渡るような怒鳴り声が聞こえてきたら、客たちは何が起こったのかとただならぬ状況に不安な思いを抱えていた。ホールスタッフのリーダーのニーナはすぐに大声を上げた客のもとに向かった。

「お客様いかがなされましたか？」

ニーナが到着するとアランと客の男性が怒りの表情で睨み合っている。ニーナは冷静な態度で落ち着いた声で話しかけた。

「アランなにしたのよ！」

すぐ後ろにいたセリーヌがアランに厳しい声で詰め寄った。セリーヌが身にまとっているのはウェイトレス服である。セリーヌは店のオーナー兼ウェイトレスをしているので、客にコーヒーのお代わりを運んだ直後に怒ったような声を聞いて急いで駆けつけてきた。

「俺は客の喧嘩を止めてただけだ」
「そうなの？」
「勘違いするな。俺はなにもしてない」

お前が問題を起こしただろうとセリーヌに詰問するような鋭い言葉で非難されたが、アランは自分は無実だと言葉を返してきた。セリーヌは声のトーンが小さくなって表情は困惑した感じに変わった。

アランの説明によると店内で騒ぐ迷惑な客がいると他の客から苦情を受けてアランは対処するために向かった。現場に行くと若いカップルが喧嘩をしていた。アランはさっそく事態を収束するよう努める。最初は優しく店内ではお静かにお願いしますと仲裁役に徹していた。ところが恋人と言い争いをして気持ちが高ぶっていた男性が、お前は関係ないから黙って引っ込んでろと言ってきた。

そう言われてもはい分かりましたと黙って引っ込んでいられるわけもない。ウェイターとして他の客に快適な食事環境を提供するのも大切な仕事なのだ。アランは背が高く筋肉質な体格をした元騎士団長なので荒事には慣れている。一般的な普通の男性に怒鳴られたところで身を震わせるようなことはなく平然としていた。

「俺はこのレストランのウェイターだ。他の客からうるさいと苦情があってきたんだ。迷惑な客を黙って見過ごすわけにはいかない」

アランは臆することなく怒っている客の男性の視線を受け止めて毅然きぜんとした態度を取る。男性は驚いた顔でこの店にこんな怖い店員がいたのかと思って心は恐怖感に怯えていた。男性はヘビに睨まれたカエルのように体がすくんで動けなくなった。

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